(「初めてでもわかる仮想通貨のマイニング(1) マイニングをすれば誰でも簡単に儲かるの?」から続く)
■マイニングを始めるために必要な機材は?
では、GPUやCPUを使って個人がマイニングを始めるとして、何を用意すればいいのだろうか?
佐藤氏:実際にマイニングをする場合、初めての人でもパソコンが1台あればできてしまいます。デスクトップ型とノート型、どちらがいいのか?ということであれば、デスクトップ型のほうが汎用性や拡張性がありますね。
それに、マイニングに効率のよいパソコンはミドルクラス以上の性能になるので、仮にマイニングをやめたとしても、たいていのパソコンの作業は快適にこなせるので安心です。
(出所:日本AMD)
デスクトップ型のパソコンの場合、PCショップなどで売られている、組み上がったパソコンを購入してきてマイニングをすることもできるが、より効率を上げるために、マイニングに適したパーツを買ってきて自身で組み立てる、いわゆる「自作PC」を使う人も多い。
佐藤氏:OS(オペレーション・システム)は、安定性のあるWindows10がいいでしょう。あとウォレットですが、初心者向けということであれば、ソフトウェアウォレットを使うのがいいと思います。
ウォレットとは、仮想通貨の送金や受取りをしたり、自身が保有している仮想通貨の残高を表示したりする機能があるソフトウェア。どんな方法でマイニングをしても、マイニングに成功すれば、報酬として仮想通貨が得られるわけだから、それを受け取るにはウォレットが必ず必要になる。
【参考記事】
●なぜ、仮想通貨の盗難はあとを絶たない? 仮想通貨はどうやって管理するのが安全か?
ここまで用意できたら、マイニングソフトを選べば準備完了だ。
メジャーなマイニングソフトとしては、「Nice Hash Miner」や「Claymore’s Dual Miner」などがある。
「Nice Hash Miner」は、さまざまな仮想通貨の中から効率の良いものを勝手に選んでマイニングをしてくれるソフトウェア。
一方、「Claymore’s Dual Miner」は、自身で仮想通貨を絞ってマイニングするソフトウェアで、イーサリアムやモネロなどに対応している。
佐藤氏はマイニングソフトについて「初心者向けのマイニングソフトとしては『Nice Hash Miner』がいいでしょう」とのこと。ただし、「Nice Hash Miner」に限らず、インターネットに接続されているソフトウェアには、ハッキングなどにより仮想通貨が盗難されるリスクがあると注意を促していた。
■個人マイナーに人気の仮想通貨って?
マイニングのやり方がわかったところで、今、マイナーに人気のある仮想通貨について聞いてみた。
森本氏:個人でマイニングしている人にもっとも人気の仮想通貨はイーサリアムです。
イーサリアムは、ビットコインの次に時価総額の大きい仮想通貨。ASIC耐性(※)を備えているので、GPUを使ったマイニングで利益を出しやすい通貨として知られている。
(※編集部注:「ASIC耐性」を仮想通貨につけると、その仮想通貨をマイニングするためだけに開発されたASICを利用できなくなる)
【参考コンテンツ】
●仮想通貨リアルタイムレート(主要仮想通貨の時価総額を表示)
(出所:日本AMD)
このように、個人マイナーに人気のあるイーサリアムだが、2018年10月をメドに、アルゴリズムが変更されるのではないかと報じられている。
現状、イーサリアムはビットコインなどでも用いられているPoW(Proof of Work)というアルゴリズムを採用しているが、これがPoS(Proof of Stake)というアルゴリズムに移行するのではないかというのだ。
もし、PoSに移行してしまうと、しくみの違いから、これまでのような方法でマイニングをすることができなくなってしまうことが考えられるが……。
森本氏:我々はEEA(エンタープライズ・イーサリアム・アライアンス)(※)に参加していますが、そこで話を聞いている限りでは、PoWとPoS、2つのアルゴリズムを併用したハイブリッドになる可能性が一番高いと考えています。
(※編集部注:「EEA」は、イーサリアムの持つ特徴的な技術を利用してビジネスを展開することを目的に2017年に発足した組織。マイクロソフトやトヨタ自動車といった世界的に有名な企業も多数参加している)
森本氏:具体的にどうなるかはわかっていませんが、もし、イーサリアムでマイニングができなくなった場合、マイナーが撤退してしまうことによりセキュリティが担保できなくなって通貨価値も落ちていくのかなと思います。もっとも、イーサリアムのマイニングをできないようにして、通貨価値を落とすようなことはしないでしょう。
(リアルタイムチャートはこちら → 仮想通貨リアルタイムチャート:イーサリアム/円 日足)
マイニングをしないトレーダーにとっても、イーサリアムの値動きに関わるこの話題は関心があるのではないか。今後、アルゴリズムがどのような形で変更されるのか注目したい。
■CPUマイニングでも利益の出る仮想通貨がある!?
次に、CPUマイニングは利益を出すのが難しそう……なんて印象を持ってしまうが、前回紹介したように人気が再燃しているという。いったい、どのような通貨が人気なのだろうか。
佐藤氏:「モネロのマイニングにおいて、弊社のCPUが非常に高いハッシュレートを出しています」
【参考記事】
●初めてでもわかる仮想通貨のマイニング(1) マイニングをすれば誰でも簡単に儲かるの?
佐藤氏いわく、AMD社のCPUはモネロのマイニングにおいて非常に高いハッシュレートを出しているという。CPUマイニングはGPUやASICの台頭で衰退したはずなのだが…
モネロはASIC耐性を備えているほか、匿名性の高い技術「Crypto Night」を採用している仮想通貨。マイニングに成功するためには、より複雑な計算が必要になる。
GPUやASICは、簡単な計算を高速で処理するのには優れているが、複雑な計算処理だと能力を発揮できない。一方、CPUは複雑な処理に向いているので、モネロを比較的効率よくマイニングすることができるようだ。
ちなみに、記者が調べたところ、モネロは日本の取引所では唯一、コインチェックが取り扱っていたが、現在は、取り扱いを中止していて、取引することはできなくなっている。
【参考コンテンツ】
●ビットコイン・仮想通貨の取引所/販売所を比較。取引コストが安いのはどこ?
■難易度急騰中のビットコインで個人がマイニングをすると…!?
ビットコインのマイニングは個人には難しそうではあるが、ビットコインは仮想通貨の代表格。ビットコインのマイニング事情についても聞いてみた。
森本氏:ビットコインではASICマイニングが主流になったことで、マイニングのディフィカルティ(※)やハッシュパワーが急騰したことから、GPUやCPUでビットコインをマイニングして利益を出すのは非常に難しい状況です。
(※編集部注:「ディフィカルティ」とは、マイニングによりブロックを生成する際、解となる数値「nance(ナンス)」を見つける難易度のこと)
(出所:Blockchain info)
(出所:Blockchain info)
これを見ると、ビットコインのマイニングの難易度とハッシュレートは、2016年ごろからジリジリ上昇すると、2017年に入り上昇幅を拡大。今年(2018年)に入ってからも急騰し続けている。
先ほども少し紹介したが、ASICマシンを個人で買ってマイニングすることはできるといえばできる。
しかし、仮にASICマシンを1台購入し、プールマイニングをして報酬は出ても、これだけマイニングの難易度とハッシュレートが急騰しているので、利益を出すのは難しそうだ。
■マイニングマシン組み立て時に注意したい3つのこと
ここまでマイニングについていろいろ紹介してきたが、気をつけたいポイントもいくつかある。
まず、佐藤氏は、パーツを揃えてマイニングマシンを組み立てるときに気をつけておきたいポイントについてまとめた資料を見せてくれた。
(出所:日本AMD)
マイニングマシンの組み立て時に特に気をつけることは、パーツの破損、部品のショート、不十分な冷却の3つ。そして、マイニングマシンを稼働させたあとは、熱やほこりに注意とのこと。
記者もパソコンをパーツから組み立てるが、その経験から言わせていただくと、パーツは「入るようにしか入らない」ので、無理やり入れようとするとパーツが壊れてしまう。また、パソコンのパーツは静電気に弱いので、その点も注意しておいたほうがいいかも。
■投資した金額を回収するのにどのくらいかかるのか?
そもそも、マイニングをする際のリスクとして、機器購入の初期費用や電気料金など、コストばかりかかってしまい、マイニングで報酬を得てもトータルで赤字になってしまうリスクがある。
森本氏:現在の状況を見ると、初期投資を回収するのに時間がかかってしまっています。2018年4月末の検証データでは、イーサリアムでGPUマイニングをした場合、電気代を差し引いた報酬で計算すると、投資した金額を回収するには、7.5カ月~10カ月ぐらいかかっています。
このように、長期間かかっても投資した金額を回収できるならまだいいが、やればやるほど赤字が膨らんでしまっては元も子もない…。
マイニングで得られる報酬を日本円に換算した値は、当然ながら、その仮想通貨の相場に影響を受ける。今より仮想通貨相場が冷え込めば、マイニングはもっと厳しくなるし、逆に仮想通貨相場が高騰すれば、マイニングにはうま味が出てくる。
結局、マイニングは電気料金などのコストと受け取れる報酬のバランスを考えながらやっていく必要がありそうだ。
■コールドウォレットが絶対に安心ではないワケとは?
ほかにも、ソフトウェアウォレットやマイニングプールなどがハッキングを受けて、仮想通貨を盗まれてしまうリスクもある。
(出所:日本AMD)
先ほど紹介した「Nice Hash Miner」を提供している「Nice Hash」も、2017年12月に4000ビットコイン(当時のレートで約72億円)がハッキングによって盗まれる事件を起こしている。
しかし、これは「Nice Hash」に限ったことではなく、インターネットにつながっているソフトウェアウォレットやマイニングプールなどでは、いつでも起こりえることなのだ。
では、どのような対策をすれば、自身が保有している仮想通貨を盗難から守れるのだろうか?
ウォレットにはインターネットに接続された端末で運用されるホットウォレットと、インターネットから切り離された端末で運用されるコールドウォレットがある。
ソフトウェアウォレットやマイニングプールに仮想通貨を保管している場合、ネットワークから切り離されたコールドウォレットに移し替えると、リスクを軽減することができる。
ただし、コールドウォレットだからといってリスクがゼロになるわけではない。コールドウォレットのひとつ、ハードウェアウォレットの安全性について聞いてみた。
森本氏:ハードウェアウォレットを使うにしても、安全に保管できるかは自身の管理次第です。
佐藤氏:ハードウェアウォレットは安全性が高いと言われていますが、Amazonで中国から買ったものに、悪意のあるプログラムが仕込まれていて……なんて事例もあります。
コールドウォレットだからといってリスクがゼロになるわけではないと話す、森本氏と佐藤氏。どれだけ自己管理ができるかがリスク軽減のカギになりそうだ
どんな対策を取ってもリスクがゼロになるわけではないので、コールドウォレットだからといって安心せずにしっかり管理する必要があることは覚えておきたい。
ウォレットのしくみ、ホットウォレットやコールドウォレットの種類、使い方などについては、以下の【参考記事】をご覧ください。
【参考記事】
●なぜ、仮想通貨の盗難はあとを絶たない? 仮想通貨はどうやって管理するのが安全か?
■COMPUTEXからマイニングの最新事情を探る
最後に2018年6月に台湾・台北で開催された、世界最大規模のパソコン関連機器の展示会、COMPUTEX TAIPEIに参加してきた森田氏から、マイニング機器の最新事情について話を聞けたので紹介しよう。
森田氏:昨年(2017年)のCOMPUTEXでは、ビットコインをはじめ、仮想通貨に注目している企業は少なかったのですが、今年(2018年)のCOMPUTEXでは、マイニングマシンの展示が多くありました。
どうやら、GPUなどのパーツ単体よりも、すべて組み上がったマイニングマシンを欲しがる業者が増えているようです。
写真はCOMPTEX TAIPEIに展示されていたマイニングシステム。森田氏によると、GPUなどのパーツ単体よりも、すべて組み上がったマイニングマシンを欲しがる業者が増えているという (C)アユート・森田健介
子供が乗るおもちゃの車のようなものにGPUを何枚も搭載させてマイニングシステムを構築している。モーターショーで展示されているコンセプトカーのようなものだろうか? (C)アユート・森田健介
現状、個人でマイニングしても利益を出しにくいことはこれまで紹介してきたとおりなのだが、森田氏によると「クラウドマイニングを手掛ける業者は設備を強化している」という。これがマイニングマシンへの需要を喚起させている一因かもしれない。
今回は、仮想通貨のマイニングについて、専門家へのインタビューを交えながら紹介してきた。現状では、個人でマイニングをしても利益を出すのはなかなか簡単ではなさそうだが、この先、仮想通貨相場が上昇してくれば、再びマイニングで大きく利益を出せる環境にもなるはず。そうなったときのためにも、マイニングの知識を深めておいてはどうだろう。
(特記以外の撮影/小島真也)
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