黒田総裁、任期内最後の会合は無風通過だったが、
日銀の政策路線修正の懸念は根深い
日銀の政策維持が決定され、黒田総裁の任期内最後の会合は無風通過だった。当然といえば当然だが、昨年(2022年)12月のようなサプライズを任期満了直前にまたやったら、新総裁の植田さんに迷惑をかけることになるから、日本のアナリストのほとんどが、それはないと予想していた。
対照的に、いわゆる「外国人」アナリストの多くは、最後のサプライズありと警告を出し、彼らはウォール街の名門に属しているだけに、多くの投資家が惑わされた。
言ってみれば、しょせん「空気を読めない」から、このような予測をしていたのだが、日銀の政策路線修正の懸念が根深いことを示唆しているとも言える。これからは植田新総裁の言論が、いちいち「拡大解釈」される可能性も容易に想定できるため、引き続き、振り回されないように気をつけたい。
本日の米雇用統計の数字が悪くても米利上げピークアウト論には
つながりにくいだろう
さて、本日残る一大イベント、すなわち米雇用統計だが、より注目されるべきではないかと思う。
なにしろ、タカ派発言を繰り返したFRB議長さんが言っているように、最新のデータを見てから利上げ幅や周期を検討するから、通常より大きな変動をもたらす可能性がある。
そもそも米雇用統計に関する事前予測は、まったくと言っていいほど役に立たないから、無視してよいと思う。肝心なのは、3月の米利上げが25bpではなく、50bpと想定されるなか、どれぐらい同観測を後退させるかは今晩(3月10日)の米雇用統計の数字次第だと思う点だ。
しかし、ここで問題が浮上してくる。一般論として悪い数字が出れば、米3月大幅利上げの可能性を後退させるが、利上げ周期の終焉といったピークアウト論にはつながりにくいと思う。
したがって、悪い数字が出る場合は、米ドル全体の上昇を一時押さえる可能性はあるものの、米ドル全体の切り返しを否定するような流れにはなれないだろう。2月から形成された米ドル高の流れが、短命に終わらない公算も大きいだろう。
ドルインデックスの日足を見るとわかるように、3月7日(火)のパウエルFRB議長のタカ派発言を受けた急上昇は、大陽線をもって2023年年初来高値を更新し、上値余地を拡大している。
(出所:TradingView)
同日の大陽線をプライスアクションの視点で言えば、典型的な強気サイン(強気リバ―サル&アウトサイド)と解釈され、同大陽線が否定されない限り、米ドル全体の続伸が有力視される。
ゆえに、今晩(3月10日)の米雇用統計次第で、米ドル全体が再度売られる可能性はあるものの、強気トレンドを修正できるほどのインパクトはなかろう。
3月大幅利上げ観測の低下があっても、利上げ周期自体が継続されるから、総じて米ドルの押し目買い、といったスタンスが望ましいかと思われる。
同じように、米ドル/円は、現在、強気変動を維持しており、仮に米雇用統計後の波乱があっても上昇志向を保てると思う。この意味において、むしろ今晩(3月10日)の米雇用統計後の押しがあったほうが、出遅れた米ドルのロング筋にとっては参入の好機と映る。
プライスアクションの視点では、2月24日(金)の大陽線がもっとも強気のサインを点灯していたから、同日安値の134円の節目を大きく割らない限り、米ドル/円に関する弱気は不要だとみる。
(出所:TradingView)
ユーロ/米ドルは、いまだに年初来安値を割り込んでいない
米ドル全体は年初来高値を更新したが、対照的にユーロ/米ドルは未だに2023年年初来安値を割り込んでいない。
(出所:TradingView)
ドルインデックスと反対に、3月7日(火)大陰線は典型的な弱気サイン(弱気リバ―サル&アウトサイド)を示していたが、下落自体が緩やかなスピードであった。このような状況は、これからも継続される可能性が大きい。
ユーロ/円は早晩145.83円の打診やブレイクがあるだろう
要するに、米ドル全体の上昇がこれからも継続されるなら、引き続き円の方がより売られるだろう。米ドル高の受け皿として円が一番売られやすいなら、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における底割れもなかろう。
昨日(3月10日)ユーロ/円の反落があったものの、許容範囲内に留まり、また目先切り返してきたから、日足における強気の基調がなお維持されることを示唆している。この場合、後ずれになる可能性があるものの、早晩、昨年(2022年)12月20日(火)高値の145.85円の打診やブレイクをもたらすだろう。
(出所:TradingView)
繰り返し昨年(2022年)12月20日(火)に言及しているのは、ほかならぬ、その日はいわゆる「黒田緩和修正ショック」があったからだ。
米ドル/円はすでに同日高値をいったんブレイクしたから、もはや「ショック」は修復され、これから一段と上値志向を強めると推測される。米ドルの頭打ちについては、目先安易な推測は性急であり、またリスキーであることを強調しておきたい。
クロス円には、温度差あり。豪ドル/円は下落しているが、英ポンド/円はサポートゾーンを死守
もっとも、主要クロス円においても温度差がある。実は昨年(2022年)12月20日(火)の高値をいち早くブレイクしたのは豪ドル/円であったが、最近、豪ドル/米ドルの急落につられて、再度、安値圏の変動へ逆戻りしている。
(出所:TradingView)
対して、英ポンド/円の方がかろうじてサポートゾーンを守り、また、昨年(2022年)12月20日(火)の高値には大分距離があるが、今晩(3月10日)の米雇用統計次第で、再度、底を固めるかとも推測される。
(出所:TradingView)
つまり、主要クロス円の市況はばらばらだが、総じて底割れのリスクは小さい。今晩(3月10日)のデータ次第で、さらなる波乱を覚悟しておきたいが、本格的な円買いは当面出にくいから、波乱があってもレンジの拡大となり、押し目買いというメインスタンスは不変だ。市況はいかに。
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