米ドル高が米ドル高を呼ぶ連鎖に
米CPI(消費者物価指数)上昇で、「次回FOMC(米連邦公開市場委員会)で1%の利上げもありうる」といった観測が、目先、マーケットのセンチメントを支配している。そして、ドルインデックスの109の大台打診や米ドル/円の139円節目ブレイクをもたらした。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
もちろん、ユーロ/米ドルのパリティ(1ドル=1ユーロの状態)割れも当然の成り行きであった。
(出所:TradingView)
一方、米10年国債利回り(米長期金利)は、2.95%前後に留まっている。
(出所:TradingView)
長期国債利回りの低下、特に短期国債利回りとの逆転(逆イールド)は景気後退のシグナルとされ、長期金利上昇に伴わない米ドル高は「悪い米ドル高」と言われるようになってきた。
要するに、景気後退が想定されるなか、米ドル高自体がリスクオフの結果となるのだ。債務返還に備えるための米ドル確保が盛んに行われたあまり米ドル不足の懸念が高まり、その懸念自体が、また米ドル買いを促す。こうして、米ドル高が米ドル高を呼ぶ連鎖となっている。
米大幅利上げが推測され、米金利が上昇することに伴う米ドル買い、といった単純なことではないようだ。
高値を追う前提条件として、実際に米ドルがさらに買われていることが重要
それにしても本日(7月15日)のブルームバーグさんの1本の記事に、目を奪われる。
「『抵抗は無駄』、ドル高は止められない-ドル倍賭けに傾くウォール街」が、そのタイトルだ。
内容は当然のように、米ドルの大幅高が続くとみるウォール街の見解の紹介であるが、経験上、このようなタイトルの記事が出される時は要注意だ。
米ドル高継続や、上値余地がさらに拡大すること自体に異議はないが、風見鶏気質のウォール街の見方が一辺倒(本当はそのようなことはないが、マスコミに登場する話に限ってそうなりやすい)となり、また、すでに大きく進行してきたトレンドの後を追う形だったら、むしろ検証の好材料として利用できる。
言ってみれば、米大幅利上げが確実視され、猫も杓子も米ドル高の継続を強く意識し、米ドル買い自体がリスクオフによって、ややパニック気味である中、ウォール街の煽りも入ってきたところで、相場がどう反応するかが、一層重要になってくる。
つまるところ、相場のことは相場に聞くべきだが、米ドル高しかないという大きなセンチメントの中であれば、米ドルが一段と買われないといけない。高値を追う前提条件として、実際に米ドルが、さらに買われていることが重要だ。
米ドル高を煽るウォール街の面々が、なぜ率先して米ドルを買わないのかを考えた方がよい
米ドル/円の場合は、目先、日足における「上昇ウェッジ」というフォーメーションの存在が気になる。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
米ドルの一段と大幅な上昇は、同フォーメーションの打破(上放れ)を前提条件とするから、これは、高値を追う前提条件となってくる。
猫も杓子も、ウォール街の面々も、「米ドル高しかない」と叫ぶ中で、米ドルが一段と買われないのは逆におかしい。その「おかしい期間」が長ければ長いほど、高値追いは躊躇される。
理屈は単純だ。そもそも「上昇ウェッジ」というフォーメーションは、頭が重い、または反落してくる可能性を暗示する形態である。
チャート上に表示しているプライスアクションのポイント(1、2)など細かいところをいったん無視する形で大きな流れを重視するなら、早期に大幅な上値トライ、すなわち、同フォーメーションの打破が必要不可欠であると思う。
なにしろ、重要な水準まで買われている中、まだ猫も杓子も米ドルの一段高を信じてやまないなら、「誰かが買ってくるまで買わない」といった様子見ムードはおかしい。競って買わないのはおかしいので、煽るウォール街の面々が、なぜ率先して買わないのかを考えた方がよい。
誤解しないでいただきたいのだが、筆者はこれから上値トライ、また一段と大幅な上昇がないとは言っていない。強い上放れ、すなわち目先の上昇ウェッジが早期に打破されないと、高値を追えないと言っているのだ。
なぜなら、米ドル買いしかないと言われるなか、米ドルの上昇一服があれば、買いたい筋の全員が買ってるか、利益確定のタイミングを虎視眈々と狙っていることが推測される。
もちろん、上放れが本物であることを確認できれば、またそこから高値を追っても遅くないから、性急な判断や行動をしなくてもよい。
目先の水準においては、米ドルの新規買いがパニック的な判断や行動になりやすいから、今さら追わない方がいい
ユーロ/米ドルの見方も同じであろう。パリティ割れが確認されたから、ユーロの一段安がは避けられないとみるが、目先で言えば、下のチャートで示したように、下落チャンネルの下限にいったんトライした。
果たして、このまま下値追いができるかどうか、それが現実的な問題となってくる。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
強い下落トレンドが形成されてきたからこそ、米ドル高一辺倒の思惑が目先の値動きに織り込まれる可能性が大きい。
これからさらに下落余地を拡大することが、シナリオとして合理的で有力視されるが、安値追いの可能性が証明されるまでは合理性がないとみる。
マスコミの記事を読んで恐怖(ここでは当然のように、「米ドル買わないといけない」といった恐怖)を覚えるようになったら、その恐怖心を相場の現状と照らし合わせてみることが大事だ。本日は、このことを指摘したい。
最後に、繰り返しとなるが、筆者は米ドルの高値を追えないとは言っていない。目先の水準において、米ドルの新規買いはパニック的な判断や行動になりやすいから、今さら追わない方がいいと言っている。
もちろん、米ドルのさらなる上放れがホンモノと証明された場合は、また高値を追っても問題ない。市況はいかに。
14:00執筆
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)