■緩和縮小の思惑を呼んだ黒田講演
先週(11月13日~)のマーケットで話題になったのが「リバーサル・レート」。金利が一定水準を下回ると金融仲介機能に悪影響を及ぼすとする理論です。
11月13日(月)にスイスで行なわれた黒田日銀総裁の講演で言及されたことから、一部で持ち上がっていた追加緩和論への牽制、さらには「緩和縮小への地ならしなのでは」と受け止められているようです。
黒田総裁はスイスでの講演で「リバーサール・レート」に言及。これは、金利が一定水準を下回ると金融仲介機能に悪影響を及ぼすとする理論だそうで、緩和縮小への地ならしと受け止められているそうだ (C)Bloomberg/Getty Images
「今すぐどうこう」という話ではないですが、円を売っている人は気持ち悪さを感じることはたしか。
米ドル/円をロングしていたら手仕舞っておこうかなという気持ちになるでしょうね。
■IMMの円ショートは2013年以来の高水準
ところがIMM(国際通貨先物市場)を見ると、先週(11月13日~)も円ショートは拡大し13.6万枚。2013年12月以来の高水準に積み上がっています。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
ただし、このデータは先週、11月14日(火)時点でのポジションであって、15日(水)以降のポジション動向は反映されていません。
黒田日銀総裁の講演が充分に織り込まれているとは言えないですが……。
IMMのポジションの積み上がりは気になりますが、その調整であれば2円から3円程度の下落でしょう。
もし本当に日銀の緩和縮小を織り込みにいくなら、米ドル/円は110円割れどころか100円割れのインパクトがあります。
(出所:Bloomberg)
黒田さんは「現時点で金融仲介機能は阻害されていない」としているし、政策変更に言及したわけでもありませんが、市場関係者の多くが気にしだすと、米ドル/円の調整を深く、長くさせる可能性はあるでしょうね。
まだ「ゲームチェンジャー」になるわけではない、ということですね。一方、株式市場では日経平均が下げてきました。
前日比470円高から800円以上下げて終値は結局、前日と同水準と、乱高下した11月9日(木)が目先の天井になるのかなと思います。
(出所:Bloomberg)
これが中期の天井なのか、12月に上昇再開となるかは意見がわかれているところ。
■税制改革法案の上院通過でセル・ザ・ファクトへ?
米ドル/円はいかがですか? 先週(11月13日~)後半は112円割れの場面もありました。
米ドル/円は9月8日(金)からの上昇で115円台に乗せられれば、もう一段上がる可能性を秘めていたのですが、今年(2017年)何度も跳ね返されたように、今回も失敗。
日経平均も目先の天井を付けた形となっており、下方向に注意しています。
(出所:Bloomberg)
アメリカ側の材料を見ると、税制改革法案が下院で可決され一歩前進。
個人的には12月18日(月)からのクリスマス休暇が始まるまでに可決にこぎつけるんじゃないかと思うのですが、まだ予断を許しません。
現状では税制改革への期待と思惑が米国株を支えているように見えますが、これがさらに前進し、上院も通過すれば「材料出尽くし」となって米国株が崩れてくる可能性もありませんか?
税制改革の内容は明らかとなっており、あとは成立を待つだけ。すべての料理はテーブルに乗った状態です。
期待以上に美味しい料理は出てこないわけですから、成立したら「ごちそうさま」で、セル・ザ・ファクトになる可能性は高いでしょうね。
ただ、成立まで落ちにくいこともたしか。米国株はダラダラとしながら前回高値を抜いたり、ダマシ的な動きを見せることもありそうです。
(出所:Bloomberg)
税制改革法案の前進を材料に上昇する局面があっても、最終的にはセル・ザ・ファクトの動きとなる可能性に注意して高値追いしないことですね。
今週(11月20日~)のイベントですが、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録が22日(水)(日本時間23日午前4時)に発表されます。来年(2018年)以降の金利引き上げのペースやインフレ見通しについて、どんな議論が交わされたのかがポイントでしょうか。
FOMC議事録発表の前日、11月22日(水)日本時間午前8時には、FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長の講演もあります。
FOMC議事録発表前の緩衝材として講演をセットしたと見る人もいるようなので注目でしょうか。
FOMC議事録発表の翌日、11月23日(木)は感謝祭(サンクスギビングデー)のためアメリカが休場。
11月24日(金)も年末商戦の始まりを告げる「ブラックフライデー」で市場は短縮。そう考えると、今週(11月20日~)は、実質3日間だけですね。
■米ドル/円の戻り売りを継続
このところ、オセアニア通貨やトルコリラ、メキシコペソなどの新興国通貨が崩れています。米利上げやレパトリ減税の影響でしょうか?
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
少なくとも新興国通貨は、そうでしょう。
ただ、オセアニア通貨は、このところ大きなテーマがなく方向性が定まらない。様子見ですね。
原油市場では11月30日(木)にOPEC(石油輸出国機構)定例総会が迫っています。そろそろ事務方の協議がニュースとなってくるころ。
ファンドのポジションはロングが積み上がっており、OPEC総会に向けたラリーが継続していることを示しています。
ただ、よほどのポジティブ・サプライズがなければ、ファンドの手仕舞い売りだけでも原油価格は崩れそう。原油価格の動向が米国株に及ぼす影響にも留意しておきたいですね。
(出所:Bloomberg)
IMMで円ショートが積み上がり、生保も買っているようなのに米ドル/円は上がらない。買い手は見えているのに上がらないとなると、下がりやすいのでしょう。
(出所:Bloomberg)
しばらくは、下値を試す展開が続くかなと思います。今週(11月20日~)は、米ドル/円の戻り売りの継続ですね。
(構成/ミドルマン・高城泰)
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