■メイ首相の「EU離脱白書」は、「いいとこ取り」か
続いて、6月28日(木)~29日(金)に開催されたEUサミット以降のBrexit関連発言やイベントをまとめてみましたので、ご覧ください。
※参考:欧州委員会 「合意なき離脱」に関する報告書
※筆者作成
この中で特に重要な項目は、7月6日(金)、メイ首相が公式別荘「チェッカーズ」に、閣僚全員とBrexit担当省関係者たちを集めて作成した「EU離脱白書」です。

Brexitを巡る難しい局面で国の舵取りを担う英国のテリーザ・メイ首相。英国初の女性首相で「鉄の女」と呼ばれた故サッチャー氏に続き、2016年、英国史上2人目の女性首相に就任。政治家同士のなれ合いを良しとしないことから、「氷の女王(the Ice Queen)」の異名を持つ。写真は、2017年6月に行われた英下院総選挙時のもの (C)Matt Cardy/Getty Images News
その理由は、11月の最終合意のたたき台となるのが、この白書だからです。
白書の大まかな概要は、以下のとおり。
【「EU離脱白書」の概要】
・ 英国は2年間の交渉期間が終了する2019年3月29日(金)にEUから離脱する
・ 人の移動の自由は制限され、英国の国境監視は英国の手に戻ってくる
・ 毎年多額の拠出金をEUに支払っていたが、その必要はなくなる
・ ビジネスや企業活動にやさしい関税モデル
・ 世界各国と独自の通商交渉が結べる自由を取り返す
・ EUと英国との間に自由貿易地域を創設し、モノや農産物などに共通のルールを設定することが望まれる
・ 消費者や労働者の権利を守り、環境にやさしい基準作り
・ 新規のルールや規制の導入、適用に関しては政府の判断が優先される
・ EU共同農業政策と共同漁業政策から離脱する
・ 欧州憲法裁の管轄から外れ、英国最高裁の優位性が確保される
・ アイルランド共和国と北アイルランド間には、ハードボーダーはない
・ 国民の安全のためにも、EUとの安全保障における協力は継続する
・ 外交政策と防衛政策は英国独自の内容となるが、できる限りEUとも協力関係を密にする
私はこの概要を見た時、英国お得意の「いいとこ取り」の内容であることに加え、私自身が予想していたよりも、やや「ソフトBrexit」に近いイメージを受けました。
あとになってわかったことですが、メイ首相は、白書作成の前日、わざわざドイツに出向き、メルケル首相と会談しています。
これはあくまで憶測ですが、その席で概要を打ち明け、メルケル首相の承認を得たのかも…しれません。
そして、白書作成の3日後、デービスBrexit担当相とジョンソン外相が、白書の内容があまりにも「ソフトBrexit」寄りであるため賛成できないと、辞任を発表しました。
■11月の臨時サミットとEU加盟国の最終案批准が肝!
次に、現時点でわかっているBrexitに関係する今後のイベントを順に並べてみましたので、確認してみましょう。
※筆者作成
2019年3月29日(金)の交渉終了を迎えるまでに、英国が、どうしても解決しておきたいのは…
(1) 2018年11月に予定されている 臨時サミットで本当に離脱交渉が合意に至るのか?
(2)2019年1月末までに英国を含む全EU加盟国がBrexit最終案の批准手続きを終了できるのか?
この2点に尽きると思います。
なお、(1)については、9月10日(月)に、バルニエ欧州委員会主席交渉官が、「6~8週間でのブレグジット合意が現実的」と発言しました(EU negotiator Barnier says that getting a Brexit deal in 6-8 weeks is 'realistic'.)。
同氏はさらに、「EU加盟各国の批准に必要な時間を考慮すると、11月初旬には合意に持ち込む必要がある」とも話しています。
この点については、9月20日(木)にオーストリアで開催されるEU非公式サミットで、11月の臨時サミットの日程を確認するようです。現在、候補として挙がっているのは「11月13日(火)」となっています。
■党大会最終日には、重大発表の可能性も
11月の臨時サミット前に注意すべきイベントは、以下の2つ。
・ 9月23日(日)~26日(水):労働党年次党大会
・ 9月30日(日)~10月3日(水):保守党年次党大会
特に、党大会最終日は、党首のスピーチで幕を閉じますが、ここで重大発表が行われることが多いのが特徴です。
一番最近の例では、2016年6月の国民投票後に開催された保守党大会で、メイ首相は、初めて国民に向けて「ハードBrexit」支持を公表し、英ポンドが急落しました。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 日足)
日本では党大会の重要度が低いため、ピンとこない方もいらっしゃるでしょうが、爆弾発言が出てきて英ポンドが大きく動くことがありますので、しっかりチェックしてくださいね。
(編集担当:ザイFX!編集部・向井友代)
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