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西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

英ポンドの下落は続く! イングランド銀行が英国債の
無制限購入で市場に介入しても、トラスショックによる
英ポンド安や株安、不安定な債券市場の流れは変わらず!

2022年09月29日(木)18:06公開 (2022年09月29日(木)18:06更新)
西原宏一

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話題の中心は米ドル/円から、英ポンド急落に。
トラスショックをきっかけに英国市場はトリプル安

みなさん、こんにちは。

 9月28日、BOE(イングランド銀行「英国の中央銀行」)は、国債防衛のため英国の長期国債を無制限で購入すると表明し、英ポンド/米ドルも一時反発しました。

 先週までの為替市場は、政府・日銀が実弾介入を実施し、米ドル/円の話題が中心でした。

 しかし、先週金曜日(9月23日)から、為替マーケットのみならず、金融市場全般で、英ポンド急落に視線が集中しています。

 英ポンド安を誘引しているのが「トラスショック」(※)。詳細については、9月26日に公開した「FX&コモディティ(商品)今週の作戦会議」を参照していただきたいのですが、トラスショックで、英国金融市場はトリプル安(株安、英ポンド安、債券安)となりました。

(※編集部注:トラス英首相が過去50年で最大規模となる減税が含まれる「成長プラン」を発表したことで、英ポンドは急落)

【※関連記事はこちら!】
英ポンド/米ドルは、減税を引っ込めないかぎり、パリティ(1.00ドル)がターゲットにされ続ける! 「トラスショック」で暴落した英ポンドを、対米ドルか対円で戻り売り(2022年9月26日、西原宏一&大橋ひろこ)

 英ポンド/米ドルは日本時間の今週月曜(9月26日)早朝に1.03ドル台(安値は1.0350ドル)へと一瞬で500pipsもの暴落を演じています。

英ポンド/米ドル・4時間足
英ポンド/米ドル・4時間足

(出所:TradingView

英30年債利回りが急騰、2002年以来の高水準に

 トリプル安の中でも、下落が際立っているのが英30年国債。

 今週(9月26日~)になって英30年債利回りの急騰(債券価格は急落)が際立っており、あっという間に5.00%台まで上昇しました。

英30年債利回り・1時間足
英30年債利回り・1時間足

(出所:TradingView

 これは2002年以来の高水準です。

 この英国債利回りにつられるように米長期金利(米10年債利回り)は一時4%台に急騰し、米国株も8営業日連続で下落。トラスショックは英国だけの問題ではなくなり、主要国から英国政府に対して批判の声も高まりました。

 こうした中、BOEはこの国債市場の崩壊を防ぐため、劇的な形で市場介入に踏み込んだのです。

 BOEは英国の長期国債を無制限で購入すると表明し、「目的は秩序だった市場環境を回復することだ。目的達成に必要なだけの規模を購入する」との声明も発表しています。

 購入期間は即日(9月28日)実施で、10月14日までの時限的措置。これで、英30年債利回りは、数時間で5.14%から3.90%へと急激な金利低下を演じています。

英30年債利回り・1時間足
英30年債利回り・1時間足

(出所:TradingView

 これに呼応して英ポンド/米ドルは1%余り上昇。

 英国債相場が大きく持ち直したことで、NY市場では株と国債がともに大幅上昇し、S&P500指数は2%高と、7営業日ぶりの上昇でクローズしました。

 一方、米10年債利回りは0.2%余り下げて3.70%へ反落。

米10年債利回り・1時間足
米10年債利回り・1時間足

(出所:TradingView

 米ドルは幅広い通貨に対して下げ、対円では144円台前半。ドル指数は6週ぶりの大幅低下となりました。

 このBOEの発表で、英30年国債利回りの急騰は収まり、米金利も反落。米国株も反発し、英ポンド急落にもいったん歯止めがかかった展開です。

 では、このBOEの劇的な市場介入により、世界的な株安と英ポンド安はこのまま沈静化するのでしょうか?

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英中銀の国債購入は「年金危機」回避のため?

 BOEのアクションを振り返ってみれば、先週「国債売却」を決めたばかりなのに、今週になっていきなり「国債緊急購入」と急変。

 国債の緊急購入を決断したのは、もちろん英国債相場を防衛するためです。

 視点を変えれば、QE(量的緩和策)という債券を購入する参加者がいなければ、30年国債のパニック的な売りを呼び、その利回りが簡単に5%を超えてしまうともいえます。

 この利回りの急騰による英国年金基金の破綻を防ぐためにBOEが緊急措置として、国債市場の危機を食い止めたという報道もあります。

英中銀の国債購入、「年金危機」を回避 売り連鎖阻止

 出所:日経新聞

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英金融システムは脆弱で他の主要国にも伝染

 ここでマーケットを震撼させたのが、英30年債利回りがわずか5%まで上昇すると、英国年金基金の破綻の可能性が出てしまうということ。

それに連鎖して、米国株も急落し、英ポンド/米ドルの暴落も誘引する可能性があるということになります。

 それほど、英金融システムは脆弱なものであり、それが簡単に他の主要国に伝染してしまうことにマーケットは気づかされたともいえます。

 ともあれ、すでにインフレが進んでいるときに、このBOEのアクションは、一時的な金融安定(financial stability)をもたらしますが、さらなるインフレを引き起こすのではないでしょうか?

 英30年債利回りの急騰はいったん収まったものの、依然として3.90%と高水準。

 インフレも高水準で変わらないこともあり、債券市場も不安定な展開です。

トラスショックによる株安、英ポンド安は変わらないのではないかと考えています。


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