■米中対立が深まり、上海総合指数は大きく下落
米中の軋轢は拡大する気配を見せている。
譲歩しない中国政府に対して、「話し合うより制裁措置の発動で対抗」というトランプ政権の強硬姿勢が鮮明になってきたから、これが世界金融市場にまた波乱をもたらしている。リスク回避の動きが深刻になってもおかしくないが、今のところ、大きな打撃を受けているのは中国株式市場だ。
端午節の休場を経て、中国株式市場は6月19日(火)から取引をスタートさせたが、その当日、上海総合指数は一時、前日比マイナス5%超の暴落となり、2016年6月以来の安値を記録した。

(出所:Bloomberg)
下げはその後も続き、本日(6月22日)、また安値を更新したものの、現執筆時点ではやや持ち直し、やっと一服した模様。
とはいえ、心理的な節目となる3000の大台をかなり下回った株価指数は、完全なベア(下落)トレンドの構造を露呈。これから2016年1月安値の2638を下回ってきてもおかしくないとみられるだけに、中国リスクが急速に浮上してきたと言える。

(出所:Bloomberg)
なにしろ、この2016年1月安値は2015年夏に発生した中国株の大崩壊後につけた安値だったので、同安値への再接近や安値割り込みがあれば、中国経済に深い影を落とすに違いないだろう。
2015年の混乱と言えば、あの人民元ショックやそれがもたらした世界金融市場の混乱が記憶に新しい。今回は早くも世界同時株安を危惧する声が広がっているが、今のところ、大きな影響はみられていないから、市場関係者も一安心したところではないかと思う。
■ロス米商務長官は中国と全面対決の姿勢を打ち出した
とはいえ、やはり、米中全面対決を懸念する声は多い。なにしろ、米中政府はともに強硬な態度を取り始め、少なくとも表面上の交渉は中断している模様なのだ。ここから衝突が一段と激化しかねない。
中国から輸入される商品への関税引き上げ総額は、すでに公表された500億ドル以外に、これから2000億ドルでも4000億ドルでも追加して構わない、と意思表明したトランプ米大統領の発言と整合的に、昨日(6月21日)、ロス米商務長官はより厳しい発言をした。
ロス氏は「関税、非関税双方を含む大規模な障壁を設ける貿易相手国が一段と苦痛を味わう環境を整える必要がある」と言い、中国に関しては「知的財産権の侵害や技術移転の強制、サイバーセキュリティー問題なども重なる」と警告、また、中国を強く牽制した。

ロス米商務長官は「一段と苦痛を味わう環境を整える必要がある」といったきっつ~い表現を使いながら、中国を強く牽制した。写真は2018年6月のセレクトUSA投資サミット時のもの。 (C)Bloomberg/Getty Images
こういった全面対決の姿勢が打ち出されたことは、トランプ政権が対中闘争に勝てる自信ありとの意思を表明したとも受け取れるだろう。
では、米国があの万能に見える中国共産党政権に勝てる勝算はどこにあるのか? その答えは昨日(6月21日)、ロス氏の発言にあり、また大きなヒントを得られるかと思う。
■中国はフルに効果的な貿易制裁合戦を行えないだろう
まず、なんといっても米国の圧倒的な優位性だろう。
米国の対中輸出商品の大半はハイテク製品か、大豆のような農産物だが、中国にとって、これらは米国に代わって輸入先を確保できない品目が多い。
その上、中国の対米輸出の金額は大きいから、中国はフルに効果的な貿易制裁合戦を行うことができない恐れがある。米国の年間対中輸出は約1500億ドルの規模なので、米制裁総額と同等の制裁を中国が仕掛ければ、それ以上に制裁する「弾薬」がなくなることになる。
中国が米国と対等に渡り合えないのは明らかだ。
■中国共産党一党独裁の基盤に突っ込むトランプ政権
次に、知的財産権の侵害や技術移転の強制など従来からある問題のほか、米国はサイバーセキュリティ問題を初めて貿易問題の中で提起。この問題提起はこれからかなり効いてくるのではないかと思われる。
周知のように、中国共産党政権は自らの一党独裁を維持するため、国民には選別され、制限された情報しか与えていない。インターネット上に「チャイナウォール」を設け、外部からの情報を厳しく審査している。米国政府がはじめて貿易問題としてこれを提出した以上、中国共産党にとってかなり深刻な事態だと認識せざるを得ない。

トランプ大統領は中国共産党の痛いところにも突っ込み、交渉を優位に進めようとしている。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの。 (C)Bloomberg/Getty Images
なにしろ、中国共産党の一党独裁を維持する基盤として、情報統制、また情報歪曲、そして、プロパガンダが大きな役割が果たしているから、この肝要な部分に突っ込まれると、中国共産党はかなりの危機感を持つに違いない。
トランプ政権があえてこの問題を交渉の場に持ち込む意図も明らかであろう。中国共産党の痛いところに突っ込み、それと引き換えに中国政府の譲歩を得たいという魂胆が透けて見える。
■2015年のような金融市場大混乱にはならないだろう
だらだら政治の話をして申し訳ないが、言いたいことはシンプルだ。
米中の軋轢が深刻化しているが、中国本土の株式市場以外、2015年と違って世界金融市場全般が受ける打撃は限定的である。そのわけは、米中対立における中国の力不足、また早晩、中国が何らかの形で折れると世界の金融市場関係者が冷静に見ているということのほかあるまい。
だから、米国株にしても日本株にしても、また、米ドル/円にしても調整的な値動きを見せているものの、総じて底堅い基調を維持。また、これから深く反落してくるよりも調整は早期に完了して再度、高値をトライしやすいかと思う。
米中の対立、2015年のように大きな混乱をもたらす可能性は低いと思う。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
■ポンドは反騰したが、ドル全面高の流れは容易に変わらない
テクニカル上の視点では、先週(6月15日)、本コラムが指摘したドルインデックスにおける「フェイクセットアップ」のサインはなお有効であろう。
【参考記事】
●ショック以外の形容詞がないほど強烈なユーロ下落はなぜ起こったのか?(2018年6月15日、陳満咲杜)

このサインが効いている限り、米ドル高・ユーロ安のトレンドは変わらない。
昨日(6月21日)、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は政策金利据え置きを決定したが、英早期利上げの思惑が高まり、英ポンドはいったん大きく反騰した。しかし、米ドル全面高の流れは容易に変わらないので、英ポンドが底打ちした、といった判断は性急であろう。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 1時間足)
豪ドルも商品市況のトレンドと整合的で、これから安値更新しやすいとみる。市況はいかに。
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