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岸田政権の掲げる「賃金と物価の好循環」が実現しているとは思えない
5月16日(木)に発表された日本の1-3月期実質国内総生産は非常に悪く、前期比-0.4%予想のところ-0.5%、年率にすると-2.0%と非常に厳しいものでした。
(出典:内閣府経済社会総合研究所)
マイナス成長の大きな要因は家計の不振です。
(出典:内閣府経済社会総合研究所)
左側の実質家計最終消費支出は、過去1年、4期連続してマイナスです。明らかに物価上昇に賃金の伸びが追いついてない。「賃金と物価の好循環」というキャッチフレーズは美しいですが、実現しているとはとても思えません。
2023年はコロナ5類移行に伴い、使われなかった強制貯蓄部分が解き放たれて高成長するとの期待はありましたが、まったくそのようにはなりませんでした。
インフレに何もかも負けているというのが実態です。
春闘における賃上げは6月以降反映されるはずですが、そもそも誰も「賃金と物価の好循環」が実現するとは思っていません。
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が5月18、19両日に実施した合同世論調査の結果ですが、物価上昇を上回る賃上げが実現すると思っている人はわずか4.8%、実現しないと思っている人が92.2%です。岸田政権の支持率がいくら低いと言っても、ここまで誰も政策を信用していないというのもすごい。
(出所:産経新聞社とFNNが5月18-19日実施した合同世論調査)
同じ世論調査で、首相に取り組んでほしい政策の回答を見ると、どれも経済政策です。政権の支持率低下が裏金問題と錯覚しているならば、大間違いです。
(出所:産経新聞社とFNNが5月18-19日実施した合同世論調査)
日経平均株価を見ると、日本経済は輸出に支えられていると「錯覚」しがちですが、実はGDPに占める輸出の割合は17%ぐらい、5割は消費です。消費が伸びないとGDPは成長しません。
その消費の割合ですが、GDPの5割と書きましたが、以前は6割でした(ちなみに米国は7割を超えます)。家計が決定的に痛めつけられてきたので、6割から5割へと、大きく低下しました。
これだけ消費が低迷していると、経済成長などありえません。
また、インフレを上回る賃上げが実現すれば景気が元に戻ると考えるならば、それも間違いです。賃上げの「外」にいる人々への配慮が欠けています。賃金上昇が反映されるのは、20代~50代の正社員の方々だけです。定年となり再雇用となった方、また年金生活者は賃金上昇の恩恵を享受できません。
つまり、消費全体の4割には、「賃金と物価の好循環」が及ばず、物価高の影響のみが降りかかります。日本は構造的にインフレに弱い。だからこそデフレの時代が続いたのかもしれません。
(※筆者提供・日本経済新聞)
ここまで消費が弱いと、利上げすることが難しくなります。しかし、消費減退の原因が円安にあるのであれば、多少は利上げして円安を止める方向に持って行かないといけないとは思いますが、消費をさらに冷え込ませる可能性があるので、日銀もそこは躊躇してしまうでしょう。
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日銀が利上げすれば、日本はかなり深刻な景気後退に陥るとの見方も
現代を代表する元IMFチーフエコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏は日銀が利上げを実施すれば日本は「かなり深刻な」景気後退に直面するとの見方を示しました。
日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMFエコノミスト
(出所:ロイター)
ブランシャール氏は、日本の実質賃金の低下と財政赤字の拡大を挙げ、「経済的に行き詰まっている」と述べました。
ではどうすれば円安を止めることができるのでしょう。利上げすれば景気後退(及び財政赤字の維持可能性への疑問も出てきます)、しかし円安を放置すれば物価高からさらに消費は減速、いずれにしても景気後退です。
為替介入しかないのですが、イエレン米財務長官から4回目の介入牽制を受けました。
イエレン長官、介入は「まれであるべきだ」と強調-事前の伝達も必要
(出所:Bloomberg)
通貨当局間では常にコミュニケーションを取っており、仮に日本が介入を行ったとして、それに対して表立って相手の介入を批判して介入の効果を減ずるようなことは通常控えます。
それが大人の対応でしょう。2022年の介入時、イエレン米財務長官は日本の為替介入に対し一定の理解を示し、表立った批判はしませんでした。
しかし、今回は4回も牽制発言をしています。明らかに2022年の時とは対応に違いがあります。
その対応の違いはどこから来るのか?
事前の介入交渉が不調だったのかもしれませんし、今年(2024年)行った介入が米国の不興を買っているのかもしれません。特に2回目の、FOMC(米連邦公開市場委員会)直後に行った介入はひどいものであり、米国側からかなり批判があったとは聞こえてきます。
【※関連記事はこちら!】
⇒日本円はいつ通貨危機になってもおかしくない水準にある!なぜ財務省は「1米ドル=160円」まで為替介入をしなかったのか?そして、FOMC後に行われた2回目の介入はあまりにも非常識だった…(2024年5月15日号)
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円が本格的に水準を変える可能性が現実味を帯びてきた
これだけ円安になると、(多少のJカーブ効果(※)はあったとしても)普通は貿易収支の黒字が増え、それが円を買い支えます。ところが日本の貿易黒字は一向に増えません。3月の貿易収支が久しぶりに3870億円の黒字となったものの、4月はまた4625億円の赤字となりました。
(※編集部注:「Jカーブ効果」とは、外国為替相場の変動に対し効果が現れるまでタイムラグがあり、短期的には予想される方向とは逆の現象が起こること)
2022年の貿易収支は20.3兆円の赤字でした。
2023年の貿易収支は9.3兆円の赤字でした。
2024年こそは少し黒字になってもらいたいものです。これまで(1月~4月)のところ2.3兆円の赤字です。昨年(2023年)の今頃は5.6兆円の赤字だったので改善しています。
ただ、貿易収支の数字は、資本のフローから見ると微々たるものです。
日本は貯蓄大国です。この貯蓄が本格的に動き出すと、誰も止めることはできません。日銀の資金循環統計によると、家計部門が持つ金融資産の合計額は2141兆円。そのうち現預金が1127兆円です。この現預金が1割でも動くと、112兆円と巨額であり、為替介入したところでとても止められないことになります。
【参考コンテンツはこちら!】
⇒2023年第4四半期の資金循環(日本銀行調査統計局)
植田日銀総裁の説明では、基調的物価上昇率は2%に達していないということになっています。しかし、実際の生活において日々物価高を実感しており、多くの方々の感じる物価上昇率は16%というデータもあります。
このままゼロ金利の円に資金を置いていても、インフレに負けるだけなので、円をどうにか有利なところにおいておきたいというニーズはあるでしょう。
物価は上昇する、金利は上がらない、円はどんどん安くなるとなれば、日本の外への資金シフトはいつ加速してもおかしくありません。
大きな声では言えませんが、円が本格的に水準を変える可能性が現実味を帯びてきています。
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日本の不安定化は米国にとって不都合。どこかで米国が円のサポートに転じるか
かねてより、米ドル/円はそのうち150円と言って実現しました。
【※関連記事はこちら!】
⇒日本円はいつ通貨危機になってもおかしくない水準にある!なぜ財務省は「1米ドル=160円」まで為替介入をしなかったのか?そして、FOMC後に行われた2回目の介入はあまりにも非常識だった…(2024年5月15日、志摩力男)
今は、ヘッドアンドショルダーのターゲット175円ぐらいまで円安が進むかもしれないと考えていますが、現実的に円安を止める手段がないとするならば、もっと円安になるかもしれません。
市場では200円のドルコール(買い)オプションが取引され始めているという話も聞こえ始めてきています。
ただ、本当にそうなった場合、日本は不安定化します。それは米国にとっても不都合でしょう。対中国への橋頭堡(きょうとうほ)として、日本には強くあってもらわないといけません。
どこかで米国が円のサポートに転じるところがあるかもしれません。
それが160円なのか、170円なのか、180円なのかわかりませんが、米国主導で円安阻止、日本経済立て直しとなる可能性があります。協調介入もあるでしょう。その時、日本は防衛政策において主権を事実上失っているように、財政金融政策でも主権を失うのかもしれません。
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