先週、マーケットの注目を集めたECB(欧州中央銀行)のトリシェ総裁の記者会見でしたが、「ユーロ圏の景気への下方リスク」や「インフレリスクは均衡」といった内容のもので、極めてdovish(ハト派)なトーンに終始しました。
このトリシェ総裁のベア(弱気)なコメントを受け、ユーロ/米ドルの下落が鮮明になっています。
また、このユーロ/米ドルの下落に拍車をかけた重要な報道が、9月9日(金)に飛び出しました。
その報道とはシュタルクECB専務理事の辞任に関するもので、週明けの9月12日(月)には、一時1.3497ドルまで急落しています。
■シュタルクECB専務理事の辞任で、市場に衝撃が走った
ユーロ圏にとって、ドイツは中心的な存在です。
そのドイツですが、まず、トリシェ総裁の後任として有力視されていたウェーバー独連銀総裁が辞任しました。
そして今回は、ドイツ出身のシュタルクECB専務理事の突然の辞任です。
ECBはシュタルク専務理事の辞任について「個人的な理由」と説明していますが、マーケット関係者の間では、ECBによる債券買い入れプログラムに強く反対して辞任したとの見方が一般的となっています。
確かに、シュタルク専務理事はバイトマン独連銀総裁とともに、ECBが8月に債券買い入れプログラムの再開を決めたことに強く反対していたようです。
つまり、シュタルク専務理事の辞任は、ECB内部で意見対立が生じていることを意味し、ドイツが孤立化していることを連想させます。
当然、この報道はユーロに対してネガティブなものです。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 4時間足)
この報道を受け、週明けの為替市場ではユーロ/米ドルの下落に拍車がかかり、一時は1.3497ドルまで急落しました。
その後は1.3500~1.3800ドルのレンジで、神経質に乱高下している状態です。
ただ、上記のような背景から、ユーロ/米ドルは調整が終了すると、1.3000ドルに向けて下落を再開するのではないでしょうか?
ヘッジファンドの友人達は、ユーロ/米ドルの下落の目標として、まずは1.3600ドルレベルと見ていました。
ところが、シュタルク専務理事の突然の辞任劇により、当初の目標値まで、わずか2週間で到達しました。
ユーロの混迷が深まってきており、彼らのユーロに対する目線はさらに下がってきています。
現在は次の下落に備え、戦略を組み直しているといったところのようです。
■リスク・オフでもスイスフランには資金が流れていない
さて、8月までは米ドルの弱さを指摘する報道が目立っていましたが、9月に入ると、ギリシャのデフォルト(債務不履行)が現実化してきたため、ユーロの弱さが鮮明となっています。
マーケットの不透明感が増し、株式市場でも反落が目立ってきました。結果として、マーケット全体がrisk offの動きです。

ただ、8月までは、マーケットの動きがrisk offに傾くと「株安・米ドル高・スイスフラン高・円高」といった流れになっていましたが前回のコラムでご紹介したスイス中央銀行(SNB)のヒルデブラント総裁が、スイスフラン高を強引に止めてしまいました(「ヘッジファンド出身のスイス中銀総裁が宣戦布告! 日本の再介入はあるか?」を参照)。
このところのユーロの急落にもかかわらず、ヒルデブラントSNB総裁が「介入により阻止する」と明言したユーロ/スイスフランの1.2000フランは、ブレイクされていません。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 4時間足)
結果として、唯一のsafe haven currency(避難通貨)である「日本円」に資金が逃避してきています。
したがって、今週に入るとクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の下落が鮮明となっています。
■クロス円の上値が限定的になってきている
ユーロ/円は、9月12日(月)に103.89円の安値まで急落した後、先にご紹介したユーロ/米ドルのように保ち合いを演じて、104~106円のレンジで推移しています。
ただ、ユーロ/円の上値は極めて限定的となっています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 4時間足)
マーケットの不透明感を反映して、資源国通貨で、かつ、本邦の個人投資家にも人気の高いブラジルレアルも、今週に入って大きく下げています。ブラジルレアル/円は44.18円まで急落しました。
連れて、アジアの資源国通貨の雄である豪ドルも、足元ではじり安となっています。
豪ドル/円は、82円台からジリジリと下落してきたところに、ブラジルレアルの下落につられた形で下落が加速し、節目の80.00円を割り込んで、9月14日(水)の海外市場では78.12円まで下落しました。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/円 日足)
ギリシャのデフォルトが現実化してきた現在のマーケット環境では、リスク許容度は極めて低くなっています。そのため、リスクアセット通貨である豪ドル/円の上値は限定的です。
豪ドル/円の目先の下値ターゲットは、8月9日(火)につけた76.52円といったところでしょうか?
このような状態を打破するためなのか、9月16日(木)と17日(金)に行われるEU(欧州連合)の財務相・中央銀行総裁会議に、米国のガイトナー財務長官が招待されたようです。
今週末のEU財務相・中央銀行総裁会議に注目ですね。
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