マーケットはオミクロンとパウエル、2つのショックに見舞われた
今週(11月29日~)、マーケットは2つのショックに見舞われました。
ひとつはもちろん、オミクロンショック。11月26日(金)、ウイルス表面の突起が30カ所以上変異し、これまでのどの変異株よりも感染力が強いと見られる、新型コロナウイルスの新たな変異種、オミクロン株のニュースが報じられると、市場は大混乱となりました。
もうひとつは、パウエル・ショック。これまで、FRB(米連邦準備制度理事会)内でもハト派と見られていたパウエル議長が、「インフレは一過性という表現をやめる時が来た」と、タカ派宣言。オミクロン株の影響で、金融引き締めが遠のいたと想定していた市場は、パウエル議長の突然の変化に、仰天しました。
パウエルFRB議長は「インフレは一過性という表現をやめる時が来た」と、タカ派宣言をしたことに市場は驚いた (C)Bloomberg/GettyImages
ですが、この「君子豹変」は、再任される時に決まっていたはずです。前回のコラムでも紹介しましたが、バイデン大統領が直面する最大の問題は「インフレ」です。「インフレ反転が政権の最優先課題」と大統領は明確に言っています。ということは、パウエル議長は「予定通り」タカ派に転じただけといえます。
【参考記事】
●米ドル/円は、極端なリスク回避の状況にならなければ堅調か。米国の金融引き締めペースが速まれば、新興国投資には注意!(11月24日、志摩力男)
この数日で、米ドル/円は115円台半ばから112円台半ばへと、約3円下落しました。
(出所:TradingView)
豪ドル/円も83円前後から80円ギリギリまで、日経平均は2万9000円台半ばから2万7000円台半ばへと2000円ほど下落しました。まさに「リスクオフ」でした。
(出所:TradingView)
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為替市場のリスクオフより、さっぱり上昇しない長期金利に注目
しかし、この為替市場で起こったリスクオフの動きより、個人的にははるかに興味深いことが債券市場で起こっています。長期金利が上昇しないのです。
パウエル議長は、米上院銀行委員会で、次のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、テーパリング(※)の加速を検討すべきと述べました。
(※「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
現在、月に米国債を100億ドル、モーゲージ債を50億ドルずつ縮小していますが、おそらくこれを2倍にして、米国債を200億ドル、モーゲージ債を100億ドルずつ減額し、テーパリングの終了をこれまでの来年(2022年)6月から3月に早めると想定されています。先月(11月)テーパリングを決めたばかりなので、なんとも性急な話です。
そして来年(2022年)、3月から6月のどこかで最初の利上げがあるでしょう。その後、9月、12月と利上げし、来年(2022年)は年3回の利上げが想定されるようになっています。
今年(2021年)の3月ごろは、米利上げは2023年の後半に1回あるかどうか、と想定されていたことを考えると、大きな変化です。
しかし、米国が金融引き締めに動こうとしているのに、米長期金利はさっぱり上昇しません。オミクロンの影響があるとはいえ、米10年債利回りは1.40%を割り込もうとしています。ちなみに今年(2021年)3月には1.78%まで上昇していました。
(出所:TradingView)
短期金利が上昇に転じるので、長短金利差が縮小に向かう、いわゆるフラットニングの動きが起こっているから、ともいえますが、それにしても異様です。
米10年債の金利以上に、金利低下が明白なのは米30年債です。米30年債利回りは重要なチャートサポートだった1.78%を割り込み、1.73%台まで低下しています。
(出所:TradingView)
主要国の長期金利が低下するなか、「定位置」の日本の金利水準が魅力に
実は、米国以上に他の国々でも超長期の金利は低下してきています。
英30年債利回りは1.5%を超えていましたが、スナック財務相の予算演説で、英国の公的部門の純負債の対GDP比率を低下させ、3年以内に財政収支を均衡化させるといい、それをきっかけに1.5%から現状の0.88%まで低下しました。
(出所:TradingView)
もっと極端なのは欧州で、マイナス金利を採用し、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)等で債券購入を進めていることもあり、30年債利回りはマイナス圏です(マイナス0.05%水準)。
(出所:TradingView)
日本の30年債利回りは、ずっと0.67%ぐらいが「定位置」なのですが、他の国における超長期金利の急低下を考えると、日本の30年金利はむしろ高いな、と思ってしまいます。
(出所:TradingView)
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長期的にかなりの円安見通しは維持。米ドル/円は利食い売りで年末前に110円付近まで下落もあるか
米国はじめ各国が、これから短期政策金利を引き上げようという時に、長期金利が低下する理由は、私には明確ではありません。
将来の景気後退を織り込んでいるのか、インフレ率低下を想定しているのか、それとも単純に長期金利に対する需給で歪んでいるのか、わかりません。
わからないのですが、少なくとも、相対的に日本の金利が魅力的になっているとはいえます。
最近、「悪い円安」という言葉が広まり、誰もが米ドル/円は120円という予想を出しています。もちろん、私も長期的にかなりの円安になるとは想定していますが、短期的に誰も彼もが120円と言い出していることは気になります。
この一年、102.60円から、ずっと円安でした。年末を前に、利食い売りから少し円高方向、110円ぐらいまで戻っても良いのかなと最近は感じます。
(出所:TradingView)
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