ユーロ/円の安値割り込みで、鮮明になった2つのポイント
前回のコラムでは、ユーロ/円の安値再更新を警戒すべきだと指摘した。その指摘どおり、ユーロ/円は7月安値を割り込み、続落の勢いが増している。
【参考記事】
●ユーロ/円の7月安値割れを警戒! なぜ、ユーロ/円の動向が一番重要なのか?(2021年8月13日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
ユーロ/円の動向は重要であることも繰り返し指摘してきたとおりで、ユーロ/円の安値割り込みにより、以下の2つのポイントが改めて鮮明化したのではないかとみる。
まず、ユーロ/円の安値更新や続落はユーロ/米ドルの2021年年初来安値の更新が主導しており、換言すれば米ドル全体(ドルインデックス)の上昇や2021年年初来高値の更新がもっとも大きな背景であった。
(出所:TradingView)
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次に、米ドル全体の急伸があったからこそ、米ドル/円の頭は抑え込まれ、早期高値トライの可能性は後退したと言える。
その理屈について、筆者は本コラムにて繰り返し説明してきたので、ここでは重複しないが、ドルインデックスの年初来高値の更新については、少しマクロの視点からみてみたい。
【参考記事】
●ユーロ/円の7月安値割れを警戒! なぜ、ユーロ/円の動向が一番重要なのか?(2021年8月13日、陳満咲杜)
コロナ禍への対応で米ドルがばら撒かれ、米ドルは下落。でも、過去と比較してドルインデックスはどうだった?
昨年(2020年)のコロナショックがもたらした混乱や、マーケット心理の動揺は記憶に新しい。
米国株が暴落し、15取引日で5回もサーキットブレーカーは発動、大恐慌の再来だとか、リーマンショックを超える規模の景気後退といった論調が2020年3月、4月あたりはもてはやされたが、結果的には大きな間違いだった。
米国株は大暴落どころか大暴騰し、連日史上最高値を更新、代表的なS&P500で測れば、コロナショック後の安値からすでに100%以上の上昇率を達成、当時におけるもっとも楽観的な予想さえはるかに超えた。
(出所:TradingView)
為替市場はどうだろうか。コロナショック後、ドルインデックスは一時暴騰、2017年高値を一時上回ったほどの急騰であった。
(出所:TradingView)
危機の時は、米ドルこそが本当のリスク回避先であることが証左され、米ドルの真価が再確認された歴史的な瞬間であった。
もちろん、それは長く続かず、ドルインデックスは高値から大きく反落し、今年(2021年)1月安値につながった。
「もちろん」と言うことは、理屈に沿った値動きだということだ。なにしろ、コロナ禍やコロナショックに対応するため、FRB(米連邦準備制度理事会)や米政府は、前代未聞かつ天文学的規模(※)の金融緩和や財政出動を打ち出した。
(※執筆者注:いろいろな計算の仕方があるが、最大18兆ドルとの計算もある)
単純に言えば、ここまでお金をばら撒いたのだから、米ドル全体の下落は当然の成り行きであった。
しかし、大事なのは過去の相場との比較だ。過去のコラムでも指摘したように、ドルインデックスの2021年1月安値89.16は、2018年安値88.15より高く、また2008年安値70.80より約26%も高い位置にあった。
(出所:TradingView)
リーマン・ブラザーズが倒産したら米ドルは買われた。米ドルは究極のリスク回避先であることが証左された
足元、2021年年初来の高値更新もあって、米ドルはこれから一段高となりやすい環境にある。このことは、米ドルの地位をますます証明することになるのではないかとみる。
なぜなら、2008年のドルインデックスの安値は、ニクソンショック後、米ドルが付けた最安値だったからだ。
2008年はあのリーマン・ショックが発生、リーマン・ブラザーズの倒産前にマーケットはすでに混乱しており、市場関係者は強い警戒態勢を敷いていたから、米ドル売りが殺到した。
しかし実際、リーマン・ブラザーズが倒産したら、ドルインデックスはむしろ買われた。真の危機の時、米ドルは究極のリスク回避先となることを証左したわけだ。
その後は周知のとおり、FRBは大規模な量的緩和(QE)を3回(実際は4回とも言われる)も実施、天文学的規模のお金をばら撒いたが、ドルインデックスは2008年の安値を割ることはなかった。
米ドルの真価が、歴史的な金融ショックをもって証左されたと思われたからこそ、ドルインデックスはその後、上昇トレンドを展開し、これが2017年の103.81の高値トライにつながった。
(出所:TradingView)
天文学的規模のお金をばら撒いてもレートが切り下がらなかったのだから、これは米ドルの真価が証明されたというほかあるまい。
米史上最大規模にお金はばら撒かれたが、ドルインデックスは2018年安値を割り込まなかった
2017年高値からドルインデックスは一時、急激に調整していたが、その調整は2018年安値88.15までに留まり、2008年安値を起点とした全上昇幅で測ると、半値押しに至らなかったので、米ドルの実力が再度示唆されたといえる。
(出所:TradingView)
そして何より肝心なのは、今年(2021年)の年初来安値が2018年安値を割り込まなかったことだ。
量的緩和にしても、金融緩和や財政出動にしても、言葉が変わっても本質は変わらない。要するにお金のばら撒きだ。
昨年(2020年)、コロナショック後に米政府やFRBが打ち出した政策は米史上最大のものである。一連の政策に基づくお金の供給量は、もちろん米史上最大となったわけだが、それでもドルインデックスが2008年安値どころか、2018年安値さえ割り込まなかったこと自体が、何よりも大きな示唆であり、また、強いサインであったことを強調したい。
ゆえに、ドルインデックスは2021年年初来高値、すなわち3月末高値を更新しているが、まだまだ上昇の途上にあり、また、そのスピードはこれから一段と加速することだろう。
(出所:TradingView)
マクロの視点から見れば、米ドル高は本物。ユーロ/米ドルはパリティへ!
マクロの視点からみれば、米ドルは歴史的な試練に耐えてきたから、米ドル高は本物である。そして、多くの市場関係者の想像をはるかに超えるスケールで、雄大なトレンドを形成していくだろう。
あえて言うなら、筆者は戦後一貫して継続してきた米ドル安の大きな流れは、2008年ですでに終焉しており、米ドル全体は長期強気変動相場に移ってきたとみる。
この視点が正しければ、ユーロは長期下落サイクルに入り、いつになるかはわからないが、パリティ(1ユーロ=1米ドル)になる市況がみられると思う。
(出所:TradingView)
歴史的な強い米ドル高の局面がみられる場合は、往々にしてファンダメンタルズの急変を伴うから、ユーロという通貨自体の再分裂(新ユーロの誕生で2つに分かれるなど)もあり得るかと思う。もちろん、これは長期スパンの話で、ここ数年の話ではないことにはご注意いただきたい。
マクロすぎる話で申し訳ないが、目先の相場では、ドルインデックスの2021年年初来高値更新で米ドル高の勢いが一段と増しており、逆張りの米ドル売りは禁物。
ユーロ/米ドルやユーロ/円をはじめ、しばらく主要ドルストレートやクロス円の下値追い(外貨売り)の市況が続くのではないかと思う。市況はいかに。
(14:00執筆)
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