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トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、
落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す

2018年05月23日(水)12:00公開 (2018年05月23日(水)12:00更新)
ザイFX!編集部

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(「下落止まらぬトルコリラ相場を天才トルコ人ストラテジストが解説! 山場は6月大統領選」からつづく)

世界の地政学の「断層」!? 「新しい東西冷戦」とは?

ひろこ シリア情勢も非常に気になるところですが、トルコの外交面はどうなっているのでしょうか?

エミン まず大きな絵を見てみましょう。

この地図はシリア内戦に関与している国に色を付けたものです。アサド政権を支援している国は、イラン、ロシア、中国、イラク。反アサド勢力に肩入れしている国は、アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、トルコです。今、「新しい東西冷戦」が始まっているのかもしれません。

シリア内戦に関与する国々

(出所:複眼経済塾)

ひろこ この地図の赤い線は何を示しているのですか?

エミン赤い線は世界の地政学の「断層」を示しています。この線上にあるのはウクライナ、シリア、イラク、サウジアラビア、イエメン、そしてトルコ――。

ひろこ いずれも今、地政学上の注目が集まっている国ですね。

エミンこの赤い線の東側と西側で陣営が別れていますシリアは東側と西側のプロキシー(代替)戦争の舞台となってしまったんです。

トルコは対クルドという意味では反米、親ロシア

ひろこ トルコは東と西、どちら側なのでしょうか。

エミン トルコ軍が戦っているのはクルド人勢力。そのクルド人勢力を支援しているのがアメリカです。したがって、対クルドという意味においては、トルコはアメリカといっしょにはなれないのです。

もうひとつ、2016年のクーデター未遂事件の背後にいたのはアメリカやNATO(北大西洋条約機構)だとエルドアン大統領は考えています。だからこそ、クーデターの直後からロシアに急接近したわけです。

【参考記事】
クーデター騒ぎ勃発でトルコリラが急落! 急落でも問題なくスワップで儲ける手法

トルコは東と西、どちら側なのか?という大橋さんの質問に対して、対クルドという意味ではアメリカと一緒になれないと話すエミンさん。2016年のクーデター未遂直後からロシアに急接近しているというが、最近は、そのバランスが崩れているとも…

トルコは東と西、どちら側なのか?という質問に対して、対クルドではアメリカと一緒になれないと話すエミンさん。2016年のクーデター未遂直後からロシアに急接近しているというが…

米国主導のシリア攻撃についてはトルコは支持を表明

ひろこ 一方、矛盾するようですがトルコはNATOに加盟しており、アメリカの同盟国でもあります。

4月にはアメリカとイギリス、フランスがシリアへの攻撃を行ないました。

エミンこのシリア攻撃についてはトルコは支持を表明したんですね。そうなると、ロシアとイランが反発しました。

エルドアン大統領としてはクルド人勢力をユーフラテス川の東海岸に追いやりたい。もし、トルコの南側の土地を抑えられてしまうとクルド人勢力が海への出口を手に入れることになり、「クルド国家」の骨格ができてしまいます。

それを防ぐために今までトルコはロシアやイランと手を結んでいた。しかし、アメリカが武力を行使したことで、そのバランスが崩れつつあります。

シリア内戦の最新状況(クリックで拡大)
シリア内戦の最新事情

(出所:複眼経済塾)

エルドアンの得意技は手のひら返し!? 米国と雪解けもある

ひろこ そうなるとトルコの外交的立場も変わりそうですね。

エミン エルドアン大統領を評価すべき点のひとつが、政治的な柔軟さです。よくも悪くも一瞬で手のひらを返すことがあります

ひろこ 今は親ロシア派だけれども、なにかのきっかけでアメリカに寄っていくこともあるということですか?

エルドアン大統領を評価すべき点は、政治的な柔軟さだというエミンさん。それについて、大橋さんは今は親ロシア派だけど、なにかのきっかけでアメリカによっていくこともあるのか質問してみたところ…

エルドアン大統領を評価すべき点は、政治的な柔軟さだというエミンさん。それについて、大橋さんは今は親ロシア派だけど、なにかのきっかけでアメリカに寄ることもあるのか質問してみたところ…

エミン これはエルドアン大統領の評価すべき点ですが、彼はいつ態度を変えるかわかりません。

この2年間はロシアやイランと仲良くしたほうがいいと判断していましたが、アメリカの軍事介入が強まり。中東のバランスが変わってくれば再びアメリカとの距離を縮める可能性もあるでしょう。そのときどきの状況次第です。

エミンさんは、シリアへのアメリカの軍事介入が強まり中東のバランスが変わってくれば、再びトルコがアメリカとの距離を縮める可能性もあるという

ひろこ イデオロギーではなく、状況を読んでどの国に近づくかを決めるんですね。それは国民にとっては心強いですね。

アメリカとトルコは今、ビザの発給を停止しあうなど険悪なムードが漂っていましたが、雪解けすることも十分にありえるんですね。

米ドル/トルコリラ 週足
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(出所:Bloomberg)

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トルコリラ下落はシリア内戦とともに開始。その逆が起こる!?

ひろこ トルコリラの中長期的な見通しはいかがでしょうか?

エミン このチャートを見てください。トルコリラの下落が始まったのは、シリアの内戦が始まったのと同じタイミングです。つまり、シリア情勢が落ち着けば、この流れが逆に行く。

6月の選挙によって短期的な上下動はあるかもしれません。しかし、エルドアン大統領が勝とうが負けようが中長期的にはポジティブではないかと思います。

米ドル/トルコリラ 月足
米ドル/トルコリラ 月足

(出所:Bloomberg)

ひろこ シリア情勢次第ということですね。3月にアメリカがシリアを攻撃したのは米国内向けのパフォーマンスに過ぎないと見る人もいます。エミンさんはどう考えますか?

3月にアメリカがシリアを攻撃したのはパフォーマンスだったのか質問する大橋さん。まだまだ、シリア情勢は混沌とした状況は続くのだろうか?

3月にアメリカがシリアを攻撃したのはパフォーマンスだったのか質問する大橋さん。シリア情勢は混沌とした状況が続くのだろうか?

エミンパフォーマンスではないでしょう。ただ、アサド派も反アサド派も永遠にシリアで争うわけにはいかない。

来年(2019年)には譲歩しあって今のアサド派が生き残る形であれ、アサドが辞任する形であれ、なんらかの和平が結ばれる可能性もあると思います。

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揺れる北朝鮮。エミンさんの懸念は「南北統一コスト」

ひろこ 中東と同様、東アジアも揺れています。今年(2018年)に入り、北朝鮮情勢は急速に動き出しました。エミンさんにはどう映っていますか?

エミン 先を見すぎているかもしれませんが、気になるのは南北統一のコストです。ドイツでは東西が統一したとき、20年間で200兆円もの統一コストがかかりました。

ひろこ すごい金額ですね。

エミン 当時の東ドイツは世界17位の経済大国でしたが、それでも200兆円です。北朝鮮のGDPは125位ですから、200兆円どころではないかもしれない。

ドイツでは東西が統一したとき、20年間で200兆円ものコストがかかったという。韓国と北朝鮮の統一は、それどころではない金額になる可能性もあるそうなのだ。いったい誰が負担するのか…

ドイツでは東西が統一したとき、20年間で200兆円ものコストがかかったという。韓国と北朝鮮の統一は、それどころではない金額になる可能性もあるそうだ。いったい誰が負担するのか…

ひろこ 統一コストを誰が負担するのか。「日本も応分の負担を」という話になるでしょうか?

南北統一コストを日本が負担する可能性について質問する大橋さん

エミン 「日本のせいで分断したのだから」と請求される可能性はあるでしょう。そもそも韓国人は統一したいのだろうかという疑問もあります。統一に対して高齢者はエモーショナルなアタッチメント(執着)もあるでしょうが、若い人には関係ない。

ただでさえ失業率が高まっている中で統一すれば、自分たちの職を奪われるかもしれない。韓国の若者は切実に心配しているでしょう。

本当の貿易戦争は「モノを売らない」

ひろこ 現実的に統一の可能性はどう考えますか?

エミン 東西ドイツの統一ではソ連の崩壊というバックグラウンドがありました。しかし、今の北朝鮮にはそうした事情がない。

金正恩が自らの体制を放り出すとは考えにくく、内政は別の体制を維持したまま、外向きにはひとつの朝鮮といったような国家連合をめざすのかもしれません。中国が崩壊するようなことでもあれば話は別ですが。

ひろこ 中国とアメリカの貿易戦争も始まっています。報復関税の応酬がありましたし、4月には中国企業のZTEへ米企業が製品を売ることを禁止する措置もとっています。

エミン 本当の貿易戦争は関税や「我が国の製品を買え!」と要求するのではありません。「うちの製品は売らないよ」ということなんです

エミンさんいわく、本当の貿易戦争とは自国の製品を対象の国に売らないことだという。米企業が製品を売ることを禁止した中国企業のZTEは、部品調達ができず、苦境に陥っている

エミンさんいわく、本当の貿易戦争とは自国の製品を対象の国に売らないことだという。米企業が製品を売ることを禁止した中国企業のZTEは、部品調達ができず、苦境に陥っている

ひろこ 日本が太平洋戦争へと突入したときもそうでした。

エミン 1973年のオイルショックでも原油の禁輸措置から中東戦争が始まりました。2010年には尖閣問題の先鋭化から、中国が日本に対して「レアアースを売らないよ」と言った。これも貿易戦争です。

アメリカはこれを理解しているでしょうし、長期的な国家政策として貿易赤字を縮小させようとしているのでしょう。

(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/和田佳久 編集担当/庄司正高)

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