■EU首脳会議、歴史的な「欧州復興基金」を実現
7月17日(金)から行われたEU(欧州連合)首脳会議は異例でした。
当初、2日間だけの予定でしたが、「欧州復興基金」に反対する倹約4カ国(オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマーク)の同意が得られず、結局3日も延長し、5日目の7月21日(火)にようやく歴史的合意が実現しました。
【参考記事】
●株式市場が崩れるならドル/円は戻り売り。テスラショックに警戒! 22日は決算発表(7月20日、西原宏一&大橋ひろこ)
●緩やかに米ドル安。米ドル高より米ドル安材料の方が多く、大きな流れに変化なし!(7月21日、バカラ村)
EUは、「全会一致」が前提です。1カ国でも反対すると何事も実現しません。
そのため、話し合いで相手を納得させなければならず、極めて非効率的ですが、それを乗り越えて「欧州復興基金」を実現した欧州指導者、当局者の熱意には感服せざるを得ません。
■欧州復興基金は将来の財政政策統合の第一歩
今回の大きなポイントは、「債務の共有化」です。7500億ユーロ(約92兆円)もの起債をEU名義で行います。
これまで欧州は、通貨と金融政策の統合は実現しましたが、財政政策は各国でバラバラでした。
景気の良い国もあれば悪い国もありますが、そこに1つの金融政策を適応することには無理があります。
それ故、将来的には財政政策の統合が必要なのですが、今回の「欧州復興基金」は、その第一歩と言えます。
これまで、「債務の共有化」にもっとも反対してきたのはドイツでした。
しかし、新型コロナウイルスという、かつてない脅威に対し、メルケル首相は大きな決断をしました。英国がEUを離脱する中、欧州をまとめなければならないという使命感が、そうさせたのでしょう。
■ユーロ/米ドル、長期チャートでは大底が入った感じ
ユーロ/米ドルは、「欧州復興基金」実現を受けて、ついに重要なレジスタンスである1.15ドルを抜けてきました。
(出所:TradingView)
2018年2月高値1.2555ドルからのダウントレンドが、終了したと言えます。
(出所:TradingView)
また、今後の進展次第ですが、2008年7月高値1.6038ドルからの大きなダウントレンドの終了と言えるかもしれません。
(出所:TradingView)
ただ、今すぐには、そこまでポジティブな認識を欧州に対して持つことは難しいかもしれません。
欧州のファンダメンタルズが、素晴らしいとも言えません。
欧州は、まだマイナス金利ですし、それがすぐに変更されるとも思えません。南欧諸国が被った経済的ダメージは。深刻です。
しかし、長期チャートを見ると大底が入った感じはします。
■米ドルに対するネガティブな理由からユーロは上昇
ユーロ上昇の理由は、欧州に対するポジティブな理由からくるものではありません。米ドルに対するネガティブな理由からきています。
今回のコロナ危機でFRB(米連邦準備制度理事会)が行った金融緩和には猛烈なものがあります。米10年債の実質金利までマイナス1%に近い状況です。
意味することは、米ドルを持っていても目減りしていくということです。
それが、金価格の押し上げになっていますし、ナスダックなどの米国株のバブル的状況につながっています。
【参考記事】
●米ドルは状況が落ち着けば下落していく…。ゼロ金利は5年ぐらい続くのではないか?(7月8日、志摩力男)
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(5月13日、志摩力男)
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
■IMMは1つのローカルマーケット。市場全体ではない!
ユーロロングを躊躇させる別の理由として、IMM通貨先物市場においてユーロロングが大規模に積み上がっていることを指摘する人もいるかもしれません。
3月の相場動乱を経て、IMMではユーロロングが歴史的水準まで膨らんでいます。
【参考記事】
●株式市場が崩れるならドル/円は戻り売り。テスラショックに警戒! 22日は決算発表(7月20日、西原宏一&大橋ひろこ)
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
しかし、IMMはシカゴにある1つの先物マーケットです。
為替取引は、相対取引がメインの世界中で行われている取引であり、そもそも為替市場のメインプレーヤーがIMMで取引する必要はまったくありません。
時折、IMMがあたかも為替市場全体を表す絶対的な指標のような解説を見たりしますが、実態とあまりにも違うので違和感があります。
IMMは、1つのローカルマーケットであり、市場全体ではありません。
私は、マーケット全体が猛烈にユーロロングに傾いているとは思いません。むしろ買えていないプレーヤーの方が多いと思います。
IMMにおけるユーロロングポジションを、ユーロを買わない理由にすべきではないと思います。
■ユーロ/米ドルの上昇は今後も続く
先程も言いましたが、ユーロのファンダメンタルズが素晴らしいわけではないので、ユーロが急騰するわけではないと思いますが、米ドル下落を反映する形でユーロ/米ドルの上昇が今後も続くと思います。
そして、今回の「欧州復興基金」の実現は、今後もユーロを下支えしていくでしょう。
(出所:TradingView)
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