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なぜ「1米ドル=160円」まで財務省は為替介入をしなかったのか?
2024年4月29日(月)、ゴールデンウィークがスタートし、多くの方々が長期休暇をエンジョイしている最中、米ドル/円は1990年4月以来となる160円を突破、たまらず財務省は為替介入を行いました。
(出所:TradingView)
しかし、なぜ財務省は160円まで為替介入を行わなかったのか(?)鈴木財務相が「断固たる措置を取る」と発言したのは3月27日、そのときの米ドル/円は151円台でした。「断固たる措置」とは介入のことであり、以前であれば、こうした発言があれば2~3円以内で介入を行っていました。
ところが鈴木財務相の発言のトーンは次第に落ちていきます。
「高い緊張感を持って注視し、行き過ぎた動きにはあらゆる手段を排除せず適切に対応する」これであれば、まだ介入は選択肢にあります。
しかし、「動向をしっかりと注視し、万全の対応をとりたい」、「しっかり対応していく」と、だんだんトーンが弱まりました。
明らかに何か予定外の異変があったと思われます。もっとも考えられるのが、米国から為替介入への同意が得られなかったということかもしれません。
同意を得るため交渉しているうちに152円を突破し、なし崩し的に円安が進み、160円でやむなく為替介入に至った、というのがもっともありえそうな経緯かなと想像します。
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異例!イエレン財務長官による3回の介入牽制発言の意味
日米通貨当局の間に何らかの齟齬(そご)がある。最初にそのように思ったのは、日米韓財務省会合の声明文を見たときです。
「我々はまた、(A)最近の急速な円安及 びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、(B)既存の G20 のコミットメント に沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」
(A)の円安に対する懸念の共有がなされたということで、日米韓の協調が実現したと多くの人が感嘆しましたが、次の(B)既存のG20のコミットメントに沿ってという一文に違和感を感じました。
(A)については認識するが、円安への対処にはG20(通常G7ですが、韓国が入っているのでG20となったのでしょう)のコミットメントに沿って行うというイエレン米財務長官の毅然としたものを感じさせました。
この懸念は、その後イエレン米財務長官が2回介入牽制ともとれる発言を行ったことからもうかがい知ることができます。「介入はまれであるべき」、「特定の水準を守るべきものではない、市場の混乱や過度の変動に対処するため」、「事前に協議されるべき」と発言しました。
そして5月13日(月)、イエレン米財務長官は3回目の牽制発言を行いました。
「それぞれの国にとって介入は可能だ。よりファンダメンタルズの変化を伴わない限り、常に機能するものではない。しかし介入を実施するのであれば、極めてまれなケースであるべきで、貿易相手国に伝達するのが適切だろう」
「ファンダメンタルズの変化を伴わない限り、(介入は)常に機能するものではない」という一言を付け加えたことが重要です。他国の為替介入の際に、その効果が減じられるような発言というのは、通常、通貨当局は控えます。しかし、ファンダメンタルズの変化を伴わない日本の介入は効かないと批判しています。
ここまで批判するのは、本当に異例です。やはり、日本の通貨当局と米国との間で、コミュニケーションエラーがあることが懸念されます。
イエレン財務長官から異例となる3回の介入牽制発言があった。これは日米のコミュニケーションエラーによるものか? (C) Bloomberg/Getty Images
FOMC直後に行った2回目の介入があまりにも「非常識」だった
やはり5月1日(水)に行った2回目の介入があまりにも「非常識」だったからでしょう。日本の通貨当局は、FOMC(米連邦公開市場委員会)におけるパウエル議長会見終了直後、強烈な為替介入を行い、わずか20分ほどで米ドル/円を4.5円ほど急落させました。
(出所:TradingView)
これがどんなに非常識なことか、逆の立場に立って考えればわかります。
日銀金融政策決定会合で植田総裁会見が終わった直後、米ドル/円が153.00円から157.50円へと、ほんの20分ほどで4.5円も急騰したら、我々はどう思うでしょう。
しかも、それがFRB(米連邦準備制度理事会)による介入だとしたら「宣戦布告」といった言葉が頭をよぎるのではないでしょうか。
同盟国に対して「奇襲」戦法など用いるでしょうか。やっている方は「桶狭間」の織田信長気取りかもしれませんが、相手側から見れば「パール・ハーバー」、心象は極めて良くない。言ってもわからない相手だから、イエレン米財務長官は3回も、子供にでもわかるように説明しているのでしょう。放っておいたら、また変な介入をするかもしれません。
【※関連記事はこちら!】
⇒【週刊!志摩力男】スキを突いた為替介入は本当に正しいのか? 岸田首相が6月解散決断なら臨時日銀会合開催で利上げという怒涛の展開も!? その時、米ドル/円は? (2024年5月8日号)
イエレン米財務長官の示唆する「ファンダメンタルズの変化」とは何か。
日本の産業構造を変えて、貿易黒字を増やしたり、日本に投資しやすいように制度を変えたりする、ということもそうした変化ですが、直接的には「利上げ」でしょう。ゼロ金利で、なおかつ、月間6兆円もの国債購入を続けている国の通貨が上昇するはずがありません。
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日本円はいつ「通貨危機」になってもおかしくない水準にある
5月7日(火)、岸田首相が急遽、植田日銀総裁との会談を行いました。その翌週、日銀は国債買いオペの金額を4750億円から4250億円へと減額しました。
おそらく、金融政策の引き締めに向けて植田総裁に協力を求めたのでしょう。単に「為替にもっと配慮するよう、発言に気をつけてほしい」とか、その程度の要請ではないと思います。金融政策を動かさないで、介入だけおこなうというのは、米国側からの理解を得られなくなったのでしょう。
2022年の介入のとき、イエレン米財務長官は日本側のマイナスになるようなことは一言も言いませんでした。しかし、今回は様子が違います。なぜ米国の態度が変化したのか?
大統領選挙前という特殊な状況もその要因のひとつかもしれませんし、その大事な大統領選挙前に、麻生氏がトランプ前大統領と会ったということも影響しているのかもしれません。再選を賭けた微妙な時期に政敵に会いに行く、その鈍感さが癪(しゃく)に障ったのではないでしょうか。
現在の日米関係は、急速にクリントン政権の初期、もしくはオバマ政権の初期の頃のような厳しいものを感じさせます。米中対立があるから、日本はある程度えこひいきをしてもらえる、そうした甘い認識でいると重大な危機を迎えるかもしれません。
日本円は、いつ「通貨危機」となっても不思議ではない水準にまで来ていると思います。
(出所:TradingView)
2011年の高値75円から見ると、円の価値は半分になったとよく言われます。しかし、これは間違っています。インフレ率の差を考慮に入れていません。実効為替レートでみた場合、円の高値は2011年ではなく1995年であり、その時195前後に達しました。そして現状は70ほどです。円の価値はピークから35.8%と、ほぼ1/3になっています。これが通貨危機でなければ、何なのでしょうか。
円安を止めるには、ファンダメンタルズ的には金融引き締めしかありません。しかし、それでは国内経済が持たず、大不況になるかもしれません。でも、何もしなければ、円は無限に安くなり、国際的信用を失い、G7から脱落、経済危機を迎えます。
我々は究極の選択を迫られています。真実の瞬間(Moment of Truth)が近づいているのかもしれません。金利上昇を選択するのか、それとも円の暴落を取るのか、という選択です。そしてこの場合、我々はおそらく円の暴落の方を取るでしょう。
BRICS(※)という言葉を作った、元ゴールドマン・サックスの為替アナリスト、ジム・オニール氏は、円がすでに通貨危機的症状を示していると指摘しています(ただ、記事の内容には同意はできません)。
(※編集部注:「BRICS」とは今後、大きな経済成長が見込まれる新興国で、ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)の4カ国の頭文字をつなげた造語。最後の文字「S」を南アフリカとして、計5カ国を指す場合もある)
円安「通貨危機」の様相、米当局も注視-口先介入強まるとオニール氏
(出所:Bloomberg)
1998年の「ミスター円」による大量円買い介入が行われた時の状況に似ている
今回の状況は1998年の状況に似ているように感じます。1998年4月10日、「ミスター円」と言われた榊原氏は、大量の円買い介入を行います。1日で2.6兆円もの円買いを行いました。
米ドル/円は131円台から128円前後へと急落しましたが、ヘッジファンド筋から大量の米ドル/円買いを浴び、翌週から米ドル/円は何事もなかったかのように上昇を続けていきました。
榊原氏は当時のサマーズ米財務副長官から、かなりの叱責を受け、その後の介入は封印されました。最終的に米ドル/円を止めたのは、その2カ月後の、1998年6月17日に行われた日米共同為替介入でした。
最終的に米国の協力が必要になる。そのことがわかっていれば、非常識な介入はもうしないでしょう。
(※筆者提供・TradingView)
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