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陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

マイナス金利導入後の残像に翻弄される
市場。ドル/円は102円さえ割らない可能性も

2016年07月29日(金)17:07公開 (2016年07月29日(金)17:07更新)
陳満咲杜

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■日銀会合結果待ちの間も、思惑で荒れた相場に

 相場は荒れている。本記事を執筆しながら日銀会合結果を待っている間も、米ドル/円の乱高下は続き、今朝(7月29日の朝)から「ランダム」な値動きを繰り返しているようにみえる。 

米ドル/円 5分足
米ドル/円 5分足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 5分足

 一時103円の節目まで急落した値動きについては誤発注の観測も出ているが、基本的には日銀政策の不透明性に対するマーケットの神経質さと警戒心の表れだったと思う。

 無理もない。やれ「ヘリマネ」だ、やれ「もっと緩和しろ」だと、いろいろ外部から期待、あるいは圧力がかけられる一方で、日銀は進むも退くも「地獄」の難局に陥っているように見えるからだ。

 「戦力の逐次投入はしない」と豪語し、またサプライズ演出に腐心してきた黒田日銀総裁にとって、こういったタイミングで政策を決定しなければならないというのは、まったくおもしろくないことだろう。というか、「得意技」をまったく発揮できない上、何をやってもマーケットの期待に応えられない恐れが大きい。

 もっとも、日銀は日本の中央銀行として独立性を保たなければならない。すでにアベノミクスのツールと化した日銀の緩和政策に対する批判は根強く、これから、これをさらに推進していくとしても、できれば政府との距離を置いているといった「演出」をしたいところである。

 ところが、安倍さんのやれ20兆、やれ30兆といった財政出動示唆が大きな圧力となり、ここでやらなければ、財政政策との連携を果たせない。悩む、揉める…ということだろうか、執筆中の現時点(12時40分)では、日銀会合の決定がまだ伝わっていない。異常だ。

 その分、マーケットはさらに焦り、また憶測が飛ぶ。午前中の、TOPIX先物の一時売買停止は、マーケットの緊張感を象徴する出来事だと思う。

■日銀結果に失望した市場は、激しい円高になるのか?

 そして、今(12時44分)、やっと出た日銀政策決定は、マネタリーベース80兆円維持、ETF購入6兆円へ増額という内容だった。

 前述のように、事前にマイナス金利の拡大ばかりか、「ヘリマネ」といった過激な観測さえあったから、この程度の内容では、ても市場の期待に応えられるものではない。果たしてマーケットの予想どおり、失望による激しい円高になるだろうか

 現時点(12時50分すぎ)のマーケットを見ると、言われるほど円高の進行が進んでいない。米ドル/円は102.65円程度、ユーロ/円は113.75円程度なので、どちらかというと、正常な値動きの範囲に留まっているように見える。

米ドル/円 5分足
米ドル/円 5分足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 5分足) 

ユーロ/円 5分足
ユーロ/円 5分足

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 では、マーケットが「意外に」冷静だったということだろうか。それとも事前予想自体が間違いで、また、市場関係者の大半が、実は一部の過激な観測をまったく信じていなかったのだろうか。

■マイナス金利導入後の相場の印象が強烈に残る

 マーケットの変動メカニズムは極めて複雑で、一個人、あるいは一集団がすべて把握できるものではない。

 したがって、市場のコンセンサスも所詮、経験値によるものであり、市場関係者の大半が最近の出来事から、これからの市場の反応を推測していく。

 よって、どうしても最近の出来事に影響されがちだ。今回も然り、である。

 なにしろ、日銀政策がどうであれ、失望の円高を招くといった警戒がマーケットには浸透していた。これはほかならぬ、1月末に日銀がマイナス金利を導入したあとの相場が強烈に記憶に残っているからではないかと思う。 

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足

 市場関係者の多くはその後の円高急伸に驚かされ、また、悩まされてきた。だから、こういった経験をもとに、今回のマーケットの反応を推測していたに違いない。

■日銀政策が市場の期待に応えたか否かは問題ではない!?

 しかし、マーケットは常に大衆の意表を突く。市場のコンセンサスが、マーケットに浸透すればするほど、実は効かなくなる傾向がある。

 日銀政策に対する期待が事前に過大、また、過激になればなるほど、「実際の日銀政策がそれに応えられないから円高が進む」といったロジックは、一見正しいように思えるが、ちょっと吟味すれば、落とし穴も大きいことに気づくはずだ。

 今一度、市場関係者の頭に焼きついた、あの1月末・日銀会合後のマーケットを見てみよう。

 1月29日(金)、日銀がマイナス金利を導入したことを受け、米ドル/円は121.69円まで上昇したが、直前にリークがあったため、発表前の段階で米ドル/円はすでにだいぶ上昇していた分もあり、その日の安値から計算すると、約3.45円の値幅を記録した。

 そして、その後、円高が大幅かつ急速に進行したことは記憶に新しい。

米ドル/円 日足(2016年1月29日前後)
米ドル/円 日足(2016年1月29日前後)

(出所:CQG)

 つまり、かなり大きなサプライズであったにもかかわらず、その後のマーケットの反応が円安ではなく、その逆の円高方向に急速に推進したから、日銀政策がマーケットの期待に応えられるかどうかは本質的な問題ではない、といった可能性が示唆されたと思う。

 換言すれば、1月末・日銀会合に対する期待は当然マーケットにもあったが、もっとも過激な予想さえ超えたマイナス金利の導入があったにもかかわらず、円安ではなく、円高方向に進んだのだから、今回マーケットの期待に応えられなくても、必ずしも円高方向に大きく推進するとは限らないのではないだろうか。

 要するに、日銀会合での決定がマーケットの期待に沿ったものかどうか、また、サプライズだったかどうかは一時の反応を引き起こす効果はあるものの、これをもって相場の方向性が決まるわけではなく、いわゆる「失望売り」、「サプライズ買い」といった効果も長くは続かないものだった。このような思考ロジックには、決定的な落とし穴が存在するわけだ。

 実際、憶測によって、昨日(7月28日)から米ドル/円は乱高下し、本日(7月29日)の値幅も執筆中の現時点で2.8円を超えているから、すでにこういった「失望」を織り込んでいる可能性さえある。

米ドル/円 1時間足
米ドル/円 1時間足
 

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足

■米ドル/円は99~100円前後が強いサポートゾーン

 とはいえ、今回の円高がこの程度ですむ、また、これから円安に転換するとも言っていない。

 効果がじわじわ効いてきて、これからいくぶんのさらなる円高があってもおかしくないが、マーケットに事前に浸透していた「日銀政策に対する失望で、急速な円高進行」といった論調とは一線を画したほうが無難だと思う。

 実際、マーケットを「失望」させた今回の日銀会合があったからこそ、我々は冷静にマーケットの推移を見守ることができ、また、その結果を観察することで次のトレンドを推測できるかと思う。

前回のコラムでも指摘したとおり、米ドル/円は基本的に99~100円前後が強いサポートゾーンとなるので、日銀政策やFRB(米連邦準備制度理事会)政策がどうであれ、割り込めなければ、円高一服の公算が高まると思う。

【参考記事】
ハイパーインフレもたらすヘリマネの恐怖。もしかしたら「悪い円安」がすでに進行中!?

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(出所:CQG)

 もっと楽観的な見方として、102円の節目さえ割り込めない、といった可能性もある。市況はいかに。

(PM2:00執筆)

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