「ソニーFHDの尾河眞樹さんに聞く(1) 米大統領選挙、トランプ大逆転の可能性は?」からつづく)
■投票から1年後は米ドル安が進みやすい
次に聞いておきたいのが、米大統領選挙と為替市場との関係。選挙は為替にどんな影響を与えるのだろうか。
「過去の米ドル/円を見ると、投票日に向けて米ドル安・円高となる傾向が見られます。
有権者に対するリップサービスとして、保護主義的な発言が目立つためだと思われます。ところが、投票日を過ぎると新政権への期待もあってか、米ドル高・円安となりやすいようです」
投票日を過ぎると新政権への期待もあってか米ドル高・円安になりやすいと尾河さんは指摘する
今回の選挙でもヒラリーさん、トランプさんともにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対など内向きの発言が目立つし、為替報告書では「日本の政治家は介入をほのめかしてけしからん!」と強気。
投票日の1年前となる昨年(2015年)11月の米ドル/円は120円台。そこから約20%の円高が進んでいる。このシナリオに当てはめれば、11月以降は円安再開となる。
「ただし、リーマンショックのあった2008年は例外です。今回も例外になるとすれば、トランプさんが当選した場合でしょう」
■長期サイクルは「2017年が米ドル高ピーク」を示唆
トランプ当選の場合はやはり円高が濃厚。でも、その話はもう少しあとでじっくり聞かせてもらおう。
「そもそもドルインデックスには、(1)7年間の下落、(2)3年間の2番底、(3)5~6年間の上昇という長期サイクルがあります。それに当てはめると、今は(3)の米ドル高の時期。それも2017年が6年目となります」
(出所:CQG)
ドルインデックスの長期サイクルからすると、足もとは米ドル高最終局面にあるという。
「2017年後半は循環的にも米国景気が減速してくる可能性があります。来年(2017年)末までに3度の利上げが見込まれてもいるため、米景気にブレーキがかかってくる可能性がある。
現在の米ドル高がさほどでもないため、そう深い米ドル安にはならないと思いますが、来年には方向転換が始まるかなと思っています」
過去の投票日前後の値動きと、ドルインデックスの長期サイクルと合わせて考えると、来年後半までは米ドル高が進行、年末までには二番天井を付けて米ドル安へ転換、といったシナリオか。
(出所:CQG)
■アベノミクスの継続で円高は限定的に
「当初は安倍総理と黒田日銀総裁の任期が2018年に満了となるダブルのショックに警戒していました。
しかし、年明けにも解散総選挙との風が吹き始めました。そうなると2020年まで安倍政権が続く道筋も見えてきます。
このように円高要因が払拭されることで、米ドル安がそんなに深くならないのかもしれません」
米ドル安がそんなに深くならないかもしれないとの見方を示す尾河さん。そこには日本の政局が関係してくる。
ならば、米大統領選後の米ドル高で、米ドル/円は2015年高値125円を超えてくる展開もあるか。
「そこまでいくと政治的にちょっとね、というところがありそうです。ドルインデックスが100を超えてくると、米ドル高がメディアでも騒がれてくるでしょうし…。
米ドル/円は100円を割らないけれど、110円も超えていかないくらいの水準が日米にとって居心地のいい水準なのかもしれませんね。
そのくらいだと、日銀がバズーカをガンガンふかすという状況でもないですし、アメリカの利上げもゆるやかなペースになりそうですから」
(出所:CQG)
■米大統領選の投票日前にも注目イベントが!
これが尾河さんの長期的な見通し。でも、Brexit(英国のEU離脱)の記憶があるだけに短期的な値動きも気になるところ。
最後のテレビ討論会も終わり、今後、投票日(11月8日)までに相場が動きそうなイベントはあるのだろうか?
「11月1日、2日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されますが、無風でしょう。
政策を変更することはまずないし、声明文の景気判断などが市場の憶測を呼んで、株式市場を下落させるようなことがあれば大統領選に影響するかもしれません。
そんなことがないよう、細心の注意を払うと思います」
(本記事の取材は10月21日(金)に行っています)
■11月4日発表の米雇用統計とトランプの関係
11月4日(金)には米雇用統計の発表も控えている。
「これがけっこう大事なんです。今年(2016年)9月、10月発表分は弱い数字が続いています。
『7月、8月発表分が良くて、9月、10月分が悪い』というのは昨年(2015年)と同じ。
ただ、昨年は11月発表分が強い数字だったため、12月に利上げできました。昨年のペースで考えるなら、11月4日(金)発表の数字が強くないといけない」
これが弱い数字になると12月の利上げ期待が遠ざかり、リスクオフムードが強まるかも。
「市場にショックをもたらすようだと、トランプさんが『それ見たことか! 去年、利上げなんてしなければよかったんだ』と勢いづくかもしれません」
■ヒラリー当選なら「年末107円」が見えてくる
米雇用統計を無事に乗り越えて、いざ迎えた投票日。「ヒラリー当選!」の一報が流れたら、相場の反応は?
「『トランプではなかった』という安心感から初動は株高となり、円安になるかなと思います。
ただ、市場の注目はすぐに12月利上げの有無へと移っていくと思います。利上げ環境が整ってくるようなら、今年(2016年)の年末には米ドル/円が107円近辺まで上昇する見込みが出てくる」
尾河さんは、米利上げ環境が整ってくるようなら、2016年年末には米ドル/円が107円近辺まで上昇すると見込んでいるという
ヒラリーさんなら市場の反応は巡航速度といった感じで、そう大きな動きにはならなそう。問題はやっぱりトランプ当選の場合だ。
「一次的なリアクションとして、円高になる可能性が高い。
勝利には至らなくても開票途中に、たとえばフロリダやオハイオといった重要な州でトランプさんが勝てば、それだけでバタバタと円高が進むかもしれません。
トランプさんの勝利が確定すれば、100円割れもあるかなと思います」
トランプ当選ならBrexitの再来、「リスクオフの円買い」が強まりそう。
■トランプ支持率のバロメーター・メキシコペソ
「トランプさんが『国境に壁を作る!』と吠えているメキシコのペソも売られるかもしれません。
投機筋がトランプ支持率のバロメーターのように売ったり買ったりしていますから。
でも、じゃあトランプさんが大統領になったら、どれだけメキシコの実体経済にインパクトがあるかというと、さほどでもないかもしれません」
「アメリカとメキシコの国境に壁を作る! 費用はメキシコ持ちな!」とトランプさんは吠えているが…。
「移民対策のわかりやすいターゲットとしてメキシコをやり玉に挙げていますが、実際に壁を作れるとは思えませんし、米大統領選にここまで一喜一憂してメキシコペソが動く必要があるかは疑問です」
メキシコとの国境に壁を作るというトランプさんだが、実際に壁を作れるとは思えないと尾河さんは指摘。ここまでメキシコペソが動く必要があるのかも疑問だという
今はトランプさんの支持率が上がればメキシコペソが売られ、トランプさんのスキャンダルが持ち上がればメキシコペソが買われと、バロメーターになっているが、それも一過性の動きのようだ。
【参考記事】
●4.75%の高金利!カギはトランプ氏が握る!? 今、メキシコペソが注目されるのはなぜ?
ヒラリー当選なら基調は円安方向も大きく動かない可能性もありそうだが、トランプ当選だと急変しそうな11月9日(水)の為替市場。値動きに振り回されないよう、事前に戦略を練って備えておこう。
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/小島真也)
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