円安の行きすぎから一転、円急騰の行きすぎに
円は、急騰してきた。きっかけは、日銀総裁(副総裁さんも含め)の発言とされるが、本質的にはごく単純で、ごくシンプルな理屈であるため、いろんな複雑な解釈(往々にして後解釈)は不要だ。
(出所:TradingView)
要するに、円安の行きすぎである。行きすぎはテクニカルのみではなく、マーケット心理でもよく検証されていた。だからこそ、今回、円の急騰をもたらしたわけだが、いつものとおりであるため、別にサプライズではない。
日銀総裁の発言は、2023年年内にもマイナス金利解消といった思惑を引き起こした。思惑というより憶測に近いところだが、過大に積み上げられた円売りポジション(CFTCの統計では、円売り超ポジションが11月半ばにて13万枚超を記録した)や、ミセス・ワタナベさんの逆張り(円売り)が盛んであったため、逆回転がいったん始まると、今度は反対方向へ連鎖的な反応を引き起こし、円急騰自体の「行きすぎ」が見られたわけだ。
しかし、行きすぎは相場の常である。今さら驚くものではない上、そもそも、ここまでの円安の行きすぎが尋常ではなかった。
前述のように、マーケットにおける円売りポジションの過大な積み上げ、また個人投資家がトレンドを逆張りして円売りポジションを選好していたのは、ほかならぬ円安継続に対する強い思い込みである。マーケット心理とは、思い込みによって形成される以上、今回のような大きな波乱がなければ、なかなか修正されない。
さらに、マーケット心理の偏りも尋常ではなかった。やれ155円、やれ160円、いや170円だろうと、猫も杓子も競って過激な米ドル/円の上値ターゲットを予想し、また円安宿命論とか、円の紙くず化などの過激な主張が人気を博した。言ってみれば、円を売っておかないといられないような雰囲気があった。
ゆえに、昨日(12月7日)米ドル/円が一気に141円台後半まで急落したことは、値幅こそ筆者の想定を超えたものの、サプライズではなかった。マーケット心理が偏りすぎた分、巻き戻す時も往々にして過激なので、むしろ当然の成り行きだと思う節がある。
日銀政策修正の大前提となる賃金上昇がなく、年内政策修正ありといった観測は、憶測にすぎない
しかし、短期スパンに限って言えば、円の急騰自体が「行きすぎ」ではないかとも思う。そもそも、日銀の早期マイナス金利解消自体は無理な話なので、それに基づく米ドルや、その他外貨の処分は仕方がないとしても、積極的な円買いにはつながらないだろう。
日銀総裁が繰り返し指摘してきた、政策修正の大前提がある。それは賃金上昇だ。しかし、10月の実質賃金は2.3%減と、本日(12月8日)厚生労働省は発表。連続19カ月マイナスとなり、同統計の開始以来、過去最低を記録した模様だ。
このような状況の中で、日銀が拙速な行動を取れないのは一目瞭然だ。一部報道にあったように、2023年年内政策修正ありといった観測は憶測にすぎず、それを煽った記者も無責任だと言わざるを得ない。
米ドル/円は146円~147円台が、メインレジスタンスゾーンと化すだろう
とはいえ、相場はいったん「壊れる」と、安易な回復もなかなか見られない。目先、米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)は総じて売られすぎの状況にあるが、売れすぎだからこそ、なかなか反発してこない、といった局面も想定しておきたい。マーケットは、そういうものである。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
米ドル/円にとっては、146円~147円台が一転してメインレジスタンスゾーンと化し、ここから戻しがあっても同レジスタンスゾーンの上放れは容易ではなかろう。
(出所:TradingView)
クロス円も、これから長期にわたって高値打診はない!?
つられて売られた主要クロス円は、揃ってメインサポートゾーン割れの状況にあり、修復されるまで大分、時間がかかるだろう。
ユーロ/円は昨日(12月7日)、10月3日(火)安値を割り込み、英ポンド/円は同日安値に接近していた。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
豪ドル/円についても、ほぼ近い状況なので、主要クロス円も米ドル/円と同じく、これから長期にわたって、もう高値打診がないと思われも仕方がないと思う。
主要外貨の米ドルに対する上昇は、これから加速する!? 主要クロス円は、押し目を拾うスタンスで
そう思いつつ、筆者はあえて異論を提唱したい。
米ドル/円に関しては、筆者が繰り返し指摘してきたように、2028年までの高値更新なしが決定したと思うが、ユーロ/円など主要クロス円に関して、性急な判断を避けたほうがいいと思う。
なにしろ、主要クロス円の多くは米ドル/円の内部構造と違うから、同一に扱えない。目先、米ドル/円は急落してきたが、前述の理由から、これから米ドル反落の傾向が変わらなくても、昨日(12月7日)のような過激な値動きにはならないとみる。
一方、米ドル全体(ドルインデックス)の値動きは、これから加速してくる可能性がある。来年(2024年)の米利下げに関する推測がどうであれ、ドルインデックスの内部構造が、これからさらなる下落を示している以上、ユーロ、英ポンド、豪ドルなどの主要外貨の対米ドルでの上昇は、これから加速するだろう。
先に大きく動いている円は、逆について行けない可能性がある。日銀政策修正に関する期待が大きければ大きいほど、裏切られた時の失望も大きいから、現時点の水準より上目線の円買いポジションは、維持するのが難しいと思う。
そうなると、いったん「壊れた」主要クロス円の現状は、クリスマスバーゲンと言っても過言ではないと思う。今晩(12月8日)の米雇用統計次第の波乱を警戒しながら、主要クロス円の押し目を拾っていく、というメインスタンスを維持したい。
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