■現実とマーケットの違いに猛烈な違和感
英エコノミスト誌、最新号(2020年5月9日)の表紙は象徴的です。
“A dangerous gap”と題し、金融市場と実体経済との間にある大きな「ギャップ」を表現していました。
The gap emerging between the markets and the real economy is unsustainable. Left unchecked, a backlash against big business is likely. Our cover this week https://t.co/O0ByeA4829 pic.twitter.com/YzoAdbu4iS
— The Economist (@TheEconomist) May 7, 2020
その後、巻頭コラム“The Market v the real economy”(「株式市場」対「実体経済」)に移るのですが、1929年世界大恐慌以来と言われる現実の経済に対し、株式市場は力強く戻しており、たしかにこの現実とマーケットの違いには、著しい違和感があります。
(出所:TradingView)
先日の米雇用統計発表時もそうでした。
失業者数2050万人、失業率14.7%という恐ろしいほどの数字が発表されましたが、「予想(失業者数2200万人、失業率16%)より良かった」とのことで、米国株はもう一段上昇し、米ドル/円やクロス円も買い戻されました。
【参考記事】
●衝撃の米雇用統計でバイ・ザ・ファクト! 米マイナス金利は年内!? ドル/円は戻り売り(5月11日、西原宏一&大橋ひろこ)
(出所:TradingView)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 4時間足)
日々市場に接する身からすると、「まあ、こんなもんかな」程度の動きです。
しかし、世界中で新型コロナウイルスというとんでもない敵と戦っている医療関係者のご苦労、日々の資金繰りと戦う事業者の方々、働き場を奪われている多くの人々のことを考えると、猛烈な違和感を感じざるを得ません。
■一部では「コロナバブル」という言葉も
今、富裕な人たちはNYを一時的に離れているようです。
感染者の多いNYを離れることは、個人としては合理的行動でしょうが、安全な場所から株の売買だけしている富裕層と、現場で戦う普通の人々という構図は、社会のギャップを感じさせます。
市場を支えているのは、猛烈な金融緩和措置を次々と実行しているFRB(米連邦準備制度理事会)、トランプ大統領による経済対策です。
米国では1人あたり1200ドルもの支援金が支給されましたが、使う必要のない人もいます。
そうした資金が米株式市場に流入、特にGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるIT株に流れて行っています。
仕事ができないからこそ、未来に投資するしかないという理屈ですが、一部では「コロナバブル」という言葉も出てきています。
■FRB関係者でマイナス金利を支持する人は1人もいない
傍から見ると、FRBは十分金融緩和したように見えます。
しかし、先週(5月4日~)、米金融市場で「事件」が起きました。1年ほど先のFF(フェデラルファンド)金利先物がマイナス圏に突入したのです。
【参考記事】
●衝撃の米雇用統計でバイ・ザ・ファクト! 米マイナス金利は年内!? ドル/円は戻り売り(5月11日、西原宏一&大橋ひろこ)
さまざまな解釈がありますが、スワップのレシーブ(金利の受け)がたまたま多かった等々、テクニカルな理由と見なされていました。
というのは、FRB関係者でマイナス金利を支持する人は1人もいないからです。
また、欧州や日本で、先行してマイナス金利は導入されていますが、問題が多く、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ECB(欧州中央銀行)も日銀も新たな金融緩和措置を取りましたが、マイナス金利には手をつけませんでした。
弊害が多くて動かせないのです。
■仕掛け人はトランプ大統領! FRBはどこまでがんばれる?
しかし、単なる市場のテクニカル要因と見られたFF金利のマイナス圏突入でしたが、やはり「火のないところに煙は立たない」。仕掛け人がいました。トランプ大統領です。
トランプ大統領はツイッターへの投稿で「ほかの国がマイナス金利の利点を得ているなら、米国もその『ギフト』を受け取るべきだ」と主張しました。明らかに圧力をかけています。
As long as other countries are receiving the benefits of Negative Rates, the USA should also accept the “GIFT”. Big numbers!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) May 12, 2020
大統領とFRBの戦いは、FRBの連戦連敗です。
【参考記事】
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
●株価と為替の関係はいつも同じではない。「リスクオフの円高」がなくなる日は近い(2月19日、志摩力男)
●下品なツイートを浴びせるトランプ大統領が作り出す米国株バブルはいつ崩れる?(2月12日、志摩力男)
FRBが経済を見誤ったという面が初期には少しあったかもしれませんが、大きなエラーでもありません。
やはり、FRBは独立しているとはいえ、最高権力者の発言はどうしても無視し得ないのです。
仮に、FRBが大統領と反対の立場をとって市場が下落した場合、どうしてもFRBの責任にされます。
トランプ大統領の圧力に対してFRBがどこまでがんばれるのか、そこが今後の焦点です。
■米国のマイナス金利導入で米ドルは地殻変動的に下落か
マイナス金利政策に賛成するFRB関係者が1人もいないという事実は、それだけ大統領側からの圧力が強く、これまでFRBは一枚岩でがんばって反対してきたという構図が浮かび上がります。
みんなで気弱なパウエル叔父さん(パウエルFRB議長)を支えてきたのです。
しかし、もし米国がマイナス金利を導入した場合、どうなるでしょう。
おそらく、これまで動かなかった分、米ドルは大きく下落します。地殻変動的に動くでしょう。
今後、パウエル議長の発言には細心の注意を払いたいところです。
米国がマイナス金利を導入した場合、米ドルは地殻変動的に大きく下落すると志摩氏は指摘。パウエルFRB議長の発言に細心の注意を払いたいという (C)Bloomberg/Getty Images News
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