■マルチ商法やネズミ講みたいなケースもあるっぽい
ここまで、実態がないから詐欺ではないか? という話を中心に伺ってきましたが、先ほど触れた国民生活センターが公表している相談事例にはもう1つ気になるポイントがありました。
それは、仮想通貨購入を持ちかけられたのが「知人から」というケースが、結構あるように思われることです。
<相談事例>
【事例1】 知人から「5倍以上の価値になる」と誘われ仮想通貨を購入したが、約束通りにお金が戻ってこない
【事例2】 知人から「半年で価格が3倍になり、販売元が全て買い取る」と言われて仮想通貨を購入したが、言われたとおりに買い取ってもらえない
【事例3】 セミナーに参加し、「1日1%の配当がつく」と言われて仮想通貨を預けたが、説明通りに出金できない
※2017年3月30日に国民生活センターがウェブサイトで発表した注意喚起、「知人からの勧誘、セミナーでの勧誘による仮想通貨の購入トラブルにご注意-『必ず儲(もう)かる』という言葉は信じないで!-」より転載
ウェブ上でも、仮想通貨に関する怪しい話を検索してみると、知人・友人からいっしょに投資しないか? みたいな形で話を持ちかけられて出資した結果、トラブルに巻き込まれたというケースが散見されます。
2017年5月には、再度、国民生活センターから「知人から誘われた仮想通貨への投資 もうかるはずが…」というタイトルで注意を促すお知らせが掲載されていましたし、「知人」から勧められてトラブルに巻き込まれるというケースは多いみたい…。

こういうケースを見ると、マルチ商法やネズミ講などを連想してしまうのは、記者だけではないはず…。新たな人を大元の業者に紹介すると、紹介者になんらかの金品などがバックされるアレです。
マルチ商法やネズミ講のような手口で仮想通貨の購入をそそのかしている輩もいるんじゃないか? と思ってしまうのですが…?
これについて山口弁護士の回答は、「今のところ、僕らが認識している限りでは、埼玉県内でそうした事例は見られません」というものでしたが…そういった事例もあるかもしれない、ということで、マルチ商法やネズミ講について詳しく話してくれました。
意外と、その法律的な違いを正しく認識できていない人は多いかも? たとえば、ほら、有名なア○ウェ○みたいなのは、普通に活動していますが、ああいうものは法律的に問題ないのでしょうか?
初歩的な質問に、山口弁護士は、まず、マルチ商法やネズミ講の定義や違いなど基本的なことを教えてくれました。
「はじめにマルチ商法ですが、これは特定商取引法上(特商法)の連鎖販売取引に規定されているものです。その規定の下に、合法的に認められています」
じゃあ、法律的に問題はないってことですね?
「はい。何かしらの利益を分配するシステムである以上、後天的に資金繰りに窮し、破綻して詐欺的被害に陥りやすい、そういう危険性を孕んでいるものであると言うことはできるでしょうし、現実に最終的に破綻し、大規模な消費者被害を生んだ事件もあります。しかし、特商法の範囲内で適切に営業していれば、違法性の問題は原則として考えられないんです。」
では、ネズミ講は?
「ネズミ講には、これを規制する無限連鎖防止法という法律があり、ネズミ講に該当する取引を行うと逮捕されて刑事罰が科されることになっています」
つまり、マルチ商法は特商法の規定の範囲内であれば合法で、ネズミ講は即違法ってことですね? 素人目線だと、マルチ商法とネズミ講のシステムに大して違いはないように見えるのですが…。見分けるポイントはあるのでしょうか?
「この2つの見分け方としては、商品(サービスを含む)の受け渡しの実態があるか? ないか? これが基本的なメルクマールとなります。ネズミ講の場合は、純粋にお金(金品)のやりとりしか行われませんので」

■連鎖販売取引のフリをしたネズミ講の可能性も…
ただし、山口弁護士は、単純にこの見分け方だけでは割り切れない問題があると言います。

連載販売取引と言いつつ、中身はネズミ講といったケースもあるみたいで、素人目には見分けるのが難しい…。山口弁護士いわく、詐欺や詐欺まがいのことをする業者は、「微妙なラインをついてくる」そうだ
「たとえば、セミナー商法(※)みたいな形態が取られている場合、講師っぽい人が出てきて何らかの話をするワケですが、これはとても貴重な話が聞けるセミナーだから受講に50万円や100万円が必要だと言っているとします。感覚的に、それって本当に適正価格なの? と思いますよね?」
(※「セミナー商法」とは、自己啓発、投資、英会話、その他さまざまな名目でセミナー受講者を集め、実質的にはマインドコントロールセミナーなどを受講させることで、受講者から高額な金銭を巻き上げたりする商法)
たしかに…。普段よく目にしている物やサービスならある程度、それがどのくらいの価値があるものなのかわかりますが、セミナーのようなものだと言われた価格が適正なのかどうか、判断しにくいです…。
「そうですよね。一応、『商品(サービスを含む)の受け渡しの実態がある』という連鎖販売取引の要件を満たしていても、実は、それが明らかに市場価格からかけ離れた値段設定だったり、実質的に無価値と評価できる場合であれば、連鎖販売取引と見せかけた金品分配システムと評価でき、ネズミ講であると認定される可能性もあります。
法律上の形式的な要件はありますが、結局は個々の案件ごとに、その実態を見てどうか? ということが大切なんです」
さらに、山口弁護士は続けます。
「実際に、詐欺や詐欺まがいのことをやる業者というのは、微妙なラインをついてきます。純粋なお金のやりとりであればネズミ講と判断されて即違法となり、捕まってしまう。でも、説明したとおり、連鎖販売取引と主張できれば捕まることはありませんから。
いろいろなケースがあるでしょうが、その実態を詳しく見ていけば、連鎖販売取引と言いつつ、実はネズミ講と変わらないモノもあるのではないでしょうか」
消費者被害を専門に扱うベテラン弁護士の中には、「マルチ商法なんて原則違法! 特商法を守ってやっているから例外的に認められているだけだ」と考えている弁護士もいるそうですし、マルチ商法のフリをしたネズミ講もあるなんて話を聞くと、個人的にはマルチ商法自体、限りなくブラックに近いグレーな印象です…。
でも、山口弁護士が言うように、「実態を見てどうか?」って、現実は、なんとも白黒の線引きが難しい話なんですね。
ちなみに以下は、宮野弁護士が最近受けたというネズミ講っぽい相談の概要です。参考として紹介しておきたいと思います。
【宮野弁護士が受けたネズミ講っぽい相談】
その相談者は、ある権利を300万円で購入すると、150万円が紹介者に入り、残りが大元の組織の利益になるという契約書にサインしたが、宮野弁護士が確認したところ、ある権利というのは、「およそ意味の無い権利」だった
⇒ 宮野弁護士は、これは、単純にお金のやり取りしかしないネズミ講だろうと判断したそう

まさに、マルチ商法のフリをしたネズミ講の例ですね…。
(「1日1%の配当」とかいうHYIPも詐欺?相手が海外業者の場合に訴える方法は?」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・向井友代 撮影/和田佳久)
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