FOMC議事録公開後、米ドルは一段と反落
FOMC(米連邦準備制度理事会)の議事録がリリースされた後、米ドルは一段と反落してきた。なにしろ、利上げペースの減速が「適切」と表明されたから、米金利の低下とともに、米ドルロングポジションの決済も一段と進んだと推測される。
米10年物国債利回りは、3.66%程度に反落。10月安値の3.56%へ向けて低下していくと思われる。
(出所:TradingView)
ドルインデックスは、現在105.62前後まで下落してきたが、8月安値であった104.15の水準まで続落してくるだろうと思われる。
(出所:TradingView)
ドルインデックスを見る限り、直近の上昇波は8月安値を起点とし、9月高値をもって終焉したわけで、起点まで戻ってくるのも自然のなりゆきである。
米ドル全般を表すドルインデックスの動向を参照すれば、諸外貨の値動きをより理解できると思う。
米ドル全体の反落に比べ、ユーロはより買われている
まず、ユーロ/米ドルを見てみよう。
米ドルの対極にある通貨として、ユーロが9月安値から切り返しきたのは当然の値動きだが、11月15日(火)にいったん8月高値をブレイク、現時点でも同高値の上に定着している。
(出所:TradingView)
言ってみれば、ユーロは米ドル安の受け皿となる通貨の中でリードしており、米ドル全体の反落度合いに比べ、より買われている。
英ポンド/米ドルは、まだ8月高値に届いていない
次は、英ポンド/米ドルだ。
9月の安値が史上最安値だったことからすると、目先、大分上昇してきたとはいえ、やはり8月高値にはまだ届いていない。「売られすぎ」に対する修正が続くものの、米ドル安の受け皿としての割合分しか回復できていない。
(出所:TradingView)
ただし、市場最安値を更新したばかりだったことから考えて、英ポンドの回復自体は非常に強く、また値幅が大きいと言える。
豪ドルは、ユーロや英ポンドより出遅れている
豪ドル/米ドルはどうだろうか。
執筆中の時点は0.67ドル後半のレートを示し、8月高値(0.7138ドル)まで一番遠い通貨ペアとなっている。その差は350pips超で、やはりユーロや英ポンドより「出遅れている」。
(出所:TradingView)
しかし、そもそも豪ドルは10月に安値を更新したばかりであり、またその安値が、なんとコロナショック直後の安値(2020年3月)より660pipsも高かった。より長いスパンで見れば、豪ドルはユーロや英ポンドより断然強かったことがわかる。
(出所:TradingView)
なにしろ、ユーロ/米ドルにおける9月の安値が2020年3月安値より1100pips超も安く、あの史上最安値を更新した英ポンド/米ドルとほぼ同じ価格差(英ポンドの場合は、2020年3月安値より9月安値が1089pipsほど安かった)を記録したから、豪ドルの優位性は一目瞭然だ。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
この意味では、確かにユーロは史上最安値更新に程遠かったが、コロナショック直後の安値と比べ、直近まで(9月安値)の下落幅は、史上最安値を更新した英ポンドとあまり変わらないと言える。
また、フラッシュクラッシュがあったとはいえ、同基準で考えると、英ポンドの暴落は、受けた印象ほどクラッシュではなく、実に「規律正しい」値動きだったのかもしれない。
米ドル/円の頭打ちはドルインデックスに比べて約1カ月も遅れていた
では、肝心の米ドル/円はどうだろうか。
ドルインデックスは9月27日(火)にいったん頭打ちしたのに対して、米ドル/円の頭打ちは10月21日(金)と、約1カ月も遅れていた。
(出所:TradingView)
執筆中の時点で138円台前半まで反落してきたが、2022年8月安値の130円台前半まで8円、すなわち800pipsもの差があるから、主要外貨のうち、円の戻りが実に一番弱いことを露呈している。
さらに、コロナショック直後の安値と言えば、円のレートは3月安値(米ドル/円の高値)の111.72円であった。現在のレートは、それより少なくとも26円、すなわち2600pips上に位置するから、円の位置を把握するもっとも大きなヒントと言える。
(出所:TradingView)
2020年3月の基準から測ると、4つの外貨のうち、豪ドル>英ポンド>ユーロ>円、といった関係が浮上してくる。
近年相場の構造を決定した歴史的な事件はコロナショックよりほかないから、コロナショック直後の安値と比較することで、相場の内部構造をより把握できる。
目先の値動きばかり観察すると、根本的な構造を見失う可能性が大きいから、大局観をもつことは重要である。
ミセス・ワタナベが米ドル/円の下値余地を制限?
逆CPIショックで米ドル/円は11月10日(木)や11日(金)にて急落、すなわち円の急騰があって、またその値幅が8円に近かったから、円がもっとも強いといった印象を与えやすいが、それはあくまでごく短期スパンに限った話である。
前述のように、円は諸外貨のうち、もっとも弱い存在であるため、米ドル全面安をリードするほどの円買いはあり得ない。
ミセス・ワタナベさん(日本の個人投資家)の行動から円の急騰を危惧する声もある。しかし、1日、2日ならわかるが、それ以上の期間において円が主導性を発揮して急伸していくとは考えにくい。また、ミセス・ワタナベさんが持つ資金力から考えて、相場の安定剤のような存在にもなりえる。
本日(11月25日)の日経新聞の報道もあったように、大手FX業者の統計では11月24日(木)の海外市場の取引時間帯にて、個人投資家の73%が米ドルのロングを仕掛けた。
米ドル反落途中における典型的な逆張りの行動パターンである上、将来、米ドル/円の一段下落をもたらす「土台」になる可能性(続落した場合は損切りの円買い)も大きいが、目先むしろ米ドル/円の下値余地を制限してくる存在として無視できない。
なにしろ、米ドルの押し目買いを実行するなら、その他の外貨より円売りのほうに合理性がある。円はマイナス金利であり、また金融緩和政策が続くうちは、米ドル売りの受け皿として大きく買われる心配自体が杞憂である。
ゆえに、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における外貨の優位性は変わらず、豪ドル/円をはじめ、構造上なお大きな上値余地があるとみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
続きはまた次回、市況はいかに。
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