昨日はアジア時間でリスク回避の流れが強まった。そもそも前日の米国株の軟調さの地合いを引き継いだ直後でもあり、そこへ持ってきて香港でもキャピタルゲイン課税の強化が図られることとなった。中国株はスローダウン。そして日本株も引きつられて大幅安になった。
そうしたリスクオフの状況からドル円は105円台の前半をウロウロしていたのだが、欧州時間に入ってからは急速に市場のリスク許容度が回復。特にユーロ円の上げ方がすごかった。欧米ではワクチンの接種ペースが早まるとの観測が強まって、それがリスクテークへと赴かせたのだ。ドル円も106円台に乗せてきたりしている。
パウエル議長の発言は前日と同じもの。ニューヨーク序盤で10年ものの利回りが1.43%台まで上昇したが、議長のトークの後で急速に低下した。
ところで長期金利というが、これは短期金利に対する便利な用語であって、実際には長期債の利回りをもって長期金利と呼んでいるだけだ。長期金利が2%だからといって、これは流通利回りであって、格別に2%分のお利息がもらえるわけではない。したがって厳密には長期金利と呼ぶには注意を要する。
株式運用などでも投資の運用利回りといった表現がなされる。また配当率を見ていくときにも配当利回りなどと言っている。利回りはあくまでも便宜的な尺度の一つであって、利息を表すための金利とは別物と思ってかからないといけないのである。
長期金利が上がると、その通貨の価値はどうなるのか。金利と同じようなものと混同していると、「長期金利の上昇は通貨高をもたらす」などといったコメントを行うことになる。これで間違っている評論家も多い。長期金利は金利ではなくインフレ、すなわち通貨価値の減退の度合いだと考えるのが順当である。
1980年代を通じて90年代の初旬までアメリカはインフレに悩まされ、長期金利は10%を遙かに超えていた。その際にドルはどうだったか。通貨価値の減少は避けられず、大幅なドル相場の全面安を招いたのである。
インフレが物価高と同等だということではない。しかし通貨価値の減退がインフレなのだから、表面化する現象として物価高も関係がないとは言えない。近いところではリーマンショックの直前まで、物価高が続いた。原油価格は150ドル近くまで上昇し、金価格も高騰。その時期にユーロドルは1.6台まで上がっており、ドル安も極まっていたのである。
FRBなど金融当局はインフレの進行を認めていない。あくまでもコロナ後の反動であり、一時的な物価高であるとしている。しかしそれは期待というか思惑であって、それを実体に即して正直に表すのはマーケットであろう。
とくに米債の先物価格の下げには注意を払わないといけない。何もなければ、それでよし。しかし後から振り返って「あれがインフレの始まりだったんだなあ」と後悔しないためにも、長期金利の動向には気を抜けない。場合によってはドルの全面安、しかも大幅安が待っているかもしれないのだ。
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