■市場心理から見る「強いトレンド」とは?
米ドル高の勢いは止まらず、米ドル全面高が続いている。

(出所:Bloomberg)
すでに強いトレンドを形成しており、また、これからも米ドル高の余地が拡大する、といった視点は、筆者が今まで繰り返し指摘してきたとおりなので、いまさら理由付けしなくてもよいかと思う。
【参考記事】
●米ドル「1人勝ち」の状況は当面続く! 高金利三兄弟の新興国通貨はキケン!?(2018年5月11日、陳満咲杜)
●米中貿易戦争は緩和どころか激化している! なぜ、それでドル全面高になっているのか?(2018年5月2日、陳満咲杜)
ところで、強いトレンドとは何かと聞かれると、テクニカルの検証よりも市場心理から見れば、よりわかりやすいかと思う。
いつものように、米ドル全体が低迷し、また、安値圏での保ち合いが続いていた頃、市場センチメントは米ドル安に傾き、米ドル高の見方に総じて懐疑的であった。
そして、米ドル高になればなるほど、市場センチメントも米ドル高に傾き始め、ウォール街も米ドル高のターゲットを大きく掲げ、そういった見通しにいろいろ理由を付け加えている。
筆者が5月2日(水)の本コラムにて指摘したユーロの長期ターゲットである「パリティ割れ」が、今やウォール街大手のレポートに同じように書かれている。これがまた、いつものように、これから市場センチメントの形成に大きく寄与していくだろう。
【参考記事】
●米中貿易戦争は緩和どころか激化している!なぜ、それでドル全面高になっているのか?(2018年5月2日、陳満咲杜)
■「セルインメイ」は下火に、米長期金利3.1%超えるも株堅調
すでに5月下旬に近づいてきたこともあって、巷で持てはやされた「セルインメイ」の論調はすっかり下火になった。
また、同じ5月2日(水)のコラムにて指摘したように、「米長期金利が3%を超えると米国株下落」といった見方は単なる都市伝説にすぎず、足元の米長期金利(米10年物国債利回り)はすでに3.1%を超えているにもかかわらず、米国株はむしろ月初めの安値から持ち直し、地合いが好転しつつある状況だ。
(出所:IG証券)
■「正解者」すら困惑する状況こそ、強いトレンドの証明材料
当然のように、市場センチメントも修正されつつあり、また、これからも修正されていくと思うが、強いトレンドを証左するには、単に市場センチメントの変化という総論だけでなく、もう少し細かい論議をする必要がある。
何しろ、市場センチメントは同じ見方や見通しのみでなく、当然のように反対の見方や思惑も含めて形成される。言い換えれば、市場というものは常に反対意見や反対売買があるからこそ成立するわけだから、市場センチメントは市場参加者の「総意」にすぎず、それだけでは詳細にはわからないはずだ。
では、トレンドの強弱を測る市場心理として何が一番有効かというと、ズバリ「正解者」たちの心理が挙げられる。
正解者の定義は少しややこしいが、簡単に言うと、「トレンド転換の前からトレンドの転換を予測でき、また、転換されたトレンドに乗り、利益を叩き出した者」だとすればわかりやすいかもしれない。が、強調したいところは正解者たちが自らの判断に自信をもち、また、それで利益を出したにもかかわらず、トレンドの進行に困惑し始めたら、それは1つのサインだといいうことだ。
要するに、事前にトレンドの転換を予測できず、また、トレンドに乗ってこなかった方々、さらには逆張りして損してしまった者がトレンド進行の勢いに困惑するのは当たり前で、取り上げる価値さえない。
しかし、最初からトレンドの転換にかけ、また、いち早くトレンドに乗り、さらに途中でも追撃、そして、当然のようにすでに相当の利益を計上した者までトレンドの強さに「困惑」し始めたら、これこそ強いトレンドの証明材料になるのではないかと思う。
仮に最初からトレンドに乗っていたとしても、その多くはすでに利益を確定し、押し目を狙って再度エントリーのチャンスを狙う。ところが、「押し目待ちに押し目なし」といった状況が続き、最初の正解者さえトレンドが「強すぎるのでは…」と思い始めたら要注意だ。
このような市場心理の出現自体が、強いトレンドを証左するもっとも強力な材料だと強調しておきたい。
■米ドル高トレンドの強さは「正解者」の見込みを上回っている
言うまでもないが、足元の状況はまさにそのとおりだ。米ドル全面高はほぼ一本調子に進んできた分、最初から米ドル高を見込んでいた者ですら、米ドル高のスピードについていけなくなってきた可能性が大きい。何を隠そう、筆者もそのうちの1人だ。
執筆中の現時点で、米ドル/円は111円の大台をいったん打診しており、週足では「8連陽」を達成するのもほぼ間違いなしだ。
(出所:IG証券)
仮に筆者と同じく、最初から米ドル高を見込んでいた方々だとしても、果たして最初からこのような強い米ドル高を見込めただろうか。また、米ドル高のトレンドに乗って利益を出したとしても、市況に照らして利益を伸ばしてきているだろうか。
答えは「ノー」、と言う方が多いのではないと勝手に推測するが、別に恥ずかしいものではない。相場の難しいところは、実にそこ(利益を伸ばす)にあるから、今さら感心する必要もなかろう。
■現在の米ドル高トレンドが「本物」である根拠とは?
話を相場の検証に戻すが、言いたいことは以下の2点に帰着するのではないかと思う。
まず、米ドル高のトレンドは、最初からの「正解者」すら「困惑」するほど強いから本物である。
次に、米ドル高のトレンドは、最初からの「正解者」すら「困惑」するほど強いから、目先行きすぎである。
米ドル/円の例でみると、週足における「八連陽」は2016年11月のトランプ氏当選から同年末まで続いた大幅な米ドル高、すなわち「トランプラリー」(6連陽)を超えた記録となり、ユーロ/米ドルの週足では「5連陰」をもって2015年以来の記録を塗り替えている。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
ここで誤解のないように書き加えるが、週足における「連陽」や「連陰」自体はトレンドの強さを証明するサインであり、トレンド自体が行きすぎかどうかはこれだけではわからない。重要なのは、前述のように特定の局面との比較である。
このあたりの検証はまた次回に譲るが、より重要なロジックを先に書いておきたい。それは他ならぬ、本物のトレンドは必ず行きすぎをもたらし、また、特定の局面の記録を塗り替えるほどそのトレンドが強い、ということだ。
ある意味では、市場参加者全員を困惑させない相場やトレンドでは、そのトレンドを判断する安心感を得られないから、目下の状況は米ドルロング派にとって朗報だ。
詰まるところ、米ドル高のトレンドはこれからも続き、また、米ドル高はまだまだ初歩段階といえる。市場参加者全員の「困惑」もこれから変化していくから、市場心理のフォローが大事であり、これからも続けていきたい。市況はいかに。
(14:00執筆)
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