■EU離脱案否決にもかかわらず、英ポンドの下落は一時的
マーケットは戦々恐々としながら、2019年1月15日(火)の英議会投票を迎えたが、杞憂に終わった。
メイ首相のEU(欧州連合)離脱案は、歴史的大差で否決されたにもかかわらず、英ポンドは暴落ではなく上昇してきた。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)
また、メイ内閣の不信任案は同じく否定され、メイ首相の続投自体も「サプライズ」と受け止めた方が多いのではないかと思う。

メイ首相のEU離脱案は、歴史的大差で否決されたが、メイ内閣は続投となった
(C)Matt Cardy/Getty Images News
事前の調査では、ウォール街のコンセンサスは「メイ英首相の離脱案が大差(200票以上)で否決された場合は、英ポンドは10%もの下落あり」とのことで、暴落必至とされていた。
実際、230票差で否決されたが、英ポンドの下落は一時的なものに留まり、すぐ元のレベルに回復してきたから、このコンセンサスは見事外れたと言える。
相場は理外の理。今になって「英ポンドがブレグジット混乱でも上昇した理由」といって、この相場を解釈する記事が多数出ているが、相場の理屈であるだけに、たとえ後解釈でも容易ではない。また、すべてを理路整然と解釈できるとは限らず、その解釈が正しいかどうかもまた疑わしい。今回も然り。後解釈ゆえ、その理由やロジックが正しいかどうかは、実際にはわからない側面が大きい。
■市場は事前に英議会投票を織り込んでいた
もっとも、「なぜ」に関して事後にうまく解釈できるかどうかはエコノミストやアナリストたちにとっては、その腕を問われるところだとしても、トレーダーには役に立たない。
トレーダーたる者、「なぜ」を知っていても知らなくても問題ではなく、いかに相場のサインを事前に察知し、また、トレードに生かすかが、本来の務めだと言える。
換言すれば、英議会の審議がスケジュールどおりに行われ、また、大差で否決される可能性が事前にあった以上(情勢は読み切れないが、少なくともその可能性は小さくないとされた)、マーケットは事前にこのイベントを織り込み、「最悪」の結果を含め、その「下準備」をしていた、とみるべきであろう。
そうしたロジックを理解できれば、相場が発したサインを見逃さないというか、市場自体のサインを熟考できる上、市場のサインの指示どおりトレードをできたと思う。今回の件もよい例を示してくれたと言える。
このサインに関する「前解釈」は1月9日(水)のレポートにて配信したが、その原文は以下のとおり。
(出所:FXブロードネット)
先週ポンドは安値を更新してから一転して高く大引け、「スパイクロー」の足型をもっていくつかのサインを点灯した。同サインに鑑み、短期スパンにおけるポンドの上値余地が一段拓けるかと思われる。
まず、その前三週間の罫線、典型的な「インサイド」のサインを点灯、先週の安値更新をって同下放れを果たしたから、本来更なる安値の打診があってもおかしくなかった。しかし、先週の切り返し、また高く大引けがあって、「スパイクロー」のみではなく、その前の三週間に対して、強気「アウトサイド」や強気「リバーサル」のサインを点灯していたことが確認できる。
更に、総合的にみる場合は、強気「フェイクセットアップ」のサインとして読み取る。この場合、安値トライ自体が「ダマシ」だったからこそ、またこの前の数週間の高値をブレイクしたからこそ、一転して上の方向にトライする向きが「セットアップ」され、先週高値のブレイクをもって上値余地を拓く見通し。
従って、先週高値の更新があれば、基本的には同サインの効き目が果たしたとみるべきで、しばらく上値余地を拓くでしょう。相場の値動きが往々にしてファンダメンタルズより先行される可能性があるから、同サインが効いてくれば、EU離脱問題のソフトランディングなど材料の出現も想定される。
■現在の英ポンド/米ドルは、新たなサインを点灯
1月18日(金)現在の英ポンド/米ドルの週足は、以下のとおり。
(出所:FXブロードネット)
先週(1月7日~)の安値をいったん下回ったものの、また大きく切り返してきたから、新たなサインを点灯したと言える。
ここで注意していただきたいのは、先週(1月7日~)の安値に対する一時的な下放れは、英議会によるメイ内閣のEU離脱案否決後の出来事だったが、その後、切り返してきたのはほかならぬ、前述のサインが存在していたからであり、また、同サインが効いたからというほかあるまい。
実際、前出の1月9日(水)レポートにおける「同サインが効いてくれば、EU離脱問題のソフトランディングなど材料の出現も想定される」のロジックは厳密に言えば正しくなかった。同サインが効いたから、「悪材料でも結局、マーケットは動揺せず、サインどおりに動いてくれた」というのが正しいかと思う。
しかし、すでに強調したように、解釈自体が正しいかどうかは問題ではなく、市場のサインの指示どおり、相場の流れをフォローできるかどうかが肝心である。
この意味では、市場コンセンサスを過信せず、相場自体の内部構造に専念することの大切さを再度教えられたと思う。
■過度なリスクオフの流れはすでに修正されつつある
最後に、2019年年初のフラッシュ・クラッシュがあったからこそ、市場は戦々恐々とし、また、コンセンサスとして総じて暗いものが多かったのも仕方がないと言える。
しかし、英ポンドの一件からもわかるように、過度なリスクオフの流れはすでに修正されつつあり、株も米ドル/円も懐疑の中、切り返しの傾向を保っているから、過度な弱気は不要だと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
今回は英ポンドの話を優先したので、米ドル/円の話はまた次回に。市況はいかに。
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