猫も杓子も円を売っている円安状態。
そんな中、露呈してくる2点の「不都合な真実」とは?
猫も杓子も円を売っている模様で、円の続落も当然と思われる。さらに、米ドル/円以上にクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円安の進行が速いから、円全面安かつ「底なし」の感触が市場参加者のコンセンサスとして定着しているようだ。
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しかしここまで来ると、2点ほど「不都合な真実」が露呈してくる。まず、クロス円の強さ自体、米ドル全体があまり強くないことを暗示しているということ。次に、猫も杓子も円を売っているなら、円売りを仕掛ける新規参入組がだんだん少なくなってきたということだ。
クロス円の上昇には単に円安のみではなく、少なくとも外貨対米ドルの保ち合いが前提条件として挙げられる。米ドル/円が上昇している(円が売られる)からと言って、同事にユーロ/米ドルの急落(米ドルが買われる)があれば、ユーロ/円の大幅上昇はあり得ない。米ドル/円の上昇と同時進行で、少なくともユーロ/米ドルの保ち合いが必要条件とされる。
ユーロ/円が一時175円の節目目前に迫ったのも、ほかならぬ、米ドル/円の大幅続伸とユーロ/米ドルの保ち合いが続いているから、と言えるだろう。
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豪ドル/円の108円後半の打診も、同時進行で豪ドル/米ドルの高値トライがあったからこそ見られた市況だ。
言ってみれば、円安の裏返しとしての重要要素、すなわち米ドル高は、巷が言うほど進行していない。
フランスの政局混迷に利下げ観測が浮上し、マイナス材料に満ちているユーロだが、「意外」に底堅く推移。
(出所:TradingView)
同じく利下げ観測が高まる英国では、政権交代が英ポンド買いの材料として解釈され、対米ドルでの切り返しが見られる。
(出所:TradingView)
ゆえに、ユーロ/円や英ポンド/円の大幅続伸につながり、円が最弱の通貨として目立つわけだ。
利上げ観測が浮上する豪ドルは言うまでもなく、豪ドル/円急騰の背景に、豪ドル/米ドルの高値トライ(目先1月5日以来の高値)がある。
(出所:TradingView)
となると、円全面安と言い切るのは簡単だが、米ドル高の基調が続かないなら、米ドル/円のみの連騰はやはり想定しにくい。
巷では170円までの米ドル高・円安の進行がもはや時間の問題と言われているが、そう簡単にいかないと思う。円売りの対極として米ドルが継続的に買われなければならないから、米ドル全体の基調が弱くなっていくなら、米ドル/円の頭の重さも徐々に露呈してくるはずだ。
円を売りたい者のほぼ全員がすでに円売りポジションを限界まで
積み上げており、これ以上無理という状態
そして、何よりも円安継続に関するコンセンサスの強さも問題をはらんでいる。
米ドル/円や主要クロス円の大幅続伸が見られたので、多くの逆張り筋(円買い)が踏みあげられ、すでに損切りしたと推測される。その結果として一段と円が売られたわけなので、ここから円がさらに下落していくなら、新たな円の売り手が継続的に現れないと、円安の進行は巷の想定のどおりにいかないだろう。
しかし円安継続、米ドル/円の170円の大台打診は必至という観測が圧倒的で、また支配的なコンセンサスとなっている以上、円を売りたい者のほぼ全員が、すでに円売りポジションを限界まで積み上げており、これ以上無理といった状況ができつつある。
皆がさらなる円安の進行を期待し、虎視眈々と利益確定のチャンスを狙っているなら、逆にトレンドが想定されるほど進まない可能性のほうが大きい。
もっとも、米ドル/円の伸び悩みがあれば、クロス円も影響を受けるが、外貨対米ドルの一段高があれば、主要クロス円の一段上昇もありえる。
しかし、この場合は外貨高が主因となり、受動的な円安と言えるから、米ドル/円の上昇がついてこられないと、やがてクロス円のほうも頭が重くなっていくと推測される。
米ドル/円は金利差の縮小に逆行して買われている。
「異常」な状況だからこそ、円安の終焉は近いか
そう推測する最大の根拠はほかならぬ、巷が想定する米ドル/円の170円というターゲットの達成がかなり困難なものであるということだ。
なぜなら、日本の長期金利(10年物国債利回り)はすでに1%以上に定着(執筆中の現時点で1.076%)しており、現時点で米10年物国債利回りは4.36%未満なので、その差は3.36%程度しかない。
日米金利差から大幅に乖離する形で買われている米ドル/円は、金利差の縮小傾向と逆行(ダイバージェンス)している。
(出所:TradingView)
その現状を正当化する解釈(いわゆる円安が構造的な問題で、金利差で測れない)が多いが、いくらなんでも限界がある。
目下、そのダイバージェンスがすでに限界に差し掛かっており、日米金利差の再拡大、さらに大幅な拡大がない限り、170円の大台打診は難しいと思う。
いろんな試算があるが、米ドルが170円まで上昇していくには、一般的な見方として日米長期金利差が5%以上でないと、何らかの特別な材料なしでは難しいと思われる。
なぜなら、円売りの進行はあくまで投機筋主導なので、前回のコラムでも記していたように、国際投機筋がすでに目一杯円を売っているのだから、日米金利差の再拡大なしでは、これ以上円を売っていく土台がない。
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仮に日本の長期金利が1%を維持し、これから上昇しないとしても、米10年物国債利回りが6%前後まで伸びないと5%の開きにはならない。米9月利下げの可能性が囁かれる現時点で、米金利が6%を超えるのは、やはり無理な話だと思う。
昨年(2023年)、米10年物国債利回りは10月23日(月)にていったん5.02%まで上昇していた。同日米ドル/円の終値が149.70円だった。もう一度記しておきたいが、現在、米10年物国債利回りは4.36%未満。いくら投機筋主導とはいえ、一時162円の節目に迫った米ドル高自体がすでに「限界の限界」まで買われているということである。
(出所:TradingView)
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その「異常」を「正常」な市況として扱う巷の見方自体が異常であり、またその異常な見方が流行っているからこそ、そろそろ円安の終焉が見られる。市況はいかに。
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