■ブレグジット案を2つに分けて議会採決に持ち込む
3月28日(木)夕方、メイ首相が爆弾発表をした。それは、メイ首相が昨年(2018年)11月にEUと合意したブレグジット案を2つに分け、そのうちのひとつだけを29日(金)の議会で採決にかけるというものであった。
バーコウ議長は、同じ内容のブレグジット案を何度も本採決に持ち込むことを禁止しているが、ブレグジット案そのものが真っ二つに分かれるのであれば、採決実施を禁止することはできない。
そもそもブレグジット案は、「Withdrawal agreement(WA)=離脱案内容に対する合意」と、「Political declaration(PD)=政治的な宣言」に分かれている。
そこで、3月29日(金)の採決では、WAだけを取り上げ、採決を行なうということである。
BBCニュースによると、EU側はまず、WAを3月29日(金)までに可決すれば、5月22日(水)までの延長を認めるとサミットで語ったそうだ。
■そもそもWAとPDとは、何を指すのか?
まず、WAは、EU/英国双方に住む住民の権利、南北アイルランド間に国境は設置しない(バックストップ)、手切れ金の支払額とタイミング、移行期間の詳細など、ブレグジットを巡る条件をまとめたものである。
PDは、英国がEUを離脱したあとの、EU/英国間の将来の関係についてまとめたものである。
細かいことであるが、過去2度に渡って行なわれた本採決では、WAとPD両方を対象に採決を取っていたが、3月29日(金)の採決は片方だけとなっており、この採決はMV3とは呼ばれていない。
■3月29日、WAに関する採決も否決
伝統的に英国議会は、金曜日は休会となる。しかし、今の英国には時間がない。そのため、急遽、3月29日(金)を議会開会日とし、午後から採決を行なった。
●採決結果
メイ首相の辞任と引き換えに、保守党のブレグジット強行派が賛成に廻ったため、もしかしたら可決されるのではないか?そんな期待感が高まった。
しかし、北アイルランドDUP(民主統一党)党や労働党は依然として反対である。
最終的には、「賛成286 vs 反対344、58票差で否決」となった。メイ首相、3度目の大敗である。
●トゥスクEU大統領からの発表
否決のニュースが流れるのとほぼ同時に、トゥスクEU大統領が発言した。
「In view of the rejection of the Withdrawal Agreement by the House of Commons, I have decided to call a European Council on 10 April
英国議会で実施された採決で、WAが否決されたことを受け、4月10日に緊急EUサミットを開催する」
この発表により、メイ政権は、なんとしても4月10日(水)までに「次の一手」を決めなければならない。
■週末に流れた、2つの大きな報道とは?
この週末には、2つの大きな報道が出た。
●解散総選挙?
先週(3月25日~)金曜日に、またしても負けたメイ首相。その後、親しい人間に対し、英国議会は完全に崩壊しているため、残された道は解散総選挙しかない……と漏らしたようである。

英国議会は完全に崩壊しているため、残された道は解散総選挙しかないと漏らしたとされるメイ首相…。ブレグジット実施に向けて打開策はあるのだろうか? (C)Matt Cardy/Getty Images News
しかし、このニュースが流れてから、ほとんどの保守党議員は、大反対している。
表向きには、ブレグジットで時間がないことを理由に挙げているが、本音としては、首相がメイさんのままでの総選挙をするリスクを取りたくないことは明白だ。
議会の3分の2の賛成がない限り、総選挙には踏み切れないため、たぶん無理であろう。
■保守党議員170名の署名入りの手紙の中身とは?
●170名の署名入り、保守党議員からの手紙
週末に、保守党議員の半分以上である170人の署名入りの手紙が、メイ首相に届けられた。内容は、「2017年総選挙のマニフェストに従って、長期の期間延長は絶対に止めてください。」というものである。
保守党が大きく議席を失った2017年解散総選挙。この時の保守党のマニフェストには、「2年間の交渉期間中にブレグジットが決定しなかった場合でも、2019年5月の欧州議会選挙を越えるような長期の延長は、やらない」というものがあったそうだ。
【参考記事】
●圧勝するつもりの選挙で過半数割れ!?英総選挙で保守党敗北、英ポンドは急落!
しかし、最近のメイ首相の言動を見る限り、1年ほどの延長も受け入れる姿勢を見せている。
それに危機感を抱いた保守党議員達は、IV2(2度目の示唆的投票)が行なわれる4月1日(月)を前にして、改めてメイ首相に釘を刺した形となった。
■ブレグジットに関する、今後のスケジュールは?
かなり多くの報道を読んだ結果、タイムラインがひとつにまとめられず、2つのパターンを作った。
最初のものは、4月2日(火)以降に、IV3、あるいはMV3が続くもの。

※筆者作成
もうひとつのパターンは、IV2と3を続けて行い、候補を絞ってから、今週(4月1日~)、4月4日(木)、5日(金)にMV3と続くものである。

※筆者作成
以下は、私の独断と偏見で作成したシナリオのフローチャートである。

※筆者作成
■ユリ・ゲラー氏の超能力でブレグジットを回避?
スプーン曲げで有名なユリ・ゲラー氏。この人は、イギリスの市民権を持っているイスラエル人である。現在もイスラエル在住であるが、イギリスに住んでいた当時は、メイ首相の選挙区の近くだったようで、同首相と一緒に写した写真があった。

先週(3月25日~)、同氏は「超能力でブレグジットを止める」という手紙をメイ首相に届け、それがユダヤ人の新聞に大きく取り上げられたらしい。
英国の主要各紙は小さい記事を載せていたが、BBCニュースなどでは報道されていない。
どうして、英国人の対応が冷ややかなのか? いろいろ理由があるだろう。まず最初に頭に浮かんできたのは、英国人がこの期に及び、超能力などというナンセンスなことに時間を割いている余裕がないことが挙げられる。
もうひとつは、そもそもこの人はイスラエル人であり、その人が英国の国政に口を挟むことを、もしかしたら快く思っていないのかもしれない。
私もこのニュースが出た日にご近所の方々と立ち話しをし、ユリ・ゲラーさんのニュースを知っているか聞いてみたが、「超能力でどうにかなるものなら、とっくに解決している。イギリス人でもないのに、口を挟むな」という感じであった。
果たして、国民はどう考えて…
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