菅首相退陣報道でも円売りは限定的、米雇用統計待ちか
菅首相の退陣が伝わり、日経平均は急騰したものの、円売りの勢いは執筆中の現時点まででは限定的とみられる。やはり米雇用統計待ちというところだろうか。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
もっとも、先月(2021年8月)発表された米雇用統計は予想より良かった。予想より良かったという感触の大半は、実は先月(8月)発表の米ADP雇用統計がかなり悪かったので、それとのギャップがもたらした側面が大きかったと思う。
なにしろ、いつも強調してきたように、米雇用統計に関する予測自体、冗談みたいな存在でバラつきが非常に大きい上、ウォール街の強者(投資銀行などの機関投資家)でも常に間違ってきたから、そもそもあてにならないのが投資の世界の常識と言える。
【参考記事】
●米ドル/円は米雇用統計後にどう動く? 米雇用統計の予測に限ってはエコノミストも小学生も大差なし!?
だからこそ、サプライズ云々は予測数値との差より、市場センチメントとの差の方が圧倒的に重要なので、結局、市場心理しだい、というところではないかとみる。
先月(8月)のパターンなら、今晩(9月3日)の米雇用統計は、想定というか、市場センチメントより良い数字が出るかもしれない。
なぜなら、今週9月1日(水)にリリースされた米ADP雇用統計はやはり想定より悪かったので、そのことがすでに米ドル売りの反応をもたらしているからだ。
米雇用統計の結果が良ければ、目先「売られすぎ」の米ドル全体は買われる可能性が大きいから、「逆張り」のチャンスが生まれるかと思われる。
(出所:TradingView)
しかし、このような予測自体は到底あてにならない。
なにしろ、米雇用統計は基本的に予想不可能なので、前回そうだったからと言って今回もそのようなパターンになるということは到底言えず、それは憶測に過ぎないからだ。
ゆえに、数字自体の予想を一切信じず、市場センチメントの方を重視する形でフォローすればよいかと思う。
足元の米ドル売りは、米雇用統計が想定より悪いという市場センチメントをだいぶ織り込んでいる?
市場センチメントを探る上で、やはり値動きが重要なポイントとなってくる。
ドルインデックスをみればわかるように、8月19日(木)にて2021年年初来高値を更新、その翌日から反落しており、それが足元まで続いているから、米ドル高に対する修正が急速に進んでいると言える。
(出所:TradingView)
高値からの修正が、そもそも先週の週明け(8月23日)から進んできたのもわけがあった。それは他ならぬ、ジャクソンホールを控え、米ドルロング筋の警戒感が強まったからだ。
案の定、FRB議長さんのハト派講演で米ドルは一段と売られた。米ドルロング筋が利益確定を急いだ側面が大きいかと推測される。
今週(8月30日~)に入ってからも、その影響はなお効いており、米ADP雇用統計の数字が芳しくなかったこともあって、一段と米ドル売り優勢の展開となっている。
ここまでくると、実は米雇用統計も想定より悪い、といった市場センチメントをだいぶ織り込んでいるのではないかと思われ、先月(8月)のパターンの再現といった推測は、目先マーケットの主流ではないとも推測される。
市場センチメントは、ここまで米ドルに対して弱気スタンスに傾き、また、米ドル高継続にかなり懐疑的だと思う。
ECBがいくら過激でも、FRBより先に動くことはありえない
おもしろいことに、いつものように、値動きがあったあと、ファンダメンタルズ上の思惑があとを追う形で出現するという現象も見られた。それは最近になって聞こえてきたECB(欧州中央銀行)のテーパリングの話だ。
それもユーロの切り返しが急速に展開された一因とされるが、大袈裟だと言わざるを得ない。
(出所:TradingView)
何しろ、米金融政策のあとについてくるのがECBの決定というものなので、ECBがいくら過激でも、FRB(米連邦準備制度理事会)より先に動くことはまずありえない。
したがって、それをもってユーロ買いの根拠として解釈されること自体、ユーロの切り返しの「行きすぎ」を証左する上、市場センチメントの偏りが暗示されているかとも思われる。
米雇用統計の結果が悪いケースと良いケースで、それぞれ相場はどう動く?
言ってみれば、今晩(9月3日)の米雇用統計で、仮に悪い数字が出れば、米ドル売りに一層拍車をかける可能性があるものの、総じて効果は限定的であると思う。
なぜなら、市場センチメントの方が米ドル売りに傾き、またすでに「行きすぎ」の段階に入っているから、ユーロの切り返しをはじめ、諸外貨の上昇はすでにだいぶ先行しているからだ。逆に想定どおりの数字の悪化があっても、さほど諸外貨の上昇余地拡大にはつながらないかと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
逆に今晩(9月3日)リリースされた数字が、前回のパターンを再現する形で、市場のコンセンサスより良い結果となれば、米ドル売りの「行きすぎ」が修正され、ユーロなど諸外貨の反落が見られるだろう。
この場合、米ドル高の内部構造が再度証明されることになる。となると、8月高値からの反落がだいぶ進行している分、元のメイントレンドへ復帰しやすく、また、「秋の米ドル高」を一段と推進しやすいかと思われる。
つまるところ、ドルインデックスの2021年年初来高値更新自体がホンモノで、決して「ダマシ」ではないことが再度証明されるだろう。
パウエルFRB議長のハト派講演の影響力は確かに大きいが、足元までの反落をもって、すでにそれはだいぶ織り込まれており、今晩(9月3日)の米雇用統計をもっていったん反転してくれば、それはメイン構造に沿った値動きとしてまた大きく動いてくれる可能性が大きい。
この意味合いにおいて、ユーロ、豪ドルなど外貨の切り返しは急速に展開されてきたが、調整波としての位置づけが変わらない以上、今晩(9月3日)の米雇用統計のリリースを機に、調整波動自体が終焉する可能性も大きい。
米ドル/円は上放れしやすいタイミングか
米ドル/円の方はだいぶ保ち合いを継続してきたから、ドルインデックスと連動する形になりやすいだろう。
ユーロ、豪ドルをはじめ、対米ドルの切り返しが急速に展開されてきた分、仮に今晩(9月3日)の米雇用統計で頭打ちとなり、その後、下落がみられたとしても、たちまち急落していくとは想定しにくい。よって、米ドル安の修正自体が急速なスピードをもって行われるとは思わない。
だからこそ、米ドル高基調への復帰があっても、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における急速な円高圧力が想定しにくいから、米ドル/円がドルインデックスにリンクする値動きをするなら、上放れしやすいタイミングにあるかと推測される。
クロス円全般はもう1回反落してくると思うが、安値を更新していくかどうかは、また別のロジックで検証したい。市況はいかに。
(14:50執筆)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)