■ジョージ・ソロスはポジショントークをしているだけ
前回のコラムで、「猫も杓子もソロス、ソロスと騒いでいる間は危機はいったん緩和」といった見方を示したが、少なくとも日銀決定待ちの現時点(※)では筆者の想定どおりの展開だ。
【参考記事】
●猫も杓子もソロス!ソロス!李万ショックはまだなのに市場がパニックした理由とは?(2016年1月22日、陳満咲杜)
(※編集部注:「現時点」というのは、執筆者・陳満咲杜さんが本記事のこの部分を執筆していた時点。その後、本記事の執筆終了までに日銀の金融政策決定内容は発表された)
米ドル/円もNYダウも日経平均もいったんリバウンドし、ベア(下落)トレンドにおけるスピード調整を先行させた。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

(出所:CQG)

(出所:株マップ)
もっとも、ソロス氏はご自身の影響力をよく知っている。ゆえに、老獪な同氏が自身の発言を利用しないわけがない。
ソロス氏は中国のハードランディングが避けられないと主張し、米国株、アジア通貨のショートに賭けていることを明らかにしていた。当然のように、マスコミが一斉に報道し、中国政府も躍起になって反論している。
しかし、冷静に考えてみれば、それは氏のポジショントークにすぎないこと、そして、そのポジショントークを通じて市場の反応、中国政府の反応を探っていることも間違いないだろう。
■中国政府はソロスの「孫子の兵法」に翻弄された!?
この真意をおわかりいただくために、ポジショントークの定義から見る必要があるかと思う。以下、ウィキペディアの記述を引用。
ポジショントークとは、株式・為替・金利先物市場において、買い持ちや売り持ちのポジションを保有している著名な市場関係者が、自分のポジションに有利な方向に相場が動くように、市場心理を揺さぶる発言をマスメディア・媒体などを通して行うことを指す和製英語
和製英語だから、このままでは「外人」に通じないかと言えば、そうではないようだ。そもそもこの単語、バブル前に外資系銀行のディーラー同士がだまし合いをしているのを見て、日本人が作った造語。だから、和製英語でも、「外人」もよく知っているそうだ。
いずれにせよ、ポジショントークとは虚実ないまぜで相手の本音を引出し、また相手をだますための戦術だと理解すればよいだろう。
だから、このことに中国政府が躍起になっているのを見て、筆者は中国出身者として恥ずかしい思いが一杯だ。
ソロスとはいえ、一介の民間人。それを国レベルが相手にするとは何ごとだ、大国の風格云々はもちろん、相手は「孫子の兵法」を使っているのではないか。それを見抜けないこと自体、中国官僚の劣化を象徴する出来事であり、また、祖先に申し訳ないのではないかと…。
■ソロスのファンドは実は上海株の下値を拾っている
ちょっと脱線したが、要するにソロスが公の場で自分の手の内を見せてきたら、少なくとも短期スパンにおいては、逆のことを考えないとバカだ、ということである。
案の定、上海株は、ソロス氏の発言に刺激されたかどうかは定かではないが、一昨日(1月27日)13カ月ぶりの安値を更新したところ、ソロスのファンドが実は下値を拾っているといった情報が浮上してきた。

(出所:CQG)
祖先の教えを忘れた中国官僚は、人民元のショート筋に大打撃を与えたと自画自賛しているが、本当にそうであるかは疑わしい。
少なくともソロス氏は発言する前にショートポジションを決済し、場合によってはロングポジションを積み上げていたに違いない。何しろ、メンツを重じる中国政府のお買い上げが容易に想定できたからだ。お見事としか言いようがないが、複雑な気持ちだ。
だから、筆者は先週末(1月22日)から円のショートポジションを持ち始めた。理屈は簡単だ。前述のように、ソロス氏が手の内を見せてきたら、その反対に行かないと逆に怖いからだ。そして、相場の真実とは、「値動きが先行して、材料が後でついてくる」。
■米ドル/円はテクニカル的に上昇のサインが出ていた
米ドル/円でみると、1月20日(水)のチャートが重要な意味合いを示唆していた。この意味合いは、筆者が月曜(1月25日)朝のレポートをもって詳しく解釈していたので、一部を引用し、テクニカル上の蓋然性を説明したい。以下本文。
アナリシス:先週波乱、115.96の安値をトライした後反転、118.77にて大引けした。先週ドル/円の値動き、リスクオフの強弱を表し、原油相場と高い相関性を示し、また人民元より香港ドルの動向がベンチマークと化していたことも重要であった。香港ドルや原油の落ち着き、一時的の可能性が大きいとはいえ、目先リスクオフの一服感が強く、今週為替市場もまず落ち着くでしょう。1月20日罫線、ピンバーの形をもって昨年8月24日安値に迫ったものの、その後反騰し、一種の「フォールス・ブレイクアウト」のサインを灯した(業者によって、8月安値の一旦割れも)。同サインの指示通りなら、今週まずリバウンドの余地を拓き、その後レンジ変動に留まるでしょう。昨年12月18日罫線が示した「フェイクセットアップ」のサイン、強い売りサインと解釈されてきただけに、同日高値123.55を起点とした下落幅が重視され、先週一旦同38.2%反騰位置の118.85をトライ、今週前半における押しが限定なら、同半分程度の119.75前後の上値余地が想定されるでしょう。もっとも、1月19日の罫線もピンバーと数えられ、同高値118.11がブレイクされていた以上、目先サポートになりやすく、また先週末安値117.53も目先の強い支持ゾーンを果たすでしょう・・・・・
■相場のシグナルが先。材料はあとからついてくる
実際、昨日(1月28日)から米ドル/円のさらなる上値余地をなんとなく「警戒」していた。テクニカル上のサインが強かったからだ。このサインに関しては、昨日(1月28日)のレポートにて説明していた。
ドル/円は昨日続伸した。日足におけるプライスアクションの視点では、昨日の高値打診、昨年12月18日高値を起点とした下落波の38.2%反騰位置の打診のみではなく、上放れのシグナルを点灯していた。そのシグナルは22日~26日罫線で形成した「インサイド」の上放れであり、また26日安値が1月13日高値から引かれた元抵抗ラインの延長線の再確認であった。更に、20日罫線が示した「フォールス・ブレイクアウト」のサインに続いているから、蓋然性が高いと見る。従って、昨日高値119.06のブレイクがあれば、120.20前後の上値余地を拓くでしょう。同ターゲット、22日値幅の上乗せとなり、シグナルの指示ターゲットと数える。
しかし、レポートを書いている時点で、何か特別な材料なしでは米ドル/円がガンガン上昇しにくいこともわかっていた。だから、本日(1月29日)、日銀の政策決定が、何かあるのではないかと思った。
このため、円絡みのストラテジーは、ターゲットをすべてオープンにしていたが、まさに本コラムを書いている間に、日銀のマイナス金利導入が伝わってくるとは…。
こう書くのは、自分のアナリシスがすばらしいと言いたいのではなく、「相場のシグナルに追随すれば、材料はあとでついてくる」という相場の真実をただ繰り返し強調したいからだ。今回の事例も然りである。
■マイナス金利導入でも昨年以上の円安は期待できない
さて、日銀のマイナス金利導入は、かなり大胆かつサプライズ的な決定だから、当面円安に作用することは間違いないが、果たして昨年(2015年)高値を超えて円安トレンドを引っ張っていくだろうか。結論から申し上げると、筆者の答えはノーである。
前回コラムの最後に記した、「相場の女神が救いの手を伸べてくれるはずで、その救いをムダにしてはならない」ことを再度強調しておきたい。
【参考記事】
●猫も杓子もソロス!ソロス!李万ショックはまだなのに市場がパニックした理由とは?(2016年1月22日、陳満咲杜)
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