■素人集団がウォール街のプロを打ち負かした
米ゲームストップ株の件で世間が騒いでいる間、株式市場の上昇が一服する気配を見せている。
(出所:TradingView)
個別株の話を取り上げるつもりはないが、簡単に言うと、素人たちが空売りの多い個別株を一斉に買って、ヘッジファンドの踏み上げを招き、大損させるなどといった、いわゆる素人集団がウォール街のプロを打ち負かしたという話である。
今の株式相場がおもしろいというか、過去の経験側が通用しないことを物語っている。その背景にあるのは、やはり米史上最大規模の量的緩和のほかあるまいが、過去の経験則が通用しなくなっているからこそ、その行方も神のみぞ知るだ。
神のみぞ知るのであれば、トレンドの逆張りはできないことだけが正しいと言える。ウォール街のプロたちが、この基本的な認識において間違ったのだから、負けも当然だと思われる側面がある。
■米国の劣化を象徴する「不都合な真実」か
余談だが、今回の出来事に対する機関投資家の危機感は相当強いと言われ、自らの利益を守るために、ネット証券大手に圧力をかけ、銘柄コードを削除するなど過激な取引停止措置に出たりと、米証券取引の公正性が強く疑われる出来事が発生している。
ツイッター社が前大統領のアカウントを封鎖したり、削除したりする出来事と同じく、米国の劣化は看過できない。
トランプ嫌いとして知られる独メルケル首相が指摘したように、在任中の大統領の発言を封鎖できるかどうかは立法院が判断すべきもので、一民間企業が行うのは僭越であり、すべきではない。
ロビンフッダー(※)と言われる若者を中心とした素人軍団が買い煽ること自体に問題があれば、監督当局の責任で取り締まればいい話で、一証券会社にその権利がないことは明らかだ。
しかし、トランプ氏がまだ在任中の時点において米司法当局が沈黙していたのと同じく、今のところ、米証券監督当局から何の措置も見られない。
このままでは、「モンスター大企業」が政府に取って代わり、国家を管理しかねないから、「民主主義の鏡」と自称する米国にとって「不都合な真実」となり、他国を説教する資格もなくなりつつあるかと思う。
(※編集部注:ロビンフッダー(Robinhooder)とは、米国のロビンフッド証券が提供するスマホの株式取引アプリ「ロビンフッド」で売買を行う個人投資家のこと。1人あたりの投資額は少額ながら、新型コロナウイルスの影響で在宅を余儀なくされた若者を中心に爆発的な増加を見せており、株価を動かす要因とされている)
■米ドルは覇権を失いつつあるが、しばらくはリスク回避先に
さて、為替市場は大きなトレンドが見られないものの、やはり米ドルが買われている。
米国の「不都合な真実」が鮮明化された状況の中、米ドル売りではなく米ドルが買われること自体も一見「不都合」に見えるが、つまるところ、米ドルこそ真のリスク回避先である。
少なくとも「ポストコロナ」の時期において、米国の「不都合」があっても米ドルが買われる宿命にあるから、むしろ自然な成り行きだと思う。
コロナ死者数40万人超の米国は、第二次世界大戦の死者数を超えたと言われ、コロナ禍は米国にとって第三次世界大戦に相当するという見方が多い。
第一次世界大戦で英国の覇権が失われたように、米国も覇権を失いつつある状況にあると思われ、将来、米ドルの覇権的地位の消滅も考えられる。
しかし、英ポンドがかつての地位を完全に失うには100年もかかったとの研究結果があるように、将来、米ドルの基軸通貨としての地位喪失があっても、それは一朝一夕で失われるものではなく、むしろしばらくの間、リスク回避先として評価される可能性の方が大きい。
したがって、マクロ視点と相場におけるロジックを混同しないほうが賢明であることも明らかだ。
■目先、米ドル/円は105.50円前後まで上昇するか
前回(1月22日)の本コラムでは、米ドル/円の打診買いとクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のトレンド追いを推薦していた。
【参考記事】
●米ドル/円の「試し買い」ならありだけど積極的に試すべきはクロス円のロング!(2021年1月22日、陳満咲杜)
現時点の市況に概ね合っていると思うが、米ドル/円は、より積極的な買いのシグナルを点灯しているから、クロス円ほどではないものの、適当なポジションの買い増しがあっても良いかと見る。
2020年11月高値から引かれてきたレジスタンスライン(赤)や2020年6月高値から引かれてきたレジスタンスライン(黄)をブレイクした後、米ドル/円の押しは103円台前半に留まり、目先まで上昇している。
(出所:TradingView)
2021年年初来高値の更新をもって、年初の底打ち、および、これから切り返しが継続される可能性を示唆している。
目先の上昇余地で言えば、やはり昨年(2020年)11月高値105.50円前後をターゲットにできるかと推測され、達成できるなら、新たな強気サインの点灯につながる。
現時点の米ドル/円は、切り返しの途中と考えられるが、あくまでベア(下落)トレンドに対する修正なので、過大評価すべきではない。
しかし、しばらく1月21日(木)安値103.32円を下回らないかもしれない。同日までの押しが、2020年11月高値から引かれた元レジスタンスラインの延長線を下回らなかったように、現時点で2020年6月高値から引かれてきた元レジスタンスラインの延長線(黄)を下回らなければ、切り返しの継続が有力視される。
■英ポンド/円やユーロ/円は高値トライ
一方、ドルインデックスは90後半に留まり、執筆中の現時点で91の節目を突破していない。
(出所:TradingView)
これが何か意味するかというと、米ドル全体が買われている中、米ドル/円の方がよりモメンタムが付きやすく、主要外貨のユーロや英ポンド、豪ドルは相対的に対円も強い、と推測される。
したがって、英ポンド/円の2020年高値更新は当然の成り行きで、ユーロ/円は中段保ち合いを継続しているものの、早晩、高値を再トライするだろう。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
高値圏でいったん鈍化しているように見える豪ドル/円も、大した押しを作れず、あくまで上昇トレンドにおける浅い調整に留まる見通しで、クロス円における押し目買いのスタンスは維持される。
(出所:TradingView)
■引き続き、米ドル/円、クロス円の押し目買いスタンスで
クロス円の失速があるとすれば、それはほかならぬ、米ドル全体が急上昇し、米ドルの大幅上昇がもたらした外貨の大幅安が見られる場合だ。
が、現時点ではそのような懸念は不要だと思う。
ゲームストップ株の件(これから何らかの監督や規制も入るかと思う)で市場心理が悪化し、米国株が高値圏で波乱にあっても、それはあくまで高値圏でのスピード調整になる思われ、本格的な反落トレンドに程遠いだろう。
なにしろ、米史上最大規模の緩和がなお継続中で、FOMC(米連邦公開市場委員会)も明白なスタンス転換を示していないうちは、米国株の強気変動がなお続くはずだ。
このようなマクロ環境の中、米ドルの切り返しがあっても、あくまで調整変動に留まり、本格的な暴騰は現実的な見方ではないと思う。
となると、クロス円にとって、しばらく「居心地のいい」環境が続くはず。米ドル/円とクロス円における押し目買いのスタンスも、しばらく維持していきたい。
市況はいかに。
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