「トラスショック」で英ポンド暴落
先週(9月19日~)、一番の話題は政府・日銀の為替介入かと思いきや、英ポンドがさらいましたね。
週初の英ポンド/米ドルは1.14ドルだったのが、週末時点で1.08ドル台へ下落。
有料メルマガ「トレード戦略指令!」で配信したように、今朝(9月26日朝)売りましたが、直後に1.03ドル台へと一瞬で500pipsの暴落です。
(出所:TradingView)
きっかけは、先週トラス英首相が発表した「成長プラン」ですね。
過去50年で最大規模となる減税が含まれていますが、英国のCPI(消費者物価指数)は10%(前年比)と40年ぶりの高水準。
中央銀行が引き締め=利上げに動いている中での大減税は、常識では計りがたい政策です。
減税は需要を拡大させ、インフレ圧力を強めることになります。
いくら利上げしてもインフレは収まらず、金利だけが上昇して財政赤字は拡大、結果として英国債、英ポンド、英国株が総じて売られるトリプル安を招くだけです。
「愚策」としか言いようがありません。
英財務相はさらなる減税も示唆
「通貨防衛のために緊急利上げを」との声も出ていますが、問題は金利ではない、ということですね。
減税を引っ込めないかぎり、英ポンド/米ドルはパリティ(1英ポンド=1.00ドル)がターゲットにされ続けるでしょう。
また、英金利が上昇したことで、米金利の上昇も加速し、週末のNYダウは3万ドルを割りこんで年初来安値を更新しました。
今朝の日経平均も大幅安で2万7000円割れです。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
まさに「トラスショック」ですね。
それでもクワーテング英財務相は「市場の動きより成長重視」と従来の姿勢を崩さないばかりか、「まだ追加の措置がある」とさらなる減税を示唆しています。
エリザベス女王の逝去で、英連邦王国(※)の結束がゆるむとの観測も出ています。
豪州などからは英連邦王国脱退との声も聞こえ始めていますし、スコットランド独立の気運も高まるでしょう。踏んだり蹴ったりですね。
(※編集部注:英連邦王国とは、1つの王国や連邦、国家、国家連合といった存在ではなく、英国の君主を自国の君主として戴く、個々の独立した主権国家を指す)
145円台では介入を警戒
通貨単体の強弱を見ると、円が最弱レースを独走していたのですが、英ポンドが一気にまくって今年(2022年)の最弱通貨に。
一方、日本では24年ぶりとなる円買い介入が行われました。
レートチェックまで行っていましたから驚きはありませんが、びっくりしたのは142円台まで売っていたフシがあること。
今回の介入は、米ドル/円の水準を押し下げるのではなく、急すぎるスピードを調整させる「スムージングオペレーション」だと説明されていますが、142円台まで売ると、水準そのものも押し下げることになります。
9月22日(木)の17時台に入りましたが、介入はその1回だけですか?
そのようです。そのあとはいずれもフェイクでしょう。
次に入るとすれば?
145円台に乗せると要警戒ですね。
基本的に介入が効くと思っている市場参加者は少ないですが、前回の円買い介入があった1998年は、LTCMショックなどもあり140円台から暴落しています。
(出所:TradingView)
各国でくすぶる○○ショックへの懸念
今回も介入自体の効果というより、英国や欧州、ロシア、中国など別の要因での○○ショックにより、円のレパトリ(本国への資金還流)が起きて、円高が加速するのかもしれませんね。
同感です。その意味でおもしろいのがクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の売り。
今の為替市場は米ドル一強。英ポンドを売るなら対米ドルでいいのですが、ショックに備えるという意味では、英ポンド/円でもよさそうです。
週末のイタリア総選挙では、EU(欧州連合)に批判的な右派が勝利しました。これもリスク要因ですね。
具体的な政策が発表されると、イタリア国債が売られユーロ暴落といったリスクもありえない話ではありません。
信憑性のない話ですが、週末のSNSでは中国でクーデターが起きたとの噂も出回りましたね。
中国が行っているゼロコロナ政策についても、「クーデターを封じ込めるため」との観測が聞かれます。
10月16日(日)には、5年に一度の大イベントである中国共産党大会が開かれますし、中国人民元は2年ぶりの安値水準ですから、中国の動向にも注目です。
今週の戦略は英ポンド売り
ゴールドも、重要なサポートだった1680ドルを割り込みましたね。
(出所:TradingView)
世界的な金利上昇と米ドル高ですから、ゴールドが弱いのはたしかですが、リスクオフへの懸念も高まっているため、意外と値持ちはいいかもしれません。
今週の戦略はどう考えますか?
トラスショックがまだ続くでしょうから、英ポンド/米ドル、あるいは英ポンド/円の戻り売りでいいでしょう。
個人的には、米ドルに次いで強いスイスフランとの組み合わせで、英ポンド/スイスフランのショートにも期待しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
(構成/ミドルマン・高城泰)
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