■中国はフルに効果的な貿易制裁合戦を行えないだろう
まず、なんといっても米国の圧倒的な優位性だろう。
米国の対中輸出商品の大半はハイテク製品か、大豆のような農産物だが、中国にとって、これらは米国に代わって輸入先を確保できない品目が多い。
その上、中国の対米輸出の金額は大きいから、中国はフルに効果的な貿易制裁合戦を行うことができない恐れがある。米国の年間対中輸出は約1500億ドルの規模なので、米制裁総額と同等の制裁を中国が仕掛ければ、それ以上に制裁する「弾薬」がなくなることになる。
中国が米国と対等に渡り合えないのは明らかだ。
■中国共産党一党独裁の基盤に突っ込むトランプ政権
次に、知的財産権の侵害や技術移転の強制など従来からある問題のほか、米国はサイバーセキュリティ問題を初めて貿易問題の中で提起。この問題提起はこれからかなり効いてくるのではないかと思われる。
周知のように、中国共産党政権は自らの一党独裁を維持するため、国民には選別され、制限された情報しか与えていない。インターネット上に「チャイナウォール」を設け、外部からの情報を厳しく審査している。米国政府がはじめて貿易問題としてこれを提出した以上、中国共産党にとってかなり深刻な事態だと認識せざるを得ない。
トランプ大統領は中国共産党の痛いところにも突っ込み、交渉を優位に進めようとしている。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの。 (C)Bloomberg/Getty Images
なにしろ、中国共産党の一党独裁を維持する基盤として、情報統制、また情報歪曲、そして、プロパガンダが大きな役割が果たしているから、この肝要な部分に突っ込まれると、中国共産党はかなりの危機感を持つに違いない。
トランプ政権があえてこの問題を交渉の場に持ち込む意図も明らかであろう。中国共産党の痛いところに突っ込み、それと引き換えに中国政府の譲歩を得たいという魂胆が透けて見える。
■2015年のような金融市場大混乱にはならないだろう
だらだら政治の話をして申し訳ないが、言いたいことはシンプルだ。
米中の軋轢が深刻化しているが、中国本土の株式市場以外、2015年と違って世界金融市場全般が受ける打撃は限定的である。そのわけは、米中対立における中国の力不足、また早晩、中国が何らかの形で折れると世界の金融市場関係者が冷静に見ているということのほかあるまい。
だから、米国株にしても日本株にしても、また、米ドル/円にしても調整的な値動きを見せているものの、総じて底堅い基調を維持。また、これから深く反落してくるよりも調整は早期に完了して再度、高値をトライしやすいかと思う。
米中の対立、2015年のように大きな混乱をもたらす可能性は低いと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
■ポンドは反騰したが、ドル全面高の流れは容易に変わらない
テクニカル上の視点では、先週(6月15日)、本コラムが指摘したドルインデックスにおける「フェイクセットアップ」のサインはなお有効であろう。
【参考記事】
●ショック以外の形容詞がないほど強烈なユーロ下落はなぜ起こったのか?(2018年6月15日、陳満咲杜)
このサインが効いている限り、米ドル高・ユーロ安のトレンドは変わらない。
昨日(6月21日)、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は政策金利据え置きを決定したが、英早期利上げの思惑が高まり、英ポンドはいったん大きく反騰した。しかし、米ドル全面高の流れは容易に変わらないので、英ポンドが底打ちした、といった判断は性急であろう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 1時間足)
豪ドルも商品市況のトレンドと整合的で、これから安値更新しやすいとみる。市況はいかに。
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