■強い米CPI発表後の米ドル急騰は正しかったのか?
ちょっと小難しい話を…。
先週(5月10日~)の水曜日(5月12日)、米CPI(消費者物価指数)が発表され、対前年比で市場予想の3.6%上昇を大きく上回る4.2%上昇、対前月比も市場予想0.2%上昇を上回る0.8%上昇となり、マーケットを震撼させました。
発表後、米ドル/円は108.70円前後から109.78円前後へ、ユーロ/米ドルは1.2150ドル前後から1.2050ドル前後へと、米ドルは急騰しましたが、この市場の反応は正しかったのでしょうか?
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
通常、インフレ関連の指標が上昇すると、その通貨は買われます。
しかし、インフレというのは物価の上昇、反対から見れば通貨の購買力が落ちるということです。経済学的には、他の条件に変化がなければ、インフレ率の高い国の通貨は下落し、インフレ率の低い通貨は上昇するはずです。マーケットで起こっていることは、理屈からいうと反対の反応といえます。では、どうして市場は理屈とは反対の動きをするのか?
おそらくそれは、「インフレ率上昇→中央銀行がインフレ抑制のため金融引締めに動く→金融引締めを受けて通貨上昇」という連想があり、市場は大概、中央銀行による金融引締めの動きをすっ飛ばしているからだと思います。
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■FRBのインフレ容認は米ドル安容認と同義
では、今回はどうなのでしょうか?
米国のインフレ率は目先上昇しそうに見えますが、ダラス連銀のカプラン総裁以外から早期のテーパリング(※)を促す声は聞こえてきません。
つまり、今のところ、FOMC(米連邦公開市場委員会)の大勢としては、早すぎる引締めには反対であり、2024年まで利上げはしないというスタンスは維持されているのでしょう。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
そうであるならば、いくらインフレ率が上昇しても、中央銀行による金融引締めがないので、米ドル高にはならず、むしろインフレ率上昇の分だけ米ドルは減価して行くということになります。
もちろん、パウエルFRB議長やFOMC内の意見が劇的に変化する可能性はあります。その時は、素直に米ドルは反転するでしょう。
しかし現状のままであれば、米ドルは下落トレンドに入るでしょう。雇用を重視し、インフレを容認するFRBは、米ドル安も容認ということです。
【参考記事】
●FRBのインフレ容認姿勢がより顕著に。米ドル下降トレンド再開は時間の問題か(5月12日、志摩力男)
市場もそれに気がついてきたのでしょう。米CPIの発表後が米ドル高のピークで、その後、米ドルは下落に転じています。
(出所:IG証券)
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■来月の米CPIが強かった場合、米ドルはどう動く?
来月(6月)の米CPIが予想以上に大きな数字だった場合、そのときはどうなるか?
これまでの市場の反応の名残があるので、おそらく米ドル高に反応するでしょうが、今回、米ドル安に転じたように、米ドル高への反応は時間の経過とともに消え、比較的早く米ドル安に転じるのではないかと思います。
そして、この米ドル下落を止めることができるのはFRBだけで、金融政策を引締め方向に転じれば、すぐにマーケットも米ドル高で応えることになるでしょう。
写真はパウエルFRB議長。米ドル安になった場合、止めることができるのはFRBだけ。金融政策を引締め方向に転じれば、すぐにマーケットも米ドル高で応えるというのが志摩さんの見解 (C)Bloomberg/Getty Images News
今回は、インフレ率に注目してみましたが、先進国同士であれば、インフレ率の差は大きくありません。せいぜい数%です。よって、米ドルの下落トレンドといっても、下落幅も大きくはないと思います。
■新興国でインフレ率高い通貨は、ロングの深追い注意
しかしその一方で、新興国通貨においては、インフレ率の差には決定的なものがあります。
インフレ率の高い国となると、トルコやブラジル、アルゼンチンなどを思い浮かべることができますが、いずれも長期低落傾向です。時間の経過とともに、物価が全然違ってくるので、元の為替レートに戻ることは不可能になるのです。それは、少々金利を上げても、追いつきません。
新興国通貨のロング(買い)は、インフレ率が高い通貨に関しては、あまり深追いしないことが肝要かと思います。そして選ぶなら、比較的インフレ率が高くない国が良いのではと思います。
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