■株式市場の方が為替市場よりマグマが溜まっていた
アルゴリズムやら、AIやら、機関投資家のプログラムによる自動取引が主流になっている株式市場は、近年、ますます変動率を拡大する傾向が強まってきた。
あらかじめロジックを組み、コンピュータに任せた自動取引の多くは、「目先のトレンドを追うのが得意で、買われすぎだからこそ買うとか、売られすぎだからこそ売るとかの流れを作りやすい」という研究結果もあるように、自動取引の台頭で、株式市場がますます一方通行になりやすく、また、変動率を拡大しているのは事実である。
一方、これはあくまでテクニカル的な要素で、本質的な問題ではないと思う。何しろ、株式市場ほどではないが、為替の世界もプログラムによる自動取引が盛んになっている。為替市場自体がまったくその影響を受けないとか、あるいは為替市場における機関投資家の多くがより冷静で健全なスタンスをとっている、ということはあり得ない。
つまるところ、株式市場の方がここまで、よりマグマが溜まっていたため、今回、より激しく反応してきたからなのではないかと思う。
■米ハイテク株の「バブル化」が大調整につながったのでは
2008年のリーマンショック以降、途中何度かの大きな波乱があったものの、米国株市場は基本的に右肩上がりのトレンドを維持してきた。
(出所:Bloomberg)
もう10年目に入ってきたところであるため、心理的な節目に差し掛かり、波乱になりやすいのもある程度、納得できるかと思う。
それに、何よりもアマゾンの株価高騰(一時PER(株価収益率)300倍超)に象徴されるように、米ハイテク株には「バブル化」の兆しが鮮明であったから、それが今回の大調整につながったのではないかと思われる。
(出所:Bloomberg)
実際、今回の米国株下落のきっかけも米ハイテク株の下落だったので、ある意味では自然な成り行きであったと言える。
■米長期金利が“これからも”上昇という観測が株価への圧力に
ただし、肝心なことは、今回の株式市場下落の背景に米長期金利の上昇があったことは見逃せないが、米利上げサイクルにおける株価の調整は、大幅であっても行きすぎたスピード調整にすぎず、本格的なトレンドの転換にはなりにくい、という判断自体は変わらないということだ。
米金利の上昇を株の売り要因と解釈する一方、米利上げ終焉観測を持ち出し、米ドル/円の頭打ちを解釈する論調が巷に多いが、ロジック的には矛盾している。
なぜなら、米長期金利は、現在のレートではなく、これからも上昇していくという観測が株価に対する圧力になったわけだから、米利上げ終焉の観測がすでに浮上してきたなら、米長期金利の上昇観測もなくなるはずだからだ。
マーケットは常に同時進行、また常に現在の状況ではなく、将来どうなるかを織り込んでいくから、片方の相場を現在形、片方の相場を未来形の形で語るのは、正しいスタンスではない。
■日経平均は年末に向け、V字回復の可能性も
もっとも、米国株にしても、日本株にしても、さすがここまでくると、かなり割安感が出る。特に日本株の方は平均PERが13倍以下に沈んだから、アベノミクス以降の最低水準ではないかと思う。
前述のように、基本は、株価の大幅調整があっても本格的なリスクオフではなく、また、どちらかというと為替市場のパフォーマンスが将来の道筋を示してくれるはずだから、2018年年末に向け、日経平均はV字回復できるのではないかと、「逆説」的な推測もしておきたい。
ちなみに、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円高傾向は、前回のコラムで強調したように、基本的には外貨安が主因で、円全面高の流れではない。
【参考記事】
●日米株の調整は終盤戦。株が大波乱でも米ドル/円の動きはなぜ、限定的なのか?(2018年10月26日、陳満咲杜)
今週(10月22日~)、株式市場はまた大幅に下落したが、為替市場における判断に大した修正はない。すなわち、ドルインデックスは近々2018年年初来高値更新、ユーロ/米ドルは2018年年初来安値更新、米ドル/円は大まかに上昇トレンドを維持して2018年年内に115円の節目をトライ、といったところだ。市況はいかに。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)