■米国株はSARSの経験から新型コロナへの対応を誤った
今回の新型コロナウイルスは中国で始まり、日本や韓国、アジア諸国に広がっていきましたが、当初、米国株はほとんど反応しませんでした。
むしろ、2月12日(水)にNYダウが2万9568ドルの最高値をつけたことからわかるように、影響は限定的という見方が主流だったようです。
【参考記事】
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●新型コロナの影響で市場は今後どうなる? 世界中が金利ゼロへ!? ドル/円100円割れも!(3月4日、志摩力男)
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(出所:TradingView)
2003年に起こったSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験があったがために、対応を誤ったとも言えます。
あのとき、WHO(世界保健機関)が非常事態宣言を行った数カ月後にSARSは制圧されました。
感染は中国と香港にとどまり、香港は大変でしたが、グローバルに見ると、むしろその時に株価は底をつけて上昇していきました。
よって、「新型コロナウイルスでマーケットが下落したが、ここは買い場!」とむしろ米国株のロングを積み増したプレーヤーも多かったと思います。
■イタリアへの感染拡散をきっかけに米国株が暴落
今から考えると、なんとも愚かです。過去の似た事例を単に真似する、アノマリー投資の失敗とも言えます。
今回は、米製造業PMIの数字が悪化し、米経済への影響が確認されたこともありますが、感染が「イタリア」に拡散したことで、状況は変わりました。
欧州内は人が自由に移動できます。イタリアの感染はイタリア国内で封じ込めることは不可能であり、欧州全体に行き渡る。そうなると、遅かれ早かれ米国も感染する。
そうした連想が米国株の暴落につながりました。
(出所:TradingView)
なぜ、イタリアで感染が広まったか。
それは中国人労働者がたくさん働いていたからです。40万人を超えるという数字もあります。
イタリア経済を影で支えているのが、中国人労働者なのです。春節で中国へ帰省した労働者がイタリアに戻り、感染が広がりました。
■欧州の経済的ダメージは第2次世界大戦に匹敵との意見も
新型コロナウイルスが欧州に及ぼした影響は甚大です。
現時点で、イタリアの感染者数は約19万9000人、死亡者数は約2万7000人。
(出所:TradingView)
他の主要国(ドイツを除く)における死亡者数も2万人を超えてきており、ロックダウンにより経済を意図的に停止させたこともあって、経済的ダメージは、ちょっと大げさと思いますが、第二次世界大戦に匹敵するとの意見もあります。
欧州は新型コロナウイルスによる経済的ダメージを回復させるため、経済対策に力を入れなければなりません。
ユーログループは、コロナ危機に伴う政府、労働者、企業の資金ニーズを支援する5400億ユーロ規模の経済対策を提案、それは4月23日(木)のEU(欧州連合)首脳会議で了承されました。
■EU共通資金の財源で南北諸国が対立
それに加えて「復興基金」の創設も議論されています。
EUの共通資金により欧州経済の立て直しを図るものですが、フォン・デア・ライエン欧州委員長は「兆ユーロ台のプログラムが必要」との認識を示し、メルケル独首相も大規模な景気下支えパッケージを支持すると発言しています。
しかし、そうは言っても、イタリアやスペインが主張する1.5兆ユーロには届かず、1兆ユーロ規模にとどまりそうです。
問題は財源です。
コロナ債と呼ばれるのか、EU共同債と呼ばれるのか、わかりませんが、欧州委員会は各国政府保証の下でのEUによる起債を検討しています。
しかし、南の諸国(イタリア、スペイン、ポルトガル等)の放漫財政を補填することに抵抗する北の諸国(ドイツ、オランダ、オーストリア等)の対立は相変わらずです。
将来的に財政統合に向かうのであれば、EU共同債の発行は不可避のはずです。
しかし、スペイン政府が主張するようにEU共同の「永久債」発行となると、それは抵抗を感じるでしょう。
永遠に南の国の尻拭いをするわけにはいきません。
■欧州の南側諸国は中国に頼るようになるかも
今回の新型コロナ経済対策で、今年度(2020年度)のイタリア財政赤字はGDP比マイナス11.2%に達すると見られています。
スペインはマイナス11.6%、フランスはマイナス8.2%、ドイツはマイナス7.7%です。債務残高の対GDP比率も急上昇します。
債務比率が最も高いのはイタリアで163%、スペインは118%、フランスは114%、そして、ドイツは73%です。しかも、この数字は2021年、2022年も引き続き拡大します。
このような財政状況なので、南側の国が共同債に固執するのもわかりますし、北側の国が抵抗するのもわかります。
しかし、北側がいつまでも反対していると、南側は困窮し、他の国からの資金援助に頼るようになるかもしれません。それは、中国です。
■見えないところで中国資金がギリシャ経済を支えている
2010年に顕在化した「ギリシャ危機」。
覚えている方も多いと思いますが、最近ギリシャの悪い話はまったく聞きません。
ギリシャは構造改革を受け入れ、その後、ドラギ前ECB(欧州中央銀行)総裁による「ユーロを守るためなら何でもする」という政策により、ギリシャの危機は抑え込まれたと考えられています。
しかし、本当にそれだけでしょうか。
ドラギ前ECB総裁による「ユーロを守るためなら何でもする」という政策により、ギリシャの危機は抑え込まれたと考えられているが、本当にそれだけなのかと志摩氏は疑問を呈する (C)Bloomberg/Getty Images
ギリシャ最大のピレウス港は、中国開運最大手コスコの資金によって整備・拡大され、今では経営権までコスコが握っています。
それ以外にも、見えないところで中国資金がギリシャ経済を支えていると言われています。
そのことにより、ギリシャはEUにとどまることができ、中国もEU経済に容易にアクセスできます。
■中国が南側諸国を支えることで、欧州全体により関与しそう
今回、EU共同債のようなスキームができず、いつまでも北側が南側の放漫財政を非難する状況が続くようであれば、中国がイタリアにより深く関与するようになります。
そうなると、たとえばファーウェイを5Gから排除しようとしても、それは欧州では困難なことになるでしょう。
新型コロナウイルスにより、多くの国が経済的ダメージを受けましたが、アフターコロナ(ポストコロナ)の世界では、中国がより力をつけるのではないかと懸念されています。
EU共同債は、単に欧州内の話ではなく、欧州における中国の影響度をどの程度受容するのかという問題となってきています。
このままいくと、北側諸国と南側諸国の対立はそのままに、中国が南側諸国を支えることで、欧州全体により関与するという未来が見えます。
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