米ドル高に一服の可能性が出てきたが、劇的な変化を期待すべきではない
米ドル高に一服の可能性が出てきた。とはいえ、あくまで一服なので、米ドル高のメイン基調が修正されるまでには時間がかかり、劇的な変化を期待すべきではなかろう。
なにしろ、米国では9月に0.75%の利上げが想定され、2022年年内いっぱいの利上げ継続のシナリオに異議を唱える声も少なく、当面、米ドル高のメイン基調が支えられる。
米利上げが世界の焦点となるばかりで、その他の主要通貨が利上げしても、なかなかベア(下落)トレンドから抜け出せず、外貨サイドから見れば、自国通貨を利上げするかどうかは、あまり重要ではない。
その好例は、円と英ポンドの比較であろう。
よく、円は随一のマイナス金利通貨であり、利上げできないから売られるのも当然だと言われる。
しかし、米ドルより先に利上げ周期入り、また大幅利上げ、さらにこれからも大幅利上げすると予想される英ポンドも、大きく売られてきた。その差は、直近1カ月のパフォーマンスで測れば、実は2%未満程度の差しかない。
それを利上げの有無、また金利差云々ということで説明できるとは限らない。
言ってみれば、米ドル全面高があったからこその円安で、円の金利や利上げの有無は二の次である。円が主要外貨の中で一番売られてきたこと自体は間違いないが、それは円の金利水準が決定的な要素とは限らない。
決定的な要素と言えば、それはほかならぬ、円はかつての「デフレ通貨」の性質と決別し、2011年から反転。長期に渡り、構造上の円安時代に入ってきたことだと思う。
(出所:TradingView)
したがって、目先、円は売られすぎかもしれないが、長期スパンの視点なら、さらなる円安の進行の途中であり、仮に円の利上げがあっても、円安トレンドを修正できないとみる。
この意味合いにおいて、米ドル高についても歴史的なトレンドの転換を捉えておきたい。変動相場制へ移行して以来、ほぼ一貫して下落を続けてきた米ドル安の本流が、2008年リーマンショック前から反転し、米ドル高の時代に入ってきた。
(出所:TradingView)
その流れは、目先、米利上げで加速され、また「買われすぎ」の疑いはあるものの、長期スパンで見れば、まだ途中であると思う。
基軸通貨として米ドル高が長く続かないとか、米ドル高が危機や景気後退をもたらすなどといった従来のロジックは、これから通用するとは限らないので、注意が必要だ。
米ドル/円の調整なしの高値トライはなさそう
さて、目先の状況と言えば、前述のように、米ドル高が一服する可能性がある。主要通貨におけるサインを点検し、現状を把握しておきたい。
米ドル/円は、前回のコラムで指摘したとおり、メインレジスタンスラインにいったん阻止される形が露呈している。
【参考記事】
●米ドル/円は147.68円の、1998年7月高値も意識されるが、少なくとも目先、素直に高値を追っていけるかは別問題! 本日の米雇用統計で様子が変わる可能性も!(2022年9月2日、陳満咲杜)
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
RSIの方も重要なレジスタンス水準を超えられず、いったん調整の可能性を示唆している。米ドル/円は、これからの高値更新の有無は別にして、このまま調整なしの高値トライはなさそうであり、前回のコラムで指摘した「高値追いを避けるべき」という視点は間違っていないと思う。
主要外貨は米ドルに対して下落一服の可能性が高い
ユーロ/米ドルの場合、そもそも今週(9月5日~)の安値更新はあったものの、この前(ジャクソン・ホール前)の安値に対して浅い押しに留まり、目先まで戻ってきた。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
日足における「下落ウェッジ」のフォーメーションを形成していく可能性とともに、RSIは「強気ダイバージェンス」のサインを構築。これから大きな切り返しにつながるとは判断できないが、少なくとも下落一服、また当面、下値リスクの後退が示唆されている。
英ポンド/米ドルも同様であろう。あくまで、安値圏での保ちあいが先行する公算だが、メインサポートラインが効いており、またRSIも「売られすぎ」ゾーンから回復してきたので、目先、安値再更新のリスクは後退したと読み取れる。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
切り返しと言えば、一番有力視されるのが豪ドル/米ドルだろう。ユーロや英ポンドと違って、急落してきたとはいえ、7月安値さえ下回らず、構造上の強さを暗示していた。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
執筆中の現時点までの切り返しもあって、日足における「下落ウェッジ」の上放れを果たした形を示し、近々0.7ドルの大台の回復があっても、自然の成り行きとみる。
そして、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の動向だが、豪ドル/円とユーロ/円は、ともに2022年年初来の高値を更新しており、英ポンド/円も強気変動に復帰してきた様子を示している。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 週足)
しかし、本質的にはクロス円同士の格差が、なお大きく、構造上の視点をもってもう一度、点検する必要がある。この話は、また次回。市況はいかに。
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