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志摩力男の「マーケットの常識を疑え!」

米ドル/円の急落が為替介入でもそうでなかったとしても、
いずれまた円安は進む!日米金利差が縮小しない限り、
根本的に円安は止まらない

2023年10月08日(日)09:10公開 (2023年10月08日(日)09:10更新)
志摩力男

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日米金利差が縮小しない限り、根本的に円安は止まらない

 10月3日(火)に起こった米ドル/円の急落。これが介入だったのか、介入ではなかったのか。今週(10月2日~)はその議論に持ちきりとなりました。多くの人がコメントしています。

 日銀が発表する「日銀当座預金増減要因と金融調節」、この財政等要因の欄に大きなマイナスがあれば介入だったんだろうなと推察されますが、10月3日(火)のスポットに該当する10月5日(木)の確報値を見ても、大きなマイナスはありませんでした。その結果、介入ではなかったとのニュースも流れています。

日本当局、3日に為替介入はしていないもよう-初期データが示唆

(出所:Bloomberg

 最終的には、財務省が月末に発表する「外国為替平衡操作の実施状況」で発表されます。これを待つしかありません。

 介入があったのかなかったのか、どちらでも良いのですが(究極的には、介入は相場の帰趨に関係ありません)、私自身としては、小規模介入をやったのではないかなとは思います。

理由としては

1.介入の有無について、当局側は「ノーコメント」を貫いていますが、違和感があります。何もないなら否定すべきです。
2.神田財務官は、介入モドキがあった翌日、岸田首相と会っています。説明があったのではないかなと思います。
3.小規模だったので「日銀の当座予期増減要因と金融調節」では、判明し難い。
4.財務官は、昨年までの大規模介入とは違い、まずは軽く「ジャブ」を出してきました。おそらく長い戦いになると覚悟されているからでしょう。大規模介入は米国側の心証を悪くします。

 昨年(2022年)は介入がよく効きましたが、それは115円前後から始まった円安局面が半年以上も続き、市場の米ドル/円のロングポジション(買い建て)がかなり積み上がっていたからです。

 現在、ロングポジションの積み上がりは昨年(2022年)ほどではないでしょう。むしろ「神田トレード」と言われる、介入待ちのショートポジション(売り建て)が積み上がっていたりします。

また介入は、本質的には相場に影響はありません。

 日米金利差が円安の理由です。日米金利差が縮小しない限り、根本的に円安を止めるのは難しいでしょう。

米ドル/円 週足
米ドル/円 週足

(出所:TradingView

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日銀は金融政策を変更するのか?

 では、日銀は金融政策を変更するのか?

 それはすぐには難しい。元日銀の門間一夫氏によると、今、日銀が目指しているのは「物価目標ではなく、賃金目標」とのことです。

「物価は放棄している。ただただ賃金が上昇することを祈っている」とのことですが、上手い表現だなと思いました。

 目指すのが賃金目標であるならば、それは日本の場合春闘でしか動きません。そうであるならば、日銀の政策決定会合も4~5月に年1回行うだけでよいのではと、皮肉も言いたくなります。

 安倍元首相の頃から、毎年のように賃金上昇を企業側に「お願い」しています。

 今年(2023年)も岸田首相は連合の総会に出席していますが、お願いで状況は変わるのでしょうか。従業員の給与は変わらないのに、企業経営者の報酬は毎年伸びています。経営者は自己利益を伸ばすことには熱心ですが、従業員給与はどうでもいいと思っているでしょう。

(出所:日本経済新聞)

日本における名目賃金上昇のカラクリとは?

 日本における名目賃金は増えています。増えていますが、インフレ率の上昇に追いついていません。インフレ率以上の賃金上昇というのが、国民の悲願になっているのですが…。

(出所:日本経済新聞)

 これにもカラクリがあります。企業はインフレの分だけ名目の売上が伸びますが、インフレと同じように賃上げすると企業収益は変わらないことになるので、インフレ率以下に賃金を設定します。

 その結果、名目賃金は伸びているので「賃上げした」と言え、実質賃金は低下するので、企業収益は伸び、株主に報い、株価は上昇し、企業経営者の報酬は増えることになります。

 頑張って賃上げしたけれども、インフレが厳しくて追いつかなかった……と、頑張っているフリをしながら、自らの報酬は上げる。いつまで茶番を続けるのでしょう。こうして、家計は疲弊し、日本の内需は沈滞し、海外と所得格差が広がります。

 この海外との所得格差、日本人の労働の質の高さを考えると、「何かおかしい」と思います。普通は、この格差が縮小する動きが起こるはずですが、起こりません。

 コストカットばかりやって企業業績を伸ばしただけなので、研究開発が進まず、中身がスカスカの会社ばかりになっています。本当の競争力が失われている。これがいくら円安になっても貿易黒字にならないひとつの理由ではあります。

 この点に関しては、政治サイドのフラストレーションも相当高まっていると思います。金融緩和をして、円も安くなり、(輸出)企業が業績を伸ばして最高の環境なのに、どうして賃金が上がらないのかと。

 内閣官房が出す「新しい資本主義の推進についての重点事項」、最初の一文に「我が国経済はコストカット経済からの歴史的転換点にある」とあります。企業経営者に対する猛烈な批判です。コストカットばかりやって自分の報酬を上げないで、しっかり儲けろと。

 本当に転換点を迎えることができるのかどうか、それは今後の企業経営にかかってきます。日本企業は他国の企業と違い、終身雇用制を前提としているので、会社は社員の社会保障的な面も求められており、そのため効率が落ちます。

 雇用維持を求めた政府側にも責任がありますが、ヨーゼフ・シュンペーターの言うCreative Destruction(創造的破壊)(※)がなされなかったため、賃金を上げると倒産してしまうような低収益な会社が多くなっています。そのため賃金が上がらないのですが、これは1回、経済危機等がこないと整理されないのではないかと思います。

(※編集部注:「ヨーゼフ・シュンペーター」は、20世紀を代表する経済学者)

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米ドル/円の急落が介入でもそうでなくても、いずれまた円安は進む

今回の米ドル/円急落が、介入であったとしても、そうでなかったとしても、いずれまた円安が進みます。

 日銀の言う「賃金上昇を伴う経済の好循環」が実現されれば良いのですが、植田総裁も難しいと思っているのではないでしょうか。賃金を上げられない非効率は、金融政策等では如何ともし難い。

 YCC(イールドカーブ・コントロール)の修正は行いましたが、依然として国債の買い入れオペは続いており、購入量が減ったわけではありません。量的緩和は続いています。YCCで日銀がJGB(日本国債)購入を続けているので、金利は安定し、債務が膨れても日本は安定しています。しかし、この事実上のマネタイゼーションが円安の根本的理由です。JGBの代わりに円が売られていくということです。

 インフレを巨額の補助金で誤魔化しながら、ところどころ介入で相場を牽制しながらも、現状の状況が続いていくのでしょうが、いずれさらなる輸入インフレに決断を迫られるときがきます。金利を上げて円を守るのか、それとも従来どおりのマネタイゼーションを続けて円安を放置するのか。

1回は円を守る方向に動くのではないかなと思います。その時は、大幅利上げと同時の為替介入で円は急騰するでしょう。それは、米ドル/円のロング(買い建て)にとってチャンスになります。

 またそうでなければ、米国がリセッション(景気後退)に陥るまで、ずっと円安が続くことになるのではないかと思います。

米ドル/円 週足
米ドル/円 週足

(出所:TradingView


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