トルコ中銀が緊急利上げ!
2018年5月23日(水)、トルコ中央銀行(TCMB)は臨時の金融政策決定会合を開催し、緊急利上げを決定しました。
トルコには「1週間物レポ金利(レポレート)」、「翌日物貸出金利」、「翌日物借入金利」、「後期流動性貸出金利」と、複数の政策金利があるのですが、今回、トルコ中央銀行が引き上げたのは、事実上の上限金利とする後期流動性貸出金利です。
4月の定例会合で0.75%の利上げが実施されて、これまで13.50%だった後期流動性貸出金利は、昨日、5月23日(水)の臨時会合で3%引き上げられ、16.50%となりました。
※トルコ中央銀行のデータを基にザイFX!が作成
これを受けて、ここ数週間、下落が続き、臨時会合の直前に過去最安値を更新していたトルコリラは反発。
トルコリラ/円はトルコ中央銀行の緊急利上げ前につけていた22円台前半から、利上げ後には一時、24円台前半まで急騰し、本記事執筆時点の5月24日(木)は、24円を少し割り込んだ水準で落ち着いています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 1時間足)
ちなみに、上のチャートに青枠で囲った部分、5月23日(水)の日本時間7時台に突如として急落し、長い下ヒゲをつけて乱高下した値動きの詳細については、近日中に別の記事で公開する予定です。
日足チャートで見ても、ものすごく長い下ヒゲを形成しているため、ローソク足の形状だけで判断すると、トルコリラ/円はいったん、下げ止まる可能性もありそうです。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)
利上げされた後期流動性貸出金利って?
今回、トルコ中央銀行が引き上げた後期流動性貸出金利というのは、ここ最近になって注目が高まっている政策金利です。
従来、トルコの金融政策でもっとも重視されていたのは1週間物レポ金利で、その1週間物レポ金利の上下に、上限金利に相当する翌日物貸出金利と、下限金利に相当する翌日物借入金利があるという構図でした。
しかし、独裁色の強い、トルコのエルドアン大統領が政策金利の引き上げに反対してきたため、トルコ中央銀行はなかなか思うように利上げできませんでした。
そこで、トルコ中央銀行は、2017年ごろから1週間物レポ金利による資金供給を停止して、代わりに金利の高い後期流動性貸出金利による資金供給に一本化していったのです。今回、一気に3%利上げしたのはこの後期流動性貸出金利というわけです。
1週間物レポ金利、翌日物貸出金利、翌日物借入金利は今回、据え置かれたまま。これらの金利の推移をグラフにしてみると、以下のとおりで、従来重視されてきた1週間物レポ金利、翌日物貸出金利、翌日物借入金利はこのところ、据え置かれたままです。
事実上、この3つの金利は機能しなくなっているのです。
※トルコ中央銀行のデータを基にザイFX!が作成
この後期流動性貸出金利は、エルドアン大統領の意向に反し、4月の定例会合で0.75%引き上げられたのですが、それでもトルコリラの下落は止まらなかったため、5月23日(水)の臨時会合で一気に3%の緊急利上げとなったようです。
まだ利上げしたほうが良さそうだけど…
おそらく、トルコ中央銀行は通貨安やインフレを抑えるためにもっと利上げをしたいのでしょうが、今年(2018年)6月の大統領選で再選を目指すエルドアン大統領は、利上げ反対を公言しています。
トルコは2002年から、経常収支の赤字が続いています。そして独裁的なエルドアン政権が海外からも批判を浴びるなかで、2015年以降はトルコリラが売られ続けています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 月足)
ここ最近、トルコリラ/円が過去最安値を更新したというニュースを良く耳にしますが、実際にはかなり前からトルコリラ安が続いているのです。
そして通貨安も背景に、トルコのインフレは高止まりしています。
※トルコ統計局のデータを基にザイFX!が作成
やはり普通に考えれば、トルコは政策金利を一段と引き上げて、トルコリラの下落やインフレの上昇を抑えるべきだと思いますし、トルコ中央銀行だって、そう思っているのではないでしょうか?
しかし、エルドアン大統領は利上げに反対しているわけです。
どうやらエルドアン大統領は、利上げが経済に与える悪影響を抑えたい意向がある様子。
5月に欧州で機関投資家に向けて行った経済政策説明会では、景気刺激のための金利引き下げを目指しつつ、物価上昇と通貨安に歯止めをかけるという、どうやったら実現できるのか記者にはまったくわからない、かなり矛盾した計画をぶちまけたというニュースも伝わっていました。実際、これには説明会に参加した機関投資家からも困惑や不信感が広がっていたようです。
もしも、エルドアン大統領の顔色を伺いながら利上げに消極的な状況が続いてしまえば、さらなるトルコリラ安やトルコのインフレ上昇が再び起きかねないと思うのは記者だけでしょうか…?
6月の大統領選はトルコリラの波乱材料!?
今回のエルドアン大統領の意向に反するトルコ中央銀行の緊急利上げは、、中央銀行の独立性を示したとして一部の市場関係者から歓迎の声が上がったようです。
利上げを受けて、為替相場ではトルコリラの下落にいったん歯止めがかかる格好となりました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)
しかし、トルコ中央銀行の強硬な利上げに対して、エルドアン大統領がどのような見解を示すかは、まだわかりません。本来、2019年11月に予定されていた大統領選と国会総選挙が2018年6月24日(日)に前倒しされたため、大統領選に向けて中央銀行への非難を強めることも考えられます。
ザイFX!では先日、天才トルコ人ストラテジストのエミン・ユルマズさんにインタビューし、その記事を公開したばかりでした。
エミンさんはインタビューの中で、トルコリラ相場は6月の大統領選が山場になるとも指摘していました。
【参考記事】
●下落止まらぬトルコリラ相場を天才トルコ人ストラテジストが解説! 山場は6月大統領選
●トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す
トルコでは2017年4月の国民投票で、大統領に権限を集中する憲法改正案が承認されていて、6月の選挙以降、トルコは大統領制に移行することが決まっています。
こうしたことが海外からの批判を浴びる原因にもなっているわけですから、トルコから海外への資金流出が止まらず、トルコ中央銀行が大統領に逆らって利上げをがんばって続けても、利上げで一時的な反発を挟みながらも、トルコリラ安が続く可能性だって考えられます。
まずは6月の大統領選に注目ということになりそうですが、トルコだけでなく、他の新興国通貨も弱い動きが続いていることから、トルコリラ相場の今後の動向には十分に注意しておきたいですね。
【参考記事】
●デフォルト常習犯のアルゼンチンが緊急利上げ連発で政策金利40%に! 一体なぜ?
●FX会社おすすめ比較:トルコリラ/円が取引できるFX会社はここだ!
(ザイFX!編集部・堀之内智)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)