■米ドル/円と米雇用統計の結果は関連性が高くない
米ドル/円はまた下げてきた。先週(6月2日~)は米ドル/円の切り返しや米雇用統計の改善で米ドルの上昇余地を期待する向きが多かったが、再度水を差される格好になっている。
もっとも、米ドル/円の動きと米雇用統計との関連性は必ずしも高くないから、足元の値動きについて、筆者としては当然の成り行きだと受け止める。下のチャートをご覧になれば、少々納得していただけるのではないかと思う。
(出所:米国FXCM)
上のチャートは6月7日(土)の作成で、以下当日書いたブログ原文の引用で恐縮だが、短いのでそのまま載せて理屈を説明したい。
「最近米雇用統計の内容とドル/円の値動きを併記したチャート(前月の統計結果、()内は大まかの事前予測)。うん、前回(5月発表の4月統計)、内容自体も、予測との比べもすこぶる良かったが、ドルは上がったのではなく、下がっていた。となると、今回も・・・・・・ちなみに、当方はこのチャートをもってドルが必ず下がるとは言っていない。言いたいのは、あまり関係ねえ・・とのことだ。」
したがって、筆者としては従来のとおり、米ドル/円の100円割れとユーロ/円の136円台打診が時間の問題とみなし、場合によって、それぞれ98円や132~133円の打診もあり得るとの見方を堅持したい。
またゆえに、前回のコラムでも強調していたように、基本的には戻りがあれば、売り好機と見なすべきである。
【参考記事】
●ECB後のユーロのリバウンドを過大評価してはダメ。ドル/円は戻り売りのチャンス(2014年6月6日、陳満咲杜)
■ユーロ/円の下げ幅が米ドル/円より大きい理由とは?
ところで、今週(6月9日~)は、ユーロ/円の下げ幅が米ドル/円より大きい。ユーロ/米ドルの値動きが大きなポイントであったことはもちろんだが、前回のコラムで再度提示したシンプルな方法でも、よく本質をとらえられるのではないだろうか。
ユーロ/円と米ドル/円の週足チャートを比較してみよう。
(出所:米国FXCM)
(出所:米国FXCM)
ユーロ/円と米ドル/円の週足においてRSIが共に大型弱気ダイバージェンスを形成しているが、同シグナル、効いてくるかどうかはRSIの50の水準割れの有無に左右される、ということはこれまでのコラムでも既述のとおり。
【参考記事】
●RSIのシグナルを見るとユーロ/円は最大8円ほど大きく下落する可能性あり!(2014年3月28日、陳満咲杜)
両チャートを比べてみると、同基準で測れば、よりわかりやすいのではないだろうか。
■今後は米ドル/円が円高を牽引する可能性も
ただし、これからずっとユーロ/円が円高トレンドを引っ張っていくかどうかは、なお流動的で、筆者はむしろ出遅れている米ドル/円が再度リードする可能性があるとみる。
何しろ、米ドル/円は2013年6月からRSIが50の水準を何度も割れそうになりながらも、割れずに50以上をキープしてきた。だから、それがいったん50を割れて下放れになれば、大きなマグマの解消を意味し、米ドル/円の下落を強めるシグナルと成り得る。そして、米ドル/円がユーロ/円の後を追ってくれば、円高トレンドも一段と鮮明になってくるはずだ
■米ドル安の受け皿はユーロ以外の外貨に
ところで、マイナス金利が導入され、QE(量的緩和)策も辞さないとのスタンス表明で、ユーロの独歩安が目立つ。
利上げしたNZドル、追随する可能性のある豪ドル、そして早期利上げの可能性を織り込もうとする英ポンドに対して、ユーロは「底なし」の状態を示し、ユーロ安の本格化を暗示している。
前回のコラムでも指摘したように、ユーロ安がいったん始まれば、基本的には長いスパンの下落トレンドを形成していくので、ユーロのリバウンドがあっても限定的なはずだ。
【参考記事】
●ECB後のユーロのリバウンドを過大評価してはダメ。ドル/円は戻り売りのチャンス(2014年6月6日、陳満咲杜)
しかし、前回のコラムでユーロのリバウンドを過大評価してはダメなどと書いたが、その後ユーロはリバウンドなしで下げたので、結果的に過大評価していたのは筆者自身かもしれない。
言ってみれば、この間の米ドル高は、ユーロがその受け皿として集中的に売り浴びせられたからであり、前述のようにユーロクロスも大きな役割を果たしたから、ユーロのリバウンド云々は性急な話だったわけだ。
ゆえに、ドルインデックスの値動きから、足元の豪ドル/米ドルや英ポンド/米ドルの値動きを説明できるだろう。
(出所:米国FXCM)
前回指摘したように、ドルインデックスが6月5日(木)のチャートで示した「フェイク セットアップ」のプライスアクションは、米ドル全体の頭打ちを示唆したから、同高値の更新がないのなら、米ドル全体は調整する運命にある。
【フェイク セットアップの参考記事】
●ユーロのトップアウトがもたらす全面円高。杞憂ではなく相場の「天」は時に落ちる!(2014年5月9日、陳満咲杜)
一方、ユーロはユーロクロス経由の売り圧力でなかなか浮上できないから、米ドル反落(米ドル安)の受け皿は、ユーロ以外の外貨に集中するほかあるまい。豪ドル/米ドル、英ポンド/米ドルの上昇や米ドル/円の下落はその結果であり、また続くだろう。
同じ理屈で、ユーロ/円と英ポンド/円や豪ドル/円との相違は、よく説明できるだろう。しばらくこういった相違が続くので、円高を狙うなら、引き続き米ドル/円とユーロ/円が仕掛けやすいのではないかとみる。
■短期ならユーロ/円より米ドル/円を売る方が適切
また、短期スパンに限っては、ユーロ/円より米ドル/円のほうがより適切かもしれない。
なにしろ、独歩安でひどく売られてきたユーロだが、対米ドルで、なお6月5日(木)の安値をキープしているから、たちまち底割れするというよりも、いくぶん反発の余地があるのではないかとみる。
(出所:米国FXCM)
言い換えれば、6月5日(木)のチャートで示された「フェイク セットアップ」シグナルが完全に否定されていない以上、これからそれがなお効いてくる可能性がある。
■市場はいくぶんユーロ高を演じなければならない可能性も
相場は理外の理、ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利政策は失敗だったのではないかという見方が圧倒的に多かったなかで、ユーロはECBの望みどおり下げているので、今回はECB政策が評価される気運が高まっている。
ユーロ圏各国の長期金利低下に伴い、イタリアなどかつての「問題児」たちの国債利回りも一段と低下し、国債が軒並み急騰している今だからこそ、ユーロ売られすぎ(特にユーロクロスの場合に鮮明)に対する修正が引き起こされ、結果的にECBのスタンスを再検証することになりかねない。
言い換えれば、このままユーロ安が続けば、ECBは量的緩和の必要性がなくなるから、マーケットはいくぶんユーロ高を演じ、ECBの政策を引き出す、といったシナリオも覚悟した方が良さそうだ。
■安倍政権の「第3の矢」はトレンドを修正できないだろう
前回言及していた「官制材料」については、これから法人税減税の発表もあるので、それを聞いてからまた次回にてまとめたいと思う。
いずれにせよ、目先、ユーロ/米ドルやユーロ/円の反発可能性から考えて、円高スピードがいったん弱まる可能性もあるが、円高トレンド自体は不変で、米ドル/円の方がこれから再度円高のリード役として浮上してこよう。
この意味では、安倍政権が発表する「第3の矢」は、結果的に大きなインパクトを引き起こせないことも推測できるから、株にしても為替にしても、トレンド自体を修正できない公算が大きい。市況は如何に。
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