想定より悪い米雇用統計結果でドルインデックスが反騰してきた理由とは?
前回の本コラムでは、米雇用統計の数字を問わず、米ドル全体の反落が一服する可能性を指摘していたが、結果的に予想どおりの展開となった。米雇用統計の数字自体は想定より悪かったが、米ドル全体が一段と下落する展開にはならず、むしろ反騰してきた。
【参考記事】
●米雇用統計のサプライズは予測数値との差より市場センチメントとの差の方が重要! 目先の市場センチメントは?(2021年9月3日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
ドルインデックスを改めて見てみると、2021年9月3日(金)の米雇用統計がリリースされる直前に、いったん91.80の安値をトライし、7月末の安値を更新する寸前だったことがわかる。ところが、雇用統計が発表されると、市場関係者の予想よりだいぶ悪い数字であったにもかかわらず、結局安値を割らずに、比較的にやや高く大引けした。
(出所:TradingView)
米ドル売りの「出尽くし」を示唆するサインであったと読み取れる。
ゆえに、一昨日(9月8日)までに一時92.86をトライし、8月高値を起点とした全反落幅の半値戻しを一時達成した。
2週間続いた米ドルの反落はいったん休止となり、なお保ち合いの状況にあるが、7月安値割れといったリスクが低下しているのは間違いない。
ドルインデックスの反落は、ジャクソンホールや米雇用統計という連続した2大イベントと相まって展開されてきたものの、同イベントの通過で一服してくれば、元のトレンドへ復帰するのも自然な成り行きとみる。
元のトレンドと言えば、2021年年初来安値から継続されてきた緩やかな上昇トレンドというほかあるまい。メイントレンドとしての米ドル高基調がなお維持される、ということである。
ドルインデックスの高値維持自体が米ドル高トレンドの継続を強く示唆
米ドル高の継続に懐疑的な見方は多いが、コロナショック後の安値トライがあっても2018年安値を割らずに済んだことは見逃せない。
理屈は本コラムで繰り返し指摘してきたので、ここでは重複しないが、前代未聞の金融緩和や財政出動があったにもかかわらず、ドルインデックスが高値を維持していること自体が大きなサインとなり、米ドル高トレンドの継続を強く示唆する存在となっている点が重要だ。
【参考記事】
●主要クロス円にとって、コロナショックは長かった円高時代の終焉を意味する存在!(2021年2月19日、陳満咲杜)
【参考記事】
●米ドル高は本物。市場関係者の想像をはるかに超えるスケールで、雄大なトレンドに!?(2021年8月20日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
そもそもコロナショック後、ドルインデックスは2017年高値をいったん更新していた。
そして今年(2021年)1月安値を形成して以降の切り返しも紆余曲折を経てきたから、その過程は底固めとして十分機能していたと思う。
だからこそ、8月の年初来高値更新は、いわゆる「ダマシ」ではなく、これからの上値余地を示唆するサインとして重視される。米ドル高はまだまだ途中であることを認識しておきたい。
実際、コロナショック後の高値からドルインデックスは大きく反落してきたが、2021年年初からの紆余曲折があっても2021年高値をいったん更新し、週足では「ソーサーボトム」を形成してきたことも明らかだ。
(出所:TradingView)
底打ちのパターンとして「鍛錬」されてきただけに、底堅いと言える
ユーロ/米ドルは中長期スパンにおいて戻り売りの好機か
当然のように、ユーロをはじめ、諸外貨の続落を有力視する。ユーロ/米ドルの週足における「三尊天井(※)」形成の可能性を軽視すべきではない。
先々週(8月23日~)から連続2週間の切り返しがあったが、5月高値を起点とした下落波の値幅に対して、なお限定的であった上、「三尊天井」が本物であれば、中長期スパンにおける絶好の戻り売りの機会とも捉えられる。
(※編集部注:「三尊天井」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊」と呼ばれていて、人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼ぶこともある)
(出所:TradingView)
再度持ち直してきている米長期金利が米ドル高基調を支える
米長期金利(10年物国債利回り)の下げ止まりも、米ドル高基調を支える要素として注意しておきたい。
米長期金利は、コロナショック後の安値0.318%から2021年3月末高値1.776%までいったん上昇し、その後、反落してきた。しかし、最近再度持ち直しの傾向を見せている。
(出所:TradingView)
米長期金利の回復は、金利差の面でも米ドルの優位性につながり、特にユーロ、円などの通貨に対して米ドル高の方向に寄与しやすいと思う。
米ドル/円の押し目買いというスタンスは維持
米ドル/円の方は、米長期金利低下時でも大した反落が見られなかったから、目先7月高値から形成しているトライアングル型保ち合いを継続している。さらに米長期金利の持ち直しが継続されれば、少なくとも米ドル安圧力は低減していくと推測される。
(出所:TradingView)
米ドル/円の反落があっても限定的と思われ、目先のトライアングルを下放れする場面があっても、大きな反落余地を拓くといった局面にはつながらないと思う。
米ドル/円の押し目買い、というスタンスを維持していきたい。
主要クロス円は保ち合い~弱含みか
少し厄介なのはクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)だ。
ユーロ/円、豪ドル/円あたりが大きく反騰してきたが、果たしてブル(上昇)トレンドへ復帰できたかと聞かれると、やはり容易ではないと思う。
米ドル高が基調として継続される場合、ユーロなどの外貨が引き続き受け皿としての役割を発揮しやすいから、米ドル/円のブル基調継続があっても緩やかなスピードに留まるのではないかと思う。
したがって、主要クロス円は再度安値更新できるかどうかは別にして、やはり先行き、保ち合いが続いたとしても、それは強含みではなく、弱含みになるのではないかと推測される。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
まだまだ鮮明なサインが出現していないので、相場が指示するものを待ちたいところだが、米ドル高は本物であることを強調しておきたい。
市況はいかに。
(9月10日(金)0:00 執筆)
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