■米ドルには2つの顔がある
米ドルには2つの顔があります。
1つは、当然ですが米国という国の通貨であること。
もう1つは、国をまたいだ貿易や金融取引に使われる「国際決済通貨」としての側面。要は、基軸通貨であるということです。
米国は世界最大のGDP(国内総生産)を誇りますが、それでも世界全体の約25%にしか過ぎません。
しかし、国際貿易や金融取引といった場面では、正確な数字は持っていませんが、7~8割は米ドルで決済されているでしょう。世界各国が持つ外貨準備の約3分の2は米ドルです。
■コロナ以降は「リスクオフの米ドル高」になった
コロナ以降(正確には2020年3月半ば以降)、為替相場のルールも変わってきました。
かつては、株価暴落といった経済危機の局面では「リスクオフの円高」でしたが、今は「リスクオフの米ドル高」になっています。
【参考記事】
●クロス円上昇は豪ドル/円が牽引? 6月高値更新を念頭に中期的には80円台も!(7月3日、陳満咲杜)
●「リスクオフの円高」は過去の話と再度証明。「リスクオフの米ドル高」を米ドル/円でも確認(6月26日、陳満咲杜)
●円高示唆でも米ドル/円が下落しないワケは? ビッグマック指数では1ドル=68.78円になる!?(6月17日、志摩力男)
米国株が上昇すると、ユーロ/米ドルが上昇(米ドルが下落)し、米国株が下落するとユーロ/米ドルが下落(米ドルが上昇)します。
(出所:TradingView)
こういった時、かつてはクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が上がったり下がったりしましたが、寂しいことに「円」はそうした対象ではなくなったようです。
■“Cash is King”で米ドルは上昇
ではなぜ、「リスクオフの米ドル高」となったのか――。
コロナによる経済危機が顕在化し始めた3月以降、FRB(米連邦準備制度理事会)は大胆な金融緩和策を次々と打ち出しました。
1.50-1.75%であった政策金利は0.00-0.25%へと1.5%も引き下げられ、事実上、無制限の量的緩和策やジャンク債の購入まで打ち出したのです。
こうした政策は、米国の通貨という側面を考えると、当然、米ドル売りとならなければなりません。
【参考記事】
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
しかし、経済危機のときには「現金」が必要です。
コロナ危機以降、“Cash is King(現金は王様だ)”という言葉がよく使われましたが、手元に、決済に必要な現金がないと会社は潰れてしまいます。
国際取引の現場における「現金」とは、「国際決済通貨」である米ドルです。
米ドルを必要とする世界中の企業、金融機関が手元に米ドルを必要としました。そのため、米ドルは上昇したわけです。
【参考記事】
●利下げにもかかわらずレパトリで米ドル高。弱い商品市況。豪ドルは弱い通貨に逆戻りか(3月18日、志摩力男)
■状況が落ち着けば米ドルは下落していくのではないか
そうであるならば、コロナによる危機的状況というものが落ち着けば、米ドルを手元に置く必要がなくなるので、米ドルは下落することになります。
それを簡単に判断する指標が米国株であるので、米国株上昇で米ドル売り、米国株下落で米ドル買いという動きになっています。
今は米国におけるコロナ感染になかなか歯止めがかからず、「第2波」に対する懸念も強く残っています。そのため、なかなか米ドル下落が進みません。
しかし、いずれ状況が落ち着けば、3月に行われたFRBによる大胆な金融緩和が浸透し、米ドルは下落していくのではないかと思います。
【参考記事】
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(5月13日、志摩力男)
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
■米国のゼロ金利は少なくとも5年ぐらい続きそう
前回6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、久しぶりに「ドットチャート」が示されましたが、2022年まで、ほぼ全員が現在のゼロ金利が継続すると予想し、驚かされました。
(出所:FRB)
しかし、個人的には米国のゼロ金利はもっと続くと思います。少なくとも、5年ぐらいはゼロ近辺なのではないでしょうか。
というのも、2006年6月の利上げを最後に、2008年に起こったリーマン・ショックを経て米国が再び利上げに踏み切るまでには、9年半かかっているからです(2015年12月、イエレン前FRB議長時代)。
現在の危機をリーマン・ショックと比較してよいのかわかりませんが、今回も相当の期間ゼロ低金利が続くでしょう。米ドル売り要因になると思います。
■香港国家安全法が施行。実は富裕層は歓迎
今回のコロナショックと前回のリーマン・ショック、1つ決定的に違うことがあります。それは、「中国」の存在感です。
GDPの規模において米国の3分の2程になってきましたが、14億人も人口を抱えていることもあり、事実上、世界最大の市場といえます。携帯電話や自動車販売数も米国を凌駕している状況です。
直近では、香港国家安全法が施行され、多くの逮捕者が出ています。
香港の民主化運動に携わる人々は窮地に追いやられており、大変残念です。
【参考記事】
●香港に衝撃!中国政府が国家安全法制定へ。なぜ中国は今、動いた? リスクオフになる?(5月27日、志摩力男)
しかし、各国は「遺憾の意」を表明するだけで、事実上、中国の措置を認めてしまっています。
香港は昔から、お金持ちほど中国政府に近い関係にあります。
西側メディアを見ていると、民主化の動きが潰されたという言い方しか見えませんが、富裕層は歓迎しています。
HSBC銀行が中国政府を支持したということで非難されていますが、香港や中国における収益で銀行が成り立っている以上、致し方ありません。
■コロナを抑制できない米国、いち早く制圧した中国
香港は、このまま潰されてしまうのでしょうか。
おそらく、そんなことはないでしょう。中国政府がテコ入れします。
「中国共産党の言うことを聞いていると、経済的には良いことがある」ということを、証明しようとするでしょう。
つまり、香港の民主主義は潰されますが、資本主義は残るということです。
今後、日本も含め、多くの国が強い中国と対峙しなければならなくなります。
世界最大の中国市場へのアクセスを優先するのか、それとも民主主義の原則を守るのか。
そして、中国経済が立ち上がってくると、欧州経済が復活します。欧州のブランド品・高級車を買うのは中国だからです。
【参考記事】
●欧州の経済打撃は第二次世界大戦に匹敵か。イタリアを救うのは中国!? ギリシャ危機と同じ!?(4月28日、志摩力男)
今は政治的に対立していますが、豪経済も中国によってうるおいます。
中国株式市場が急騰を始めましたが、コロナをいち早く克服した中国が経済活動の再開において、リードすることになりそうです。
(出所:TradingView)
コロナを抑制できない米国、いち早く制圧した中国。このコントラストが今後の世界経済に影響を与えそうです。
米ドル相場の大きな反転が、その意味でも近いと感じます。
【参考記事】
●米ドル/円の戻りを慎重に売っていきたい。株価下落のトリガーは香港めぐる米中対立か(7月6日、西原宏一&大橋ひろこ)
●米ドル/円は戻り売り継続! コロナ再拡大に香港情勢、トランプ劣勢報道など懸念増大…(7月2日、西原宏一)
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