今週に入ってから、米ドル全体の状況を測るドルインデックスは一進一退を繰り返しているが、はっきりした変化を見せてくれた通貨ペアもある。
それは英ポンド/米ドルと米ドル/円だ。
■予想どおり、高値を更新してきた英ポンド/米ドル
まず、英ポンド/米ドルだが、先週のコラムでも強調したように、英ポンド/米ドルのメイントレンドに関する筆者の判断は変わらず、いずれ高値を更新してくるとみていた。
すると案の定、4月19日(木)に年初来の高値更新となった。
【参考記事】
●ドル/円は79円台前半までの深押しはなく、早晩85円台を目指すと予想する!

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)
英国の中央銀行(以下、英中銀)の議事録が市場の予想ほどハト派ではなかったという説明は、今でこそあちこちから聞こえてくるが、つい最近まで、英中銀の量的緩和拡大を懸念した向きが多く、それを根拠に英ポンドの売りポジションを建てた方も多かったようだ。
この点も実に重要だ。売りポジションが多い一方で、見込まれた方向に動かないとなると、逆の方向に大きく振れるのは為替相場でいつも見られる習性である。
■英ポンド/米ドルが高値を更新できた本当の理由とは?
ところで、3月23日(金)から本コラムの記事をひととおり読んでいただければ、英ポンド/米ドルが高値更新できた本当の理由がおわかりいただけると思う。
【参考記事】
●ポンド/ドルは今度こそ「教科書どおり」に反落する! ドル/円は引き続き上昇基調か(陳満咲杜、3月23日)
●教科書どおりに動かず“ダマシ”発生。それこそがドル安トレンドの強力なシグナル(陳満咲杜、3月30日)
●米雇用統計がどうなっても影響は限定的。米ドル全体の上昇は長く続かない!(陳満咲杜、4月6日)
●ドル/円は79円台前半までの深押しはなく、早晩85円台を目指すと予想する!(陳満咲杜、4月13日)
英中銀の政策動向を知らなくても──いや、知らないほうがよりいい──きちんと判断ができたわけだ。要するにマーケットにおける本流(メイントレンド)と傍流(サブトレンド)を見極めれば、英ポンドの上昇傾向はとらえられたのである。
このような見方を再度証左してくれた値動きが今週もあった。くどいようだが、再度4月5日(木)のチャートを掲載し、それと比較してみよう。
まずは4月5日(木)のチャートだ。
(出所:米国FXCM)
そして、本稿執筆時点のチャートは以下のとおり。
(出所:米国FXCM)
チャート上に丸囲みで示したように、1月安値から引かれたメインサポートラインは4月16日(月)に再度試された。
が、そのサポートラインの役割が確認されたわけだから、遅くても4月17日(火)から英ポンドのショートポジションは手仕舞いすべきだった。
英中銀の議事録云々よりも、値動きの内部構造に集中していれば、おのずと判断と行動の基準が得られたと思う。
■トレンドの本流と傍流を見極めろ!
このように、相場における本流と傍流を見極めることはとても大事であるがゆえに、よく間違われがちだ。
人間である以上、時には迷いや間違いを犯すことは避けられないものだが、大事なのは常に値動きから内部構造のあり方を探り出すこと、また常に自らのロジックを検証し、その正誤を見極めることではないだろうか。
筆者の場合も、3月23日(金)における「一葉知秋」(※)なしでは現在に至るまでメイントレンドの進行を見誤っていたところであろう。
【参考記事】
●ポンド/ドルは今度こそ「教科書どおり」に反落する! ドル/円は引き続き上昇基調か(陳満咲杜、3月23日)
本来、テクニカルアナリシスの醍醐味は相場における内部構造の把握にあり、またマーケットにおける「宿命」的な方向や転換ポイントの発見にあるが、残念ながら、市販の教科書程度の知識と経験では、なかなかそこまでは至らない。
そのせいか、テク二カルアナリシスの視点でまとめられた多くの市況分析は表面的なものにとどまり、単純に価格の高安のあとを追う形に終始してしまっているわけだ。
最近の米ドル/円はその好例であろう。
(※編集部注:「一葉知秋」とは一枚の葉が落ちることから、秋の訪れに気づくこと。わずかな前兆から、ものごとの大勢や本質などを察知することをいう)
■米ドル/円の深押しがなさそうと判断した理由は?
米ドル/円がぐんぐん上がっていくにつれて、85円、87円や90円といった上値ターゲットが多くの方から提示されたが、3月15日(木)の高値から反落してくると、一転して78円、75円など下値ターゲットが提示されるようになった。
そして、トレンドと合っているように見えるから、ついには72円台の下値目標を示すレポートも出回ったほどだった。
こういった下値ターゲットの予測自体は問題ない。しっかりしたテクニカルアナリシスの根拠があれば、基本的に達成する可能性は高くなると思う。
マーケットは何でもありだから、先入観をもって相場に臨むと痛い目にあうことは百も承知しているが、米ドル/円の上値ターゲット(そのほとんどが85円以上)を維持しながら、78円台、あるいはそれ以下の「調整」メドを見込む予測には違和感がある。
だから、先週の当コラムでは、以下の2点を指摘しておいた。
(1)米ドル/円の上昇トレンドは継続されており、早晩85円台を打診するだろう
(2)米ドル/円の調整余地はそう深くなく、一時的に80円の節目を割れることがあり得るものの、79円台前半以下までの深押しはなさそうだ。
実際に現時点での米ドル/円の値動きは、何となく筆者の指摘どおりに動いているように見えるのではないか。
(出所:米国FXCM)
4月16日(月)に、米ドル/円は80.29円の安値をもって調整を完了したように見え、これから同レベルを下回ってこなければ、メインシナリオであるブルトレンド(上昇トレンド)の継続や高値更新を見込めるだろう。
では、筆者はなぜ米ドル/円が79円台前半までの深押しがなさそうと判断したのか。
■エリオット波動論で今の米ドル/円相場を考える
この判断自体がどんな意味合いを持つかを説明するには、エリオット波動論の視点でみないといけない。それには、まずエリオット波動論の基礎知識から紹介しないと、わかりにくいと思うので、ここで少々その基礎知識について触れてみよう。
エリオット波動論の原理では、メインとなる上昇変動が5つの変動波によって構成されるとみなし、それぞれの変動波が1、2、3、4、5あるいはI、II、III、IV、Vといった数字によって記される。
上昇変動の場合、上昇方向と同じである第1、3、5波を推進波と位置づけ、第2、4波を調整波と位置づける。

【エリオット波動に関する参考記事】
●【09年予想】宮田直彦さんに聞く(2) ~エリオット波動の5波にあるドル/円~
●宮田直彦氏に聞く(1) 為替相場は歴史的な大転換点を迎えている!
そして、大事なのは以下の3つの原則があることだ。これなしではエリオット波動論は成り立たない。
(1)調整2波は推進1波のボトムを下回らない。
(2)推進3波は普通もっとも力強い上昇波となるが、そうでなくても推進波のうち、最短波にはならない。
(3)調整4波は推進1波の領域に入らない。
こういった理論にはじめて触れる方にはやや理解し難いところもあると思うが、まずはこれを鵜呑みにして、この3原則をチャートと照らしてみていただきたい。
そうすると、筆者が言う79円台前半より深押しがなさそうな真意を少しおわかりいただけるのではないかと思う。
(出所:米国FXCM)
■“スペイン危機云々によるユーロ下落論”を信じるな!
この部分に関する検証は次回も続くので、今回はこのあたりにとどめるが、注意していただきたいのは、米ドル/円の切り返しにより、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)相場も総じて底堅く展開していることだ。
英ポンド/円のように、英ポンド/米ドルの上昇につられて激しくリバウンドをみせた通貨ペアもある。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 日足)
しかし、こういった見方は一側面を示したにすぎず、逆の言い方もできる。
つまり、米ドル/円と同様、クロス円通貨ペアの反落が調整波であるなら、このあとは高値を更新していくことだろう。
この場合、たとえばユーロ/円の上昇は、米ドル/円だけでなく、ユーロ/米ドルが上昇するか、底堅く推移することなしには実現不可能であることも明白だ。
だから、巷にあふれる“スペイン危機云々によるユーロ下落論”とは距離を置くべきだ。この件の検証も含め、あとはまた来週のお楽しみに!
(4月20日(金) 13時20分 執筆)
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