■国が借金したお金が株式市場に投入された
世界中の株価が高い水準にあり、これが「バブル」だと指摘する声が大きくなってきています。
経済状況が未だ困難なのに株価だけが急騰する、そうした世界を昨年来(2020年来)我々は見てきているのですが、やはり少し違和感があります。
【参考記事】
●NYダウが3万ドル突破! バブルが続けば為替市場にリスクオン相場が戻ってくるかも(2020年11月25日、志摩力男)
●日本株は世界のバリュー株。ワクチンの成功でバリューシフト進めば円高・株高か(2020年11月18日、志摩力男)
●株価上昇=経済政策が正しいと言えるのか? 迫る大統領選、人種問題がトランプの逆風に!(2020年6月10日、志摩力男)
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(2020年5月13日、志摩力男)
株式市場好調の背景にあるのは、中央銀行による超金融緩和と、政府による多額の財政支出です。
特に今回は、政府は給付金として直接個人にお金を手渡しました。それは、本当に必要な人々の生活を支えたでしょう。
しかし、必要のない人は、そのお金を株式市場等の投資に回しました。要は、国が借金をしたお金が株式市場に投入されたわけです。そこは、やはり違和感を覚えざるを得ません。
■「バブル」が終わるタイミングも、まだ来ないか
米国ではバイデン民主党政権が誕生し、しかも「トリプルブルー」も実現しました。
【参考記事】
●金融緩和し過ぎとの警戒感で、米ドルは少し反発か。中長期のドル安は変わらない(1月13日、志摩力男)
●「トリプルブルー」実現は、かなり濃厚! 2021年初頭も株高・米ドル安の動きか(1月6日、志摩力男)
米国ではバイデン民主党政権が誕生し、しかも「トリプルブルー」も実現した (C)Scott Olson/Getty Images News
民主党の政策は、巨額の財政支出と増税です。
ただ、そこには時間差があり、先に財政支出でコロナ禍の経済を浮揚し、その後、増税するということになります。
そうなると、さらなる資金という名の燃料が株式市場に投下されるということになり、「バブル」が終わるタイミングもまだ来ないということになるのかもしれません。
■ロビンフッダーたちが巨大ヘッジファンドを締め上げた
こうした中、昨日(1月27日)はロビンフッダー(※)たちが巨大ヘッジファンドを締め上げるという事件が起きました。
(※編集部注:ロビンフッダー(Robinhooder)とは、米国のロビンフッド証券が提供するスマホの株式取引アプリ「ロビンフッド」で売買を行う個人投資家のこと。1人あたりの投資額は少額ながら、新型コロナウイルスの影響で在宅を余儀なくされた若者を中心に爆発的な増加を見せており、株価を動かす要因とされている)
【参考記事】
●米国株は2月に下落するのか? 1400ドルの給付実現で、ロビンフッダーが投機に走る(1月20日、志摩力男)
ロビンフッダーたちは、米SNSであるredditの中の掲示板「wallstreetbets」に集い、意見交換するようです。
そこで、メルビンキャピタル(Melvin Capital)という大手ヘッジファンドがゲームストップ株(GME)を大量にショートしている情報が流れ、声の大きな個人投資家が次々とオプションの購入に走り、全体として巨額のオプション購入となったようです。
遠くのアウトオブマネーオプションは、放っておけば、たいがいはストライクに達することなく満期を迎えます。
しかし、少しでも値段が上がってくると、オプションを個人投資家に売ったロビンフッド証券もしくはマーケットメイカーは、ヘッジで少量のゲームストップ株を買わなければなりません。
それがどんどん続き、値段がストライクプライスに近づいていくると、より大量の株をヘッジ買いしなければならず、価格がさらに急騰すると、ショートしているメルビンキャピタルにもマージンコールがかかり、買い戻さざるを得なくなった、というわけです。
(出所:TradingView)
■メルビンキャピタルは27億5000万ドルもの資金を得た
今回スクイーズを食らったヘッジファンドはメルビンキャピタルといい、運用者であるゲイブ・プロトキン(Gabe Plotkin)氏は過去何年も30%前後のパフォーマンスを出しているトップファンドマネージャーです。プロ中のプロです。
しかし、今年(2021年)は15%マイナスで、昨日のゲームストップ株急騰により、マイナス幅は30%以上になったものと思われます。
そのため、ゲイブ・プロトキン氏は、彼が以前働いていた大手ヘッジファンド、ポイント72のオーナー、スティーブ・コーエン(Steve Cohen)氏に助けを求めたようです。コーエン氏はすでに投資しているにもかかわらず、追加でさらにファンドに投資したようです。
また、最大手ヘッジファンドであるシタデル(Citadel)のケネス・グリフィン(Kenneth Griffin)氏も投資し、合計27億5000万ドルもの資金をメルビンキャピタルは得ました。
いかに運用者であるゲイブ・プロトキン氏への信頼が厚いかがわかります。
■個人投資家のほうが有利な状況が生まれている
今後もヘッジファンド対個人投資家の戦いは続くのかもしれませんが、大手ヘッジファンドのショートポジションを積極果敢に狩りに行くのは、個人投資家というには失礼で、もう相当な手練です。
CNBCのジム・クレイマー(Jim Cramer)氏も“They are much smarter than we think(彼らは私たちが思っているよりもはるかに賢い)”と驚きを隠していませんでした。
これまでは資金量でヘッジファンドに敵うわけがなかったのですが、個人でも簡単にオプションを売買できることから、こうしたことが可能になりました。
それどころか、テクノロジーの進化で、かえって個人投資家のほうが有利という状況も生まれています。
為替の為替の世界では、個人投資家のほうがプロよりも狭いスプレッドで売買しています。
■ロビンフッダーがまだ戦えるかはケネス・グリフィン氏次第
今回、米国のメディアを見て興味深かったのは、株のアナリストやプロのファンドマネージャーが個別株を挙げて、「買おう!」とけしかけた場合、これは風説の流布、相場操縦になり逮捕されますが、一般の個人の場合は、「表現の自由」で守られるこということです。
しかも、手元にある武器は昔の竹槍とは違います。個人でも高射砲を打てるようになり、上空のB29を撃ち落とすことができるようになったのです。
今後の展開ですが、メルビンキャピタルはまだ巨大なショートを持っているようです。
よって、ロビンフッダーはどこまでも締め上げたいと思っているでしょう。
しかし、彼らが購入しているオプションは、実は、今回メルビンキャピタルに投資した、シタデルが値づけしているものです。
ヘッジファンド、シタデルは個別株オプションの大きなマーケットメイカーです。
仮にシタデルが価格を提示するのを止めたら、ロビンフッダーも戦えなくなり、ゲームストップ株は暴落することになるでしょう。
でも、それではあまりにもあからさまなので、オプションのプライスのスプレッドを広げたり、証拠金を上げたり、微妙な対応で買い難くするかもしれません。
すべては、追加投資をしたケネス・グリフィン氏の一存なのです。
■株式バブルが修正を迎える時、為替市場も大きく動き出す
今回のゲームストップ株のような事件は、たいがいバブルのピーク辺りに起こります。その意味では、もうすでにかなりバブルなのでしょう。
では、バブルがどうなるかというと、短期的には民主党の経済対策が実現するのかどうかにかかっていると思います。
【参考記事】
●米国株は2月に下落するのか? 1400ドルの給付実現で、ロビンフッダーが投機に走る(1月20日、志摩力男)
しかし、先程も書きましたが、民主党の政策は、巨額の財政支出もするが、増税もします。
増税のタイミングがいつなのか。
経済が立ち直ったあとになるので、2~3年後かなと思っていましたが、バイデン大統領は高齢なので時間がありません。今年(2020年)後半にも増税に向かう可能性が出てきています。
また、株式譲渡益課税を増やすことも政策の1つです。先日、イエレン次期財務長官は、いずれそうすると言っていました。
財政は出すが、増税も来る。そうなれば、株式のお祭りも、もうすぐ終わることになります。2月なのか夏なのか、わかりませんが、大きく調整する局面がいずれ来ることになります。
そうなると、為替もようやく動きます。
多くのチャートが同じように見えるということは、背景の理由が同根ということでしょう。
株式バブルが修正を迎える時、眠っていた為替市場も大きく動き出すのだと思います。
(出所:TradingView)
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