「米国は世界最大の貿易赤字国です。世界中の輸出企業が米国への輸出で得た米ドルを毎日売っているのです。つまり、黙っていれば米ドルは売られるのです。

(出所:米国FXCM)
米ドルに必要なのは逆に『買われる理由』。そして、米ドルが買われる理由はおもに2つあります。
1つは何らかの理由で世界の投資家が『為替リスクをとって米国に投資するとき』です。
このとき、為替リスクをとるか、とらないかを決めるのに重要なのは米国の金利です。
米国の金利が非常に低水準で推移して、近い将来も上昇する可能性が低い場合には、世界の投資家は投資資金を米ドルで借りて米国へ投資すればいい。金利が低く、低コストで米ドルが調達できるのですから、わざわざ為替リスクをとる必要がありません。
この場合、資金は最初から米ドルで調達していますから、米ドル買いのフローが生まれません。
逆に米国の金利が高くなれば、米ドルで資金調達しようという動きが少なくなり、『為替リスクをとって米国に投資する』ようになります。こうなると、米ドル買いのフローが生まれます。
米ドルが買われるもう1つのケースは、海外投資を行っていた米国の投資家が何らかの理由で米国内に資金を回避させたいときに起こります」

この2つめの理由は、いわゆる「リスク回避の米ドル買い」というもので、「投資家のリスク回避時には米ドル買いと円買いが両方起こるが、その場合、通常は米ドルよりも円のほうがより強くなり、その結果、米ドル/円相場は下落する」と佐々木さんは解説する。
米国と日本はともに資本の出し手であり、世界のマーケットに何か問題が起こると、その資本が自国に戻っていくことで、米ドル買い、円買いのフローが生まれるということなのだ。
■「強い米ドルを支持する」発言の真意とは?
さて、「売られる理由などいらない」という米ドルだが、米国の財務長官などは「強い米ドルを支持する」といった発言をよくしているように思える。
あの発言の真意はどこにあるのか?
「通貨安は自国製品を他国に売り込むために有利になりますから、本来いいことのはずなんです。
けれど、米国は巨額の貿易赤字を抱えていて、米ドルは本当に不安定な通貨です。だから、米国の財務長官が『米ドルは弱いほうがいい』なんて言えば、急落してしまう可能性がある。
急落するのはさすがに困るので、『強い米ドルを支持する』と言っておいて、米ドルを緩やかに下落させようとしているのでしょう。そうなることがわかっているので、わざとずっと言い続けているのだと思います」

「米国の財務長官が言う『強い米ドル』というのは、『しっかりした米ドル』という程度の意味でしょう。物価上昇率が高くならない程度の『しっかりした米ドル』ということです。『強い米ドル』とは、『上昇する米ドル』という意味ではないと思いますよ」
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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