円安のせいにして本質的な問題をごまかすべきではない
物価上昇は、日本の悲願だった。にもかかわらず、物価上昇の兆しが見えてきた途端、「物価上昇を抑制しろ」との大合唱で、せっかく得られたデフレ脱却の好機を再び逸するかもしれない。これこそ目下、日本最大の危機であり、円安のせいにして本質的な問題をごまかすべきではない。
これが、先週(6月24日)の本コラムの主張であった。
【参考記事】
●円安のピークを、安易に推測するべきではない。「偽りの思惑」に惑わされ、虫のよい感情論に流されれば、日本に将来はない!(2022年6月24日、陳満咲杜)
要するに、日本の世論の多くが感情論に流されやすく、目先の損得勘定で動きがちだ。
ゆえに、国家の将来を左右する大戦略を遂行する際は、巷の見方に迎合すべきではないことも明らかである。
同じ意味合いにおいて、円安問題を巷の論調のままで捉えるべきではなく、冷静な視点を維持していきたい。
米ドル高の大きな背景がないと円安は続かない
確かに円は最弱の通貨として大きく売られてきた。しかし、円安ばかり強調しすぎると、根本的な背景である米ドル高を見逃しがちだ。
ここで言う米ドル高は、もちろん米ドル全面高の意味合いであるが、米ドル高の大きな背景がないと円安が続かないのも自明の理である。
したがって、日銀政策のせいにした円安批判は筋違いである。なにしろ、デフレ克服の緩和継続が必要不可欠である以上、結果としての円安を受け入れるしかない。
その上、米ドル高が大きな背景であるから、仮に日銀が緩和政策をやめれば、一時大きく売られた円が買われるかもしれないが、米ドル高がメイン基調である限り、また円安トレンドへ復帰することも容易に想像できる。
なにしろ、物価が上昇してきたとはいえ、日本はまだまだ兆ししか見えない段階にあるから、ハイバーインフレの米国の足もとにも及ばないのだ。しばらくは米ドル高の流れに対抗できるはずもない。
そもそも日本の現状に照らして考えると、完全にデフレを克服できたとは言い切れない。6月24日(金)に公表された2022年5月分消費者物価指数の中身は、総合が2.5%、生鮮食品を除く総合が2.1%、生鮮食品およびエネルギーを除いた総合は0.8%しかなかった。
このような状況において、物価抑制政策ばかりをとってしまうと、デフレへ逆行するリスクさえあるから、米国の事情と本質的に違うところを直視しなければならない。
さらに、米ドルは基軸通貨である。基軸通貨が支配的影響力を持つ為替相場において、逆行する要素があったとしても、無視されるか、踏み台として逆に利用されるハメになりやすい。
円安デメリットばかり強調されればされるほど、実は円売りが投機的に仕掛けられやすいから、感情論になりがちな「円安亡国論」自体がネガティブ要素であることを認識する必要があると思う。
米ドル全体は新たな変動レンジ入りを果たした公算大
ドルインデックスの月足を見ればわかるように、米ドル全体は、2017年や2020年高値の上にすでに定着しているように見え、新たな変動レンジ入りを果たした公算が大きい。
(出所:TradingView)
2020年高値と言えば、あのコロナショック直後の高値だったので、同高値上に定着すれば、しばらく米ドルは反落してこないことを覚悟しなければならない。
一方、日足で観察すればわかるように、ドルインデックスは目先、形成している「上昇トライアングル」を上放れする可能性がある。
(出所:TradingView)
この場合は、米ドル全体の一段高をもたらし、また上昇モメンタムの再加速が想定されるから、逆に米ドル/円の上昇トレンドを抑制してくる可能性がある。
ユーロ/円は6月中3回目の高値打診を阻まれ、反落してきた
そのような兆しは、すでに直近の市況にて見られたのではないかと思う。
今週(6月27日~)、ユーロ/円は再度144円台前半をトライしたが、6月前半と後半の2回の高値トライと同様、さらなる上値打診が拒まれる形で再度反落してきた。
(出所:TradingView)
それは、米ドル全面高の進行でユーロ/米ドルの下落が続き、ユーロ/円においてユーロ安がもたらした円の買い戻しが観察されたほかあるまい。
主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における反落は、速度調整にすぎないものの、米ドル全面高が一段と加速すれば、主要外貨安でもたらされる円の買い戻しの一段進行もあり得る。
間接的とはいえ、クロス円における円の買い戻しは米ドル/円の頭を押さえ込む要素になり得るから、米ドル全面高自体が諸刃の剣と言える。
このようなロジックは、本コラムで何回も取り上げて説明してきたので、難しい問題ではないと思う。
【参考記事】
●米ドル/円のさらなる下値余地は限定的か。米国株の大幅続落で悲観一色のリスクオフとなったが、悪材料はかなり織り込まれた(2022年5月16日、陳満咲杜)
米ドル高のメイン基調がなければ、米ドル/円の上昇継続はあり得ないが、逆に米ドル全面高の勢いが強すぎると、米ドル/円の上昇が鈍くなる可能性があり、目下の状況はそれに当たるから要注意だと思う。
ユーロ/円は再度高値トライし、高値更新を果たす可能性が高い
半面、ユーロ/円の日足における構造を観察すればわかるように、6月16日(木)のローソク足(3番)が示した「スパイクロー」のサインが重要であった。
(出所:TradingView)
同サインは、4月後半や5月初頭の元レジスタンスゾーン(1番や2番)がサポートゾーンと化したことを証左しただけに、安易に否定されないだろう。
換言すれば、6月16日(木)安値(137.84円)を下回らない限り、ユーロの反落が続いても対円ではあくまでスピード調整にすぎず、相場の内部構造から考えて早晩また上昇し、再度144円台前半のレジスタンスをトライ、また高値更新を果たす公算が高い。
この視点でフォローしていけば、いったん137円の大台への打診があったからと言って、米ドル/円が頭を打った判断するのはまだ性急である。
米ドル全面高の勢いに影響され、クロス円経由の速度調整が一巡すれば、米ドル/円は再度高値をトライ、また高値を更新していく可能性が、なお高いだろう。円安の本流、値ごろ感による判断はなお禁物であることを強調しておきたい。市況はいかに。
14:20執筆
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