■NDD最大のメリットは極端に低下するスプレッド
2014年、FX業界で間違いなく注目されるだろうキーワードが「NDD」。NDDとは「ノー・ディーリング・デスク」(No Dealing Desk)の略。通常とは異なるタイプのFX口座で、2013年後半ぐらいから、このタイプの口座がジワッと増えてきている。
ユーザー目線でNDD口座の特徴をひと言でいうと、「スプレッドがものすごく狭くなる可能性がある」ということ。
なかにはセントラル短資FXの[ウルトラFX]のように、ときにスプレッドが「逆転」、つまり、売り値が買い値より高い状態になる口座もある。このような口座では、マイナススプレッドで取引できる瞬間があるわけだ。
【参考記事】
●全約定の50%がマイナススプレッド時!? 目ざといトレーダーが使ってるFX口座とは?
※セントラル短資FXが公表している「ウルトラFXの約定率とスプレッド提示率」より抜粋
なぜ、NDDだとスプレッドが異常に狭くなり、さらにマイナススプレッドになることさえあり得るのか? それはNDDのしくみが、従来のFX口座とは大きく異なるからだ。
■NDD理解のポイントは「約定の主体」にあり!?
「NDD方式を採用しているFX会社はカウンターパーティ(カバー先)から出てきたレートに、FX会社の取り分を上乗せしたレートをそのまま提示します」
そう解説してくれたのは黎明期からFXに携わり、FXのシステム面にも精通するインターネットイニシアティブ(IIJ)所属の尾関高さんだ。
NDD口座とこれまでのFX口座の違いは、「誰が約定を判断するのか」を基準にすると、もっとわかりやすくなる。
「お客さんからの注文に対して『FX会社が約定を判断するのか』、あるいは『カウンターパーティが判断するのか』というのが、大きな違いの1つです。
これまでのFX口座では個人投資家から注文があると、約定させるかどうかを決めるのはFX会社でしたが、NDDではFX会社ではなくカウンターパーティが約定を判断します」(尾関さん)
■NDDでは注文がFX会社を素通りする
原則固定型の従来型のFX口座だと、利用者が注文するとFX会社が約定を判断し(※)、約定後は必要な分だけインターバンク市場へカバーしにいくというのが通例だった。
でも、NDDでは注文があると、それがカバー先にそのまま流れてカバー先が約定を判断する。約定すれば、それは同時にFX会社にとっては、カバー取引が行われたことにもなる。
(※このほか、原則固定型のFX口座では、発注時点でとにかく100%約定させてしまうものもある。「このようなモデルはSTP(Straight Through Processing)と呼ばれています」(尾関さん)。スリッページが原則ないことをうたっているマネーパートナーズ[パートナーズFX]やFXプライム byGMO[選べる外貨]がこのタイプの代表的な口座だと思われる。下図の原則固定型のFX口座はSTPではないタイプを示している)
■NDDではなぜ、マイナススプレッドもあり得るのか?
ここはNDDを理解するための大きなポイント。NDDではレートの提示も、約定の判断もFX会社は「素通り」なのだ。
そして、NDDのカバー先は複数あることも少なくない。それら複数のカバー先が提示する最良の売り値と最良の買い値を組み合わせ、FX会社が自社の取り分を少し上乗せするだけで、為替レートを特別に操作することなく、「素通り」させる…NDDでスプレッドが異常に狭くなり、さらにはマイナススプレッドが提示されることさえあるのは、このようなしくみになっているからだ。
NDDはFX会社ではなく、カウンターパーティ(カバー先)が約定を判断するのが特徴だと尾関さんは話す。
でも、NDDのスプレッドがそんなに狭いなら、はっきり言えばいいのに、NDDでは多くの場合、スプレッドが明記されていない。今までなら「米ドル/円0.3銭原則固定」みたいに基準となるスプレッドが明記されていたのに、これはなぜなのだろう?
その理由は「原則固定」という言葉にある。
「理想のFX口座はいつもスプレッドがタイトで、かつ約定率が100%であること。そこまで完璧なFX口座はありませんが、従来型のFX口座は、なるべく低スプレッドで、かつ高い約定率を維持するため、ディーラーやアルゴリズム(コンピューターのプログラム)を駆使しています」(尾関さん)
■「インターバンクよりも狭いスプレッド」はなぜ実現できる?
「原則固定型」のFX口座で業界トップ水準のスプレッドを提供しているSBI FXトレードの企業理念には「インターバンクより狭いスプレッドを提供する」とある。
インターバンク市場は、FX会社にとって為替レートの「問屋」のようなもの。それよりも狭いスプレッドを提供するというのはありえない話のようにも思えるが、FX会社はあの手この手を駆使しているのだ。
買いの注文がきたら一定の量がまとまるまでカバーしなかったり、売りの注文と相殺させたり、あるいはちょっと先の相場を読んでカバー取引のタイミングをズラしたり。そうした奮闘があって、「原則的に固定」されたタイトなスプレッドを提供してくれている。
■ディーラーもアルゴリズムも入らないNDD
「ところが、そうしたアルゴリズムやディーラーを一切介さないのがNDDなんです」(尾関さん)
その結果、どうなるかというと、NDDのスプレッドは広がったり狭まったりすることになる。つまり、最初に言ったNDDの特徴は正確に言うと、「スプレッドが非常に狭くなることもあるけれど、いつも狭いわけではない」となる。狭いか広いかはカバー先の価格次第だ。
原則固定型でも同じようにカバー先から提示された最良のレートが売りと買いで逆転することもあるだろうが、そのときも基準となる原則固定のスプレッドは維持されたままだ。
その代わり、カバー先から提示された最良のレートが基準となるスプレッドよりも広い場合でも、原則固定の狭いスプレッドを維持してくれる。FX会社がリスクを負ってタイトかつ一定のスプレッドを維持してくれているのだ。
■「透明性」もNDDの大きなメリットだ
NDDと原則固定型の違いを別の側面から見ることもできる。
「NDDではディーラーやアルゴリズムが入らないため透明性が確保されます。これはNDDの大きなメリットでしょう」(尾関さん)
さまざまな方式の口座には一長一短があり、トレーダーは自分に合った口座を選べばいいというのが尾関さんの意見。たとえば、しくみの透明性を重視する人にはNDDが向いているだろう。
1万通貨や2万通貨の取引だと、なかなか気がつきにくいが、注文しても約定されない「約定拒否」(約定不成立)や、クリックしたのとは別の価格が提示される「再提示」は大口トレーダーにとって悩みのタネだろう。
相対取引が基本のFXでは、「FX会社がおかしな価格操作をしているんじゃないか」、「自分だけ約定を拒否されやすいんじゃないか」と疑心暗鬼になることもある。最近ではなくなったと言われるが「ストップ狩り」なんていう言葉もあるくらいだ。
【参考記事】
●一部のネット界隈で囁かれている「ストップ狩り」とはどういうことか?
先ほど出てきたように、NDDではカウンターパーティ(カバー先)が約定を判断するので、カウンターパーティが拒否すれば、約定拒否はやはり起こる。しかし、NDDでは「自分だけが不利な扱いをうけているんじゃ?」といった理不尽さや不透明さを感じることはないはずだ。
市場任せな部分はあるが、スプレッドが非常に狭くなる可能性があること、それに取引の透明性、この2つがNDD口座の大きなメリットとなる。
(「【徹底解剖】2014年大注目のNDD(2) NDDでスキャルパーが歓迎されるワケ」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/和田佳久)
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