サプライズの連続で相場のボラティリティが近年見られないほど拡大
前回祝日(9月23日)で1回休載させていただいたが、その間にマーケットは大波乱となった。米長期金利(10年国債利回り)は、いったん4%の大台に。また、英ポンドのフラッシュクラッシュがあり、さらに英QE(量的緩和策)再開で一転「逆上」するなど、サプライズの連続で相場のボラティリティが近年見られないほど拡大した。
(出所:TradingView)
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先週(9月19日~)は、米ドル高が加速し、英ポンド売りはパニック的な雰囲気となり、一気に史上最安値を更新、底なしの様相を呈した。
ここで言う「史上」は、もちろん1971年のニクソン・ショックを契機とした、変動相場制になってからの歴史という意味である。1971年当時は、米ドル/円が約357円(※)だったから、円安が360円を超えるレベルまで進行したと考えれば、英ポンドの史上最安値更新がいかにショックなことかはおわかりいただけるかと思う。
少し脱線した話になるが、英国民の大半は、「英ポンド安亡国」とか、「英ポンド安の英国売り」とかを大騒ぎしているだろうか。仮に円が360円まで安くなれば、日本国民の多くはどのような反応を示すだろうか。いろいろ「余計」なことも考えさせられる。
(※編集部注:1971年当時は1米ドル=360円の固定相場制であったものの、インターバンク市場での取引は357円前後で行われていた)
米ドル全面高の受け皿として英ポンドと円はほぼ同じ程度の下落をしてきた
とはいえ、基本的には、米ドル全面高の受け皿として、英ポンドと円はほぼ同じ程度の下落を果たしてきた。
英ポンド/米ドルは2014年高値から計算すると、50%以上の英ポンド安だったのに対して、米ドル/円は2011年安値から計算すれば約48%の円安となり、ほぼ互角である。
(出所:TradingView)
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一方、円は、今年(2022年)の最安値でも146円台未満なので、357円とか、360円の水準には程遠く、やはり史上最安値を割り込んだかどうか、といった単純な物差しで測れない。
先週(9月19日~)の英ポンドの暴落は、今週月曜(9月26日)のフラッシュクラッシュにつながり、英ポンド/米ドルでは5分間で350PIPSの急落。同じ5分間において、英ポンド/円はなんと550PIPSの暴落があった。
(出所:TradingView)
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フラッシュクラッシュの典型例として、為替の教科書に載せられるほどの変動率であったが、いずれも当日中に下げ止まり、日足では長い「下ヒゲ」を形成(すなわち、終値が最安値より大分高かった)した。
要するに行きすぎだったのだ。先週(9月19日~)の暴落において、英ポンドのロング筋が一掃されたと推測されるなか、さらなるパニック的な英ポンド安の進行があったが、長く続かなかったこと自体がサインであった。
英ポンド安は、英新政権の財政政策に対する懸念がもたらしたパニックと言われているが、本質的には円安と同様、米ドル高の受け皿として売り崩されただけの話だ。
目先の英ポンドは下落幅を帳消しにする勢いで切り返している
さらに、9月28日(水)から英ポンドは大きく反発してきた。英中銀がQEを再開、国債買い入れを表明していたからだ。
その結果、暴騰していた英金利を押さえ、結果的に米長期金利に波及した形となり、米ドル全体でいったん頭打ちにつながった。
英国債の暴落は、年金基金の破綻を避けるための苦策と言われているが、インフレ高に苦しむ英国にとって、QE策や大型減税案がさらにインフレを高めかねず、間違いだと強く批判されたわけだ。
教科書どおりのやり方であれば、英ポンドをさらに売り込んでいくべきだった。しかし、昨日(9月29日)も続伸していたように、一昨日(9月28日)から目先までの切り返しは、先週(9月19日~)以来の下落幅を帳消しにするほどの勢いを示している。
(出所:TradingView)
相場は理外の理、教科書どおりにならない市場の反応は、むしろ相場の内部構造を示唆しているとみる。
英ポンドの急反発は米ドル全面高の一服の表れとして認識すべき
あえて言うなら、英QE再開で短絡的な英ポンド売りを仕掛ける者の多くは、経済原理を知った上の行動でもなかった。方程式的な反応というか、生兵法に基づく行動にすぎなかった。
彼らにとって、英ポンドの切り返しは大きなサプライズであったかもしれないが、相場の行きすぎを念頭におけば、安易なショートを回避できたはずだった。
なにしろ、その前の英ポンド安の正体が、パニック相場の結果であっただけに、米ドル全面高のパニックでもあった。
米ドル全面高のパニックは、他ならぬ、米長期金利の急騰が大きな背景にあった。米10年国債利回りが一時4%の大台に乗せたところで、主要外貨のうち、日銀介入でいったん安値を限定された円よりも、英ポンドが受け皿として選ばれたのも自然ななりゆきであった。
だからこそ、英QE再開で英金利の急騰が一服し、また、反落してきたことが重要な出来事であった。
なにしろ、それは米長期金利にも波及し、米10年国債利回りは9月28日(水)に4.019%の高値をトライしてから一転して大きく反落し、ザラ場では3.723%の安値を記録した。
ゆえに、英ポンドの急反発は、先週(9月29日)からのパニックに対する修正という側面もあるが、より重要な視点において、やはり米ドル全面高の一服の表れとして認識すべきだと思う。
英国事情が無視されるほど市場はバカではない、といった反論も想定されるが、そうではない。確かに市場はバカではないが、メイン材料やロジックに焦点を当てすぎるあまり、米ドル以外の事情を完全無視してしまう傾向は実に強い。
このような話、実は日本人投資家には一番おわかりいただけるのではないかと思う。なにしろ、円高にしても、円安にしても、日本の事情を優先して相場形成されたことはあまりなく、円の歴史は米ドルに翻弄される歴史であると言われる。そして、英ポンドの動向も然りである。
円安の進行は日本の事情や日銀の介入などで阻止できるものではない
米ドルに翻弄される円と言えば、9月22日(木)の日銀の介入があまり効かなかったこと自体、むしろ納得できる現象だと言える。
要するに、円安の進行は日本の事情や日銀の介入などで阻止できるものではなく、米ドル高の一服、また本格的な修正がない限り、当面、円安基調が保たれる。
さらに、歴史的な大波乱を経験した最近の英ポンド/円のチャートが示すように、主要クロス(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)円もなお外貨高・円安の内部構造を示し、日銀の介入効果を帳消しにする可能性がある。
(出所:TradingView)
このあたりの話はまた次回、市況はいかに。
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