■米ドル全面高につれ、市場に著しい変化が2つ!
米ドル全面高の勢いは、一服の兆しが見えたものの、総じて堅調な基調を保ち、昨年(2017年)年初来の下落トレンドに対する修正が続くだろう。
もしも、米ドル全面高の調整が先行するならば、それはより健全な上昇波の形成につながるから、むしろ歓迎されるべきかと思う。
(出所:Bloomberg)
米ドル全面高につれ、マーケットには著しい変化がもたらされた。特に以下の2点が鮮明である。
まず、米ドル高で新興国通貨危機の様相を呈していること。
次に、市場センチメントが米ドル安一辺倒から修正されていること。
■新興国通貨危機はミセス・ワタナベにとっても一大事
新興国通貨危機については、アルゼンチンペソ安を止めるべく、アルゼンチン中央銀行が市中金利を40%へ引き上げたのが象徴的な出来事だ。
【参考記事】
●デフォルト常習犯のアルゼンチンが緊急利上げ連発で政策金利40%に! 一体なぜ?
米ドル高は、米利上げ余地の拡大や米長期金利の上昇と連動する側面が強まり、新興国どころか、香港ドルの下落で見られたように、一部先進国や地域の通貨も軒並み切り下げ、国際資金の米国還流の流れを示唆。また、これからさらに本格化していく可能性が大きい。
ミセス・ワタナベ(日本の個人投資家)さんにとっても他人事ではない。なにしろ、スワップ金利を狙うトレード、すなわちキャリートレードの流行りといえば、最近の傾向はトルコリラやメキシコペソ、南アフリカランドだ。
この「高金利三兄弟」のロングが代表的であり、好まれているが、トルコリラの売りが凄まじく、メキシコペソの下落や南アフリカランドの頭打ちに照らして考えると、キャリートレードの環境はこれからさらに悪化していく可能性がある。
(出所:IG証券)
■利上げに関して、米国は当面「孤高」の道を行くだろう
トランプ政権になって以来、米国株の変動率が拡大し、また、今年(2018年)に入ってからさらに波乱の展開となってきたが、米経済成長自体は軌道に乗っており、軌道から外れずにいるのは確かだ。
4月米失業率はこの17年半で最低の水準を記録し、財政収支は史上最高レベルの黒字となっており、6月利上げもほぼ懸念なしなので、単純に利上げ見通しで判断するなら、米ドル「1人勝ち」の状況が当面続く、という可能性は無視できない。
なにしろ、昨日(5月10日)、英中銀の金利据え置きが物語るように、利上げ周期に入った英国さえ足踏み状態なのだから、米利上げは当面「孤高」の道を行くだろう。
ECB(欧州中央銀行)の金融政策正常化には、マーケットから過大な期待が寄せられたものの、期待先行で、また、過剰だった分、今はそれが剥落していく段階にあり、日銀に至っては、早期出口模索という観測自体、もはや憶測になりつつある。
したがって、金利差の拡大を織り込んでいくなら、米ドル高の余地はまだまだ広がると思う。
■市場センチメント自体がトレンドを加速する役割も
だからこそ、市場センチメントも変わりつつある。
米ドル安が続いているうちは、市場関係者の見方もさらなる米ドル安に傾き、また、共通認識となって米ドル安一辺倒になりやすいが、米ドルの反転や上昇につれ、米ドル安一辺倒のセンチメントが修正されたのはもちろん、米ドル高の見方も増えてきた。今では米ドル高の「理由や根拠」が探し始められ、また、「後付け」で米ドル高の理由が理路整然と語られ始めている。
こういった市場センチメントの変化は今、始まったものではなく、繰り返し行われてきたことだから、別に今さらサプライズになるわけではないが、強調したいのは、市場センチメント自体が、トレンドを加速する役割が大きいから、これも米ドル高を一段と押し上げる可能性があることだ。
マーケットには自己実現性がある。
行きすぎたトレンドにならない限り、米ドル高を予測する、また、望む市場参加者が多ければ多いほど米ドルが買われ、米ドル高になるから、さらに米ドル高の予測を高め、米ドルがさらに買われるといった循環が起こりやすい。
昨年(2017年)年初から一貫して下落した米ドル安のトレンドにおいて、これとは逆の循環が効いたから、2月安値まで米ドル全体は売られてきたと言える。
が、足元は再び逆転し始め、まだまだ初歩段階なので、米ドル高はこれからだと思う。
(出所:Bloomberg)
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