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志摩力男の「マーケットの常識を疑え!」

円安に限界はない!? 日本は巨額政府債務の
維持がもっとも重要な政策に…。一方、SNBの
政策変更でスイスフランはさらに上昇する

2022年06月29日(水)22:06公開 (2022年06月29日(水)22:06更新)
志摩力男

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 ザイFX!で連載しているコラム「マーケットの常識を疑え!」では、コラムの内容と連動した動画「週刊!志摩力男」を掲載していますが、毎月最終週のコラムでは「月刊!志摩力男」をお届けします。こちらは、志摩さんが、直近1カ月の為替相場やトレードを振り返りながら、中期的な見通しやポイントについて独自視点で解説します。ぜひ、ご視聴ください。

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円安が一向に止まらない…。日本に足りないのは「投資教育」ではなく「教育」そのものなのか?

円安が一向に止まりません。

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(出所:TradingView

 以前から予想していた展開なので、驚きはありません。驚くのは、物価高に不満を持ちながらも、それを多くの方々が受け入れていることです。

 円安だからといって金融引き締めをしたら、景気は失速して大変だ、これがリフレ派の方々の主張ですが、ある方のYouTube動画を見ていたら、コメント欄にこう書かれていたのに気付きました。

 「昔は1米ドル360円だったんだよ。知らないのかねぇ」

 昔の「1米ドル=360円」から見たら、今の「1米ドル=135円」でも超円高だと言いたいのでしょうか? 

 もしかしたら、一部の人の意識にはこうした考えがあって、現状レベルが超円安だと気付いてないのかも知れません。

 「日本人には投資教育が必要だ」とよく言われますが、僕はそう思いません。普通に日本で学習していれば、自然と身に付くものです。しかし上記のコメントをみると、日本に足りないのは「教育」そのものかも知れません。

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実質実効為替レートでは、日本円は360円時代に極めて近づいている。SNBの利上げにも驚いたが、利上げの理由がもっと驚きだった

 他国にインフレがあり、日本にインフレが無い場合、見た目の為替レートがそのままでも実質的には円安になっています。それを補正したものが、日銀やBIS(国際決済銀行)が発表している実質実効為替レートですが、日本円はその360円の時代に極めて近づいています。

日本円の実質実効為替レート
日本円の実質実効為替レート

(出所:日銀、BIS)

 それでも、黒田日銀総裁は現状の超金融緩和政策を変更しませんが、他国は金融緩和政策を中止し、引き締め政策に転じています。特に驚きだったのが、SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])が6月16日(木)に0.50%利上げしたことです。

 利上げそのものにも驚きでしたが、利上げの理由にも驚かされました。SNBの声明文の他に、ジョーダン総裁が会見に際に発表した文章にそれが説明されています。


Since the last monetary policy assessment, the development of the Swiss franc exchange rate has also contributed to the rise in inflation. The Swiss franc has depreciated in trade-weighted terms, despite the higher inflation abroad. Thus the inflation imported from abroad into Switzerland has increased. Another consequence of this depreciation coupled with significantly higher inflation abroad is that the Swiss franc is no longer highly valued.

(出所:SNB

前回の金融政策会合以降、スイスフランの為替レートの動向もインフレ上昇に寄与しました。海外(他国)におけるインフレ率上昇にも関わらず、スイスフランは貿易加重平均で下落しました。それ故、海外(他国)からスイスにもたらされるインフレ率が上昇しました。この通貨下落と海外(他国)におけるインフレ率の大幅な上昇が相まって、スイスフランの価値はもはや高くはないというのが、もうひとつの結論です。(訳、筆者)


 日銀の黒田総裁は、インフレ率の上昇は資源価格の上昇がもたらしたものであって、円安による影響は大きくないと言いました。しかし、SNBのジョーダン総裁は、インフレは通貨安によってより大きくなったと認めています。

 そして、SNBはこれまで「スイスフランは高すぎる」と言って為替市場でスイスフラン売り介入を続けてきましたが、「海外(他国)でのインフレの結果」スイスフランの価値はもはや高くないと認識を大幅に変更したのです。

 他の国のインフレ率が上昇すれば、為替レートが動いていなくても、自国の通貨価値は落ちているのです。それを理屈通り認め、政策を変更するSNBを見ていると、真っ当な国とはスイスのような国なのだなとわかります。

SNBの金融政策変更でスイスフランは目先5%ぐらい上昇するか。ユーロ/スイスフランは1.00スイスフラン割れへ

 このSNBの金融政策変更の結果、為替市場におけるスイスフラン売り介入は今後手控えられます。状況によってはスイスフラン買い介入まで行うとジョーダン総裁は発言しています。

 スイスフランは、対ユーロにおける1.0000スイスフランを意識して、このレベルをSNBは防衛すると考えられていました。しかし、金融政策は変更されました。

 ユーロ/スイスフランの1.0000スイスフランは防衛ラインではありません。その証拠に、このところのSwiss Sight Deposit(スイス・サイト・デポジット)は減少しています。

(※6月29日のロンドンタイムに、ユーロ/スイスフランは1.0000スイスフランを割り込みました)

スイス・サイト・デポジット

(出所:SNB

 為替市場でスイスフラン売り介入をすると、このスイス・サイト・デポジットは拡大します。介入がすべてではありませんが、この数字が縮小しているということは、少なくとも、スイスフラン売り介入はしていないということです。

 この金融政策変更により、スイスフランは目先5%ぐらい上昇するのではないでしょうか。ユーロ/スイスフランの0.9500スイスフラン前後があり得ると思います。

ユーロ/スイスフラン 週足
ユーロ/スイスフラン 週足

(出所:TradingView

 そして、スイスフランは対円ではついに143円台となっていますが、さらに上昇するものと思います。円安の限界がわからないので、ちょっと予想できません。

スイスフラン/円 週足
スイスフラン/円 週足

(出所:TradingView

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円安にリミットはない。巨額の政府債務を維持することがもっとも重要な政策になっている

 資源価格の上昇に加え、超金融緩和政策の結果としての円安でインフレが上昇しているにも関わらず、それを認めず、ガソリン価格に補助金まで出して、見た目のインフレ率を下げようとしている、政策の矛盾は目を覆うばかりです。

 もはや、日本の超金融緩和政策には、別の目的があることを理解しないといけません。

 巨額の政府債務を維持することがもっとも重要な政策なのです。

 よって、円安にはリミットはありません。インフレで巨額の政府債務をぶっ飛ばそうとしているので、我々はそれに備えなければならないということでしょう。

米ドル/円 週足
米ドル/円 週足

(出所:TradingView


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