為替マーケットは引き続き、リスクオンの方向に反応している。つまり米ドル全体(ドルインデックス)は反落を続け、米ドル/円のみが切り返す傾向を示している。
当然のように、このような局面ではクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が一番恩恵を受け、ユーロ/円、英ポンド/円や豪ドル/円は軒並み堅調な値動きを見せている。
■ユーロショートポジションの解消が続きやすい地合い
まず、ユーロの場合、表では8月16日(木)のメルケル独首相の発言に支えられ、底割れを回避したように見える。
しかし、本質的にはユーロが売られすぎという状況にある中、スペイン国債利回りの低下傾向と相まって、ユーロのショートポジション(売り持ち)を解消する動きが続きやすい地合いにあるため、このような動きになっているとみる。
7月25日(水)以降、スペインの長期金利(10年物国債の利回り)は総じて低下傾向にある。これはユーロ/米ドルの7月24日(火)安値を起点とした切り返しと整合的だ。

(出所:米国FXCM)
スペイン長期金利のもう一段の反落があれば、ユーロも総じて底堅く推移し、リバウンドの余地がありそうだ。
■典型的なリスクオンムードの反応パターン
スペイン長期金利の低下はドラギECB(欧州中央銀行)総裁による「ユーロ防衛論」の発言に依存するところが大きい。
そして、2011年11月のイタリア国債危機と同様、ECBはスペイン危機を解消するために、具体策を練り始め、かつ従来の枠組みに縛られない行動に出て、危機は回避されるといった見方も多い。
こういった雰囲気の中、メルケル独首相のECB支持の発言や米国株の上昇が、一段と市場センチメントをリスクオンの方向へ押し進めたと思う。
たびたび指摘してきたように、EU(欧州連合)危機以降、為替マーケットにおけるパフォーマンスはリスクオン/オフに左右される傾向が強い。
前述した「米ドル全体が下落、米ドル/円とクロス/円が上昇」といった構図は典型的なリスクオンムードの反応パターンであるから、理に適っている。
【参考記事】
●米雇用統計が良かったのに、なぜ米ドルは売られたのか? その隠れた理由とは?(8月10日、陳満咲杜)
もっとも、ユーロの切り返しについてはユーロ全体について考える必要がある。前回のコラムでも強調したように、同じように売られ過ぎていたユーロクロス(ユーロと米ドル以外の通貨との通貨ペア)の修正が先行し、ユーロ/米ドルがそれを追随するといった構図が読み取れる。
特に対資源国通貨では、ユーロの暴落はかなり進行してきたので、スピード調整の気運が高まる。
【参考記事】
●米雇用統計が良かったのに、なぜ米ドルは売られたのか? その隠れた理由とは?(8月10日、陳満咲杜)
■「1-2-3の法則」が成立したユーロ/豪ドルの日足
このロジックで推測していくと、テクニカル的に見て、ユーロクロスがリバウンドする可能性が高ければ高いほど、ユーロ/米ドルも上値余地がある、ということになる。
それでは、ユーロクロスのチャートを順番に見てみよう。
ユーロ/豪ドルの日足では、底打ちのパターンを示す「1-2-3の法則」が効いている模様。
(出所:米国FXCM)
「1-2-3の法則」の1の条件とは「前の安値を下回らなかったこと」、2の条件とは「下落抵抗ラインを上回ったこと」、3の条件とは「その前の主要高値を越えていること」だ。
【「1-2-3の法則」に関する参考記事】
●中川問題は関係ない!?為替相場で円安が進んでいる本当の理由(陳満咲杜)
この3つの条件を検証してみると、ユーロ/豪ドルには一段とリバウンドの余地がありそうだ。その上、RSIが示す強いダイバージェンス(※)も効いているから、その可能性は一層高くなる。
【ダイバージェンスに関する参考記事】
●ドラギ総裁発言でユーロが激しく上昇! 平凡な発言内容になぜ激しく反応した?(陳満咲杜)
(編集部注:「ダイバージェンス」とは、相場の値動きとテクニカル指標の動き方が逆行すること)
続いて、ユーロ/NZドル。
「1-2-3の法則」の1と2の条件は満たし、RSIのダイバージェンスも同様に効いているから、3の条件を達成できれば、やはり一段と反騰する可能性が高い。
(出所:米国FXCM)
■大した反騰を見せていないユーロ/加ドルもそろそろ反騰か
ユーロ/円の場合、8月16日(木)に再度「1-2-3の法則」の3の条件を満たしたから、より激しいリバウンドが予想される。
(出所:米国FXCM)
唯一、大した反騰を見せていないのはユーロ/加ドルとなるが、RSIが示す強いダイバージェンスを考えると、そろそろ反騰のタイミングが来るだろう。
(出所:米国FXCM)
この中で、特に強調しておきたいのはユーロ/円反騰の意味合いだ。
7月27日(金)の本コラムで指摘したように、ユーロ/円にとって94円台を死守するかどうかは重要な意味を持つ。そして、ユーロ/円の底割れ回避は結局、ユーロの底割れ回避につながる。
【参考記事】
●ドラギ総裁発言でユーロが激しく上昇! 平凡な発言内容になぜ激しく反応した?(7月27日、陳満咲杜)
足元で98円の節目に接近するユーロ/円を見ると、最悪の時期が過ぎたという感触が一段と深まる。
■米長期金利の上昇から見て、米ドル/円の上昇は続きそう
当然のように、クロス円のユーロ/円は米ドル/円の底打ちの有無と深い関係にあり、米ドル/円の動向も重要だ。
今度は米ドル/円を見てみよう。
まず、ファンダメンタルズ上の話では、前述したリスクオン/オフの市場センチメントとのつながりで、米長期金利との相関性が大事だ。
米長期金利の低下がリスクオフの反映であれば、金利上昇はリスクオンの雰囲気につながり、米ドル/円の底打ち、さらには上昇をもたらす。

7月25日(水)の安値から、米長期金利はほぼ一本調子に上がってきた。米ドル/円との相関性を考えると、現在、米ドル/円の切り返しは遅れている感じさえある。ゆえに、米ドル/円の反騰が続く公算は大きい。
■エリオット波動論で米ドル/円チャートを分析すると…
次にテクニカル的な視点では、下のチャートを見てほしい。
エリオット波動論で見ると、2011年10月31日の安値から米ドル/円はすでに大きな上昇変動を展開、5波構造なら、3月15日高値からの反落は調整2波にすぎず、それが一服すれば早晩、上昇3波に復帰する見通しだ。
【エリオット波動論に関する参考記事】
●エリオット波動論で説明! なぜドル/円は79円台前半への深押しがなさそうなのか?(陳満咲杜)
●【09年予想】宮田直彦さんに聞く(2) ~エリオット波動の5波にあるドル/円~
●宮田直彦氏に聞く(1) 為替相場は歴史的な大転換点を迎えている!
(出所:米国FXCM)
問題は調整2波(上のチャートの緑大文字)の構造だ。
上のチャートが示すように、調整2波自体が5波変動構造なら、通常第5波の下落は3波のボトムを下回るもの。そして、底打ちを確認してからブルトレンド(上昇トレンド)に復帰するといったシナリオになる。
しかし、3波ボトム(6月1日安値77.65円)を割れずに米ドル/円は反騰した。これはいわゆる「5波の失敗」、あるいは「5波の未達成」といった現象で、大きな意味合いを持つ。
■なぜ、米ドル/円上昇の可能性は高いと言えるのか?
このような可能性は8月15日(水)午前中に作ったチャートでとらえていたので以下に示す。
(出所:米国FXCM)
図示したように、5波ボトムは3波ボトムを下回れずに、4波のトップを上回ったので、「5波の失敗」、あるいは「5波の未達成」という現象が起きた。
「5波の失敗」、あるいは「5波の未達成」という現象は重要な意味を持つと強調してきたが、その意味を極端に言えば、「来るべき現象が来なければ、逆パターンになる可能性が高いだけでなく、モメンタムも増していく」ということだ。
今回のケースでは、これは「激しく反騰する」という意味合いになるだけに、米ドル/円の切り返しは当然の結果と言える。
ところで、なぜ上の1時間足が示す現象が重要かというと、1時間足における「5波の失敗」は、日足における「5波の失敗」につながるからだ。
日足チャートにおける内部構造は以下のとおり。
(出所:米国FXCM)
対比してみればわかるように、1時間足における3波ボトムは日足における5波ボトムと合致する。1時間足の「5波の失敗」は結局、日足における「5波の失敗」の可能性を高めているわけだ。
その上、日足における「5波の失敗」が確認されれば、これは序列が上に位置する調整2波(3月15日高値からの下落変動)の早期終了を意味する。したがって、これから強い上昇3波を展開していく公算が大きいとみられる。
もっとも、このようなロジックが正しければ、8月1日(水)からブルトレンドはすでにスタートした計算になる。
相場より先走りできない以上、トレンドの進行をいち早く察知するのが我々の使命だ。この意味では、前述の分析はそれなりに参考になる部分があるのではないかと思う。市況は如何に。
(8月17日 PM14:30執筆)
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