■マーケットの注目はその時々で違う
当たり前のことですが、その時々でマーケットが注目していることは違います。
今は「新型コロナウィルス」のことで、市場参加者の頭の中は一杯です。
いつ、欧米の経済活動が再開するのか?
その時、日本もこの新型コロナを克服しているのか?
いつワクチンが作られるのか?
そもそもこの新型コロナは克服可能なものなのか?
感染症のことなどまったく何も知らなかったのに、専門家の意見をサーチする日々であり、それは世界中のトレーダーも同じです。
それがマーケットの最大の関心事であって、発表される経済指標を分析しても、未来は何もわからないからです。
【参考記事】
●「342兆円」VS「1855兆円」の行方は新型コロナウイルス次第。リーマンショック級の不景気も!?(2月27日、志摩力男)
●新型コロナの影響で市場は今後どうなる? 世界中が金利ゼロへ!? ドル/円100円割れも!(3月4日、志摩力男)
●新型コロナ後の世界はどうなる? ソフトバンクGの資産売却でポンド/円の売り!?(4月1日、志摩力男)
●新型コロナ不況とリーマン・ショックの違いは? 景気後退は厳しくなる。市場は楽観的すぎ!(4月8日、志摩力男)
■マーケット分析で一番大事なこともその時々で変わる
マーケット分析で何が一番大事なのか、それは、その時、その時で変わります。
リーマン・ショックの後は、欧米の銀行がいったんどのぐらい損失を抱えたのか、それが問題でした。
リーマン・ショックの後は、欧米の銀行がいったいどのぐらい損失を抱えたのかが問題だったと志摩氏は指摘 (C) Spencer Platt/Getty Images News
東日本大震災の後は、トレーダー全員が放射能の研究家になりました。
アベノミクスのときは、日米金利差と米ドル/円の相関関係ばかりが話題になり、そしてトランプ米大統領が誕生するかもしれないとなると、トランプ氏の自伝を読むなど、「にわか」トランプ研究が始まりました。
マーケットは本当にいつの時代も飽きさせてくれません。
■いつの時代にも通じる理論はない
それは、裏を返すと、いつの時代にも通じる理論というものは「ない」ということです。
日米金利差と米ドル/円の関係性、それは一時的には100%の相関性があるように見えますが、ある日突然消えます。株価との関係性もそうです。
【参考記事】
●株価と為替の関係はいつも同じではない。「リスクオフの円高」がなくなる日は近い(2月19日、志摩力男)
テクニカル分析にも似たものがあると思います。昔のチャートには「フラッシュ・クラッシュ」というものがありません。
【参考記事】
●シカゴ日経先物がフラッシュ・クラッシュ! 月曜の円高は2週続けてフェイク。今週は?(3月23日、西原宏一&大橋ひろこ)
●英国の合意あるEU離脱はあり得る? 週明けはフラッシュクラッシュ級の動きも!?
未来に通じる手法も中にはあるでしょうが、簡単には見いだせません。
■少数派がいつの間にか多数派になり、逃げきれなくなる
最高のパフォーマンスを出していたものが、突然最低になるということもよくあることです。
それは真似する人(コピーキャット)が増え、同じようなポジションを取り始めるので、それまで市場の少数派だったはずが、いつの間にか多数派になり、マーケットが崩れる時には流動性がなくなり、逃げ切れなくなるからです。
今回のコロナショックでは、リスクパリティファンドが大きな損失を出しました。
コンピューターによる市場分析では、負けない事になっていましたが、単純にリスクパリティファンドが大きくなりすぎた、そのことこそが敗因だったとも言えます。
■欧州や米国は中国以上に感染者・犠牲者の数が多い
さて、市場はコロナがそのうち「克服される」と考えています。
ロックダウンが成功するのかどうかわかりませんが、「武漢」が曲がりなりにも2ヶ月半のロックダウンを経て解除されました。中国は次第に生産活動を再開するものと思われます。
今は、欧州や米国が厳しい時を迎えています。心配なのは、中国以上に感染者・犠牲者の数が多いことです。
(出所:TradingView)
中国は社会主義国なので、国家の厳しい統制のもとに、徹底したロックダウンが行われましたが、自由主義の国で同程度の事ができるか、わかりません。
■FRBはこの「どさくさ」に何をした?
また、コロナの惨禍に見逃されていますが、各中央銀行が行った金融緩和措置にも凄いものがあります。特に米国です。
FRB(米連邦準備制度理事会)は、この「どさくさ」に何をしたのでしょうか。
3月18日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)を待たずに、3月3日(火)に0.50%、3月15日(日)に1.00%と、合計1.50%利下げしました。
【参考記事】
●新型コロナ対策でFRBが0.5%の緊急利下げ! ドル/円は短期で105円台、中期では100円も(3月5日、西原宏一)
●FRBが緊急利下げでゼロ金利政策再開! 大規模緩和でも米株安止まらず。為替は?
●FRBが緊急利下げ&QE再開! それでも105円を割らない米ドル/円は押し目買いか(3月16日、西原宏一&大橋ひろこ)
3月23日(月)には「必要な量の米国債とMBS(住宅ローン担保証券)の購入を続ける」と事実上無制限に量的緩和政策を行うと宣言しました。
それに加え、銀行などの市場参加者にPDCF(※)、MMLF(※)、TALF(※)等を行いました。
(※編集部注:PDCF(プライマリーディーラー・クレジットファシリティー)とは、プライマリーディーラー(政府証券公認ディーラー)向けの緊急融資プログラムのこと。MMLF(MMMF流動性ファシリティー)とは、マネーマーケット・ミューチュアル・ファンド(MMMF)に流動性を供給する緊急プログラムのこと。TALF(タームABSローン・ファシリティー)とは、学生ローンや自動車ローン、クレジットカードローンなどを担保とするABS(資産担保証券)の発行を可能にするプログラムのこと)
驚くのは、企業や地方政府向けに次々と放った政策です。CPFF(※)、PMCCF(※)、SMCCF(※)等を3月17日(火)、3月23日(月)と行いました。
(※筆者注:CPFF(コマーシャルペーパー・ファンディングファシリティー)とは、コマーシャルペーパーの直接購入による資金供給プログラムのこと。PMCCF(プライマリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー)とは、プライマリー市場における企業向け直接資金供給プログラムのこと。SMCCF(セカンダリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー)とは、セカンダリー市場における企業向け直接資金供給プログラムのこと)
【参考記事】
●FRBが流動性供給策導入も、米ドルの需給逼迫は継続! 株安でも米ドル/円は上昇か(3月19日、西原紘一)
しかし、それ以上に4月9日(木)に、PPPLF(ペイチェック・プロテクション・プログラム・リクイディティーファシリティー)、MSLP(メイン・ストリート・レンディングプログラム)、MLF(ムニシパル・リクイディティーファシリティー)といった政策も打ち出しました。
あまりにも数が多く、複雑なので、個々の政策の詳細な説明は省略させてください。すべてを理解している人は、市場関係者でも少ないと思います。
■FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった
ポイントとなるのは、企業のCP(※)の買い取りを行うもので、投資適格級からジャンク級に最近落ちたものであれば、ジャンク級のものも買うと言ったことです。
(※編集部注:CP(コマーシャルペーパー)とは、企業が短期資金の調達の為に発行する無担保の約束手形のこと。企業は公開市場で割引形式で発行する)
ドラギ前ECB(欧州中央銀行)総裁は「ユーロを救うためにはなんでもやる(Whatever it takes)」と言い、欧州では不可能と思われていた量的緩和も含めて、積極的な金融緩和で欧州経済を救いました。
【参考記事】
●ドラギ・マジックがブラックスワンを招く!? ECB追加緩和前に第二のスイスショックも!(2015年10月23日、陳満咲杜)
「なんでもやる」は正しいことに聞こえます。でも、今回FRBが行ったことは、それを遥かに超えています。
FRBはトランプ政権のための「無限の財布」になりました。ここには、節度というものが感じられません。
■市場正常化とともに米ドル下落が始まる
新型コロナショックの頃は、米ドルに対する需要が異様に高まり、米ドル/円が突然101円台から111円台へと急騰しました。
しかし、その需要は時間の経過とともに落ち着きます。
(出所:TradingView)
政権からのプレッシャーかもしれませんが、FRBは中央銀行として踏みとどまるべきところを超えてきた感じがします。
これでマイナス金利まで導入した場合、米ドル下落は避けられないのではないかと思います。
市場正常化とともに、米ドル下落が始まると考えます。
(出所:TradingView)
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