ザイFX!で連載しているコラム「マーケットの常識を疑え!」では、コラムの内容と連動した動画「週刊!志摩力男」を掲載していますが、毎月最終週(もしくは月初)のコラムでは「月刊!志摩力男」をお届けします。こちらは、志摩さんが、直近1カ月の為替相場やトレードを振り返りながら、中期的な見通しやポイントについて独自視点で解説します。ぜひ、ご視聴ください。
大幅減税措置による混乱。英国は金融危機一歩手前だった
英国のトラス新政権の財務相、クワーテング氏が「ミニ予算」を発表し、高額所得者の最高税率を45%から40%に引き下げるなど、かなりの減税措置が盛り込まれたことをきっかけに英ポンドが暴落、対米ドルで一時1.0327ドルまで下落しました。「ミニ予算」発表前は1.12ドル台だっただけに、この動きは激烈です。
(出所:TradingView)
BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は、市場混乱を抑制するため、何らかの措置を発表すると言われていましたが、月曜日は「マーケットを注視している」という声明文を発表するだけで、基本的に市場を静観するだけにとどまりました。
しかし、英長期金利が5%近辺まで上昇したのを受けて、BOEも動かざるを得ず、国債市場の危機を食い止めるために、1日50億ポンドのペースで13日営業日連続ギルト債(英長期債)を購入すると発表しました。当初10月から予定していた英国債売却は10月31日(月)に延期されました。
何が英中銀を動かしたのか。
FT(フィナンシャル・タイムズ)紙によると、約500億ポンドと巨額の年金資産を運用するカルダノ・インベストメントが水曜日(9月28日)にBOEにレターを提出し、「もし水曜日にBOEが市場に介入しなければ、ギルト債は今朝の4.5%から7~8%に上昇し、90%の英年金基金が担保を失うことになるだろう」と訴えました。
つまり、BOEが介入しなければ、リーマンショックとまではいかないが、金融危機的状況に英国は突入する、そういう状況まで追い詰められていたのです。
この結果、ギルト債(英30年債)金利は、わずかの時間で3.5%前後から5.0%へと急騰し、BOEの措置を受けて4.0%前後へと急低下したのです。
(出所:TradingView)
ものすごい変動率です。年金基金は救われたかもしれませんが、ヘッジファンド等でギルト債をショートにしたところは、猛烈な損失を食らったと思います。1日で1%金利が低下したのは、過去最大とのことです。
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BOEの介入で危機はいったん回避。トラス首相はばらまき政策が上手くいかないことを英国民にわかってもらう必要がある
さて、危機はいったん回避されました。しかし、ここからどうなるのでしょう。
BOEのギルト債購入は13日間だけです。それが終わったら、また金利上昇となる可能性は高い。BOEが介入している間に、機関投資家は金利上昇に備えなければならないということでしょう。危機はまたやってきます。
BOEがなかなか動かなかったのには背景があります。トラス首相は、保守党の党首選の中で、「インフレ率が上昇したのはBOEの量的緩和政策の影響」と非難するなど、しばしばBOEに対して厳しい発言を行いました。
また「トラス氏の経済政策では、たちまち立ち行かなくなる」と、対抗するスナク候補はトラスノミクスを批判しましたが、選挙で支持されたのはトラス氏でした。よって、保守党党首選時の公約である以上、トラスノミクスばらまき政策は、実行せざるを得ないのです。
また実行した上で、その政策が上手くいかないことを英国国民にわかってもらわないといけない……そういうことなのだと思います。
英ポンド/米ドルは、遅かれ早かれパリティ割れとなる可能性もありそう
英国は経常収支の赤字がGDPの8%と、極めて高い経常赤字国です。
ただ、経常収支は赤字ですが、財政収支はそれほど悪くないという状況が続きました。
それが今回、巨額の財政赤字も加わります。いわゆる「双子の赤字」です。
英ポンド/米ドルは1985年2月の安値1.0520ドルを下回り1.0327ドルまで下げました。しかし、状況に大きな変化はありません。
遅かれ早かれ、英ポンド/米ドルは1.0327ドルをも下回り、パリティ(=1.00ドル)以下に突入するのではないかと思います。
(出所:TradingView)
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